鎖錠の楼閣

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    【神戯】040:神戯に到る〈其ノ漆〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第40話

    040:神戯に到る〈其ノ漆〉


     ――【大聖堂】前の広場の一角からも殯と同じような響きの哄笑が木霊していた。
     時計の針が一時を差す頃には【大聖堂】は荒廃しきっていた。
     何十発と撃ち込まれた“獄焔砲”と言う灼熱の砲撃に因り、見るも無惨な姿を衆人環視に曝していた。場所によっては崩壊を始め、【大聖堂】は徐々にその巨像を保てなくなりつつあった。
    「ギャハハハハハ!! ハハ、ハ、ハー……ヤベェ、笑い過ぎて顎が外れそうだぜ……!!」
     あまりに笑い過ぎて脱力しているのは、全身を黒衣で覆った男――兵麻である。その手からは今尚白煙が立ち上り、先刻までの砲撃の余韻が残っている。
     周囲に群がる傭兵共を蹴散らすために何度か砲撃の対象を切り替えたりもしたが、先刻の一撃で遂に二十発目の“獄焔砲”を【大聖堂】へ撃ち込み終えた。もうこれ以上砲撃しなくとも、自重で崩壊の道を辿るのは明白だ。兵麻は自分の仕事を終えたとばかりに近くにいる筈の同僚へと声を掛ける。
     周囲には最早兵麻に近づこうとする者はいなかった。誰もが彼の実力の程を思い知ったからである。彼の行為を阻害しようとした者が一様にこの世から完全に姿を消した事がその要因となっている。
     兵麻の“幻想武装”は、掌に埋め込まれた『獄炎袋(フレイムブレス)』と言う名の、灼熱の砲台である。空気中の酸素を瞬間的に大量に吸引し、それを炎のエネルギーに変えて射出する装置……故に、酸素が存在する場所であれば無尽蔵に砲撃可能と言う、脅威の代物でもある。
     その仕組みを創造する頭脳、莫大な資金、そして莫大な時間、その何れが不足しても完成は不可能であろう。それを――【燕帝國】は容易く実現してのけた。
     兵麻自身、この兵器がどうやって造られたのか、その過程は与り知らぬ所だが、臓玄の持つ『水錬刀』にしろ、全ての“幻想武装”はたった一人の科学者の手によって造られている、と聞かされている。
     兵麻の持つ『獄炎袋』は科学者の意図に因り、弱点が無い、最強を誇る兵装に成っている。
     酸素を吸引するために必要な時間……まさにその瞬間を狙われれば一巻の終わりだ。そこを狙われないようにするため、『獄炎袋』は酸素を吸引する時間を利用した兵装になっている。簡単に言えば、酸素を吸引した分だけの“獄焔砲”を射出する事が出来る仕組みを取り入れたのだ。
     相手に襲われそうになれば、その瞬間に吸引を止め、灼熱の砲弾を射出する……そうする事によって隙を無くし、更に砲撃の速さの追求にも繋がった。これに因り兵麻は、相手が攻撃する前に一撃で葬り去る戦法を実現させた。先手必勝――それも一撃必殺の攻撃を叩き込めるとなれば、最強を冠しても何の問題も無い……そう、兵麻は信じきっていた。
    (俺様こそが最強……これで国を相手にしても俺様は負けねえって証明になった!! 先手さえ取れりゃ、俺様が負ける事なんざねえんだよ!!)
     そう思いながら臓玄へ振り返ると、彼は彼で『水錬刀』を使って、傭兵を斬り殺している最中だった。
     ――『水錬刀』。兵麻の兵装に似た“幻想武装”で、空気中の酸素と水素を取り込み、水の刃を形成する太刀。
     単純に言えばそれだけの武器だが、これが扱い難い武器だと言う事を兵麻は知っている。
     水を噴出しているだけ、と言うが、その量に因っては水圧が掛かり、振ると言う動作だけでも強靭な力が必要になる。筋力が無い者が扱えば、圧に負けて『水錬刀』が暴走する……臓玄はその点に関して言えば優秀だ。五十メートル近い水の刃を扱う事も出来る筋力を有し、またそれを操作し得る経験も積んでいる。
    (俺様は最強だ……だから、奴の方が、階級が上って言うのは認められねえ。閑也にしたってそうだ。絶対に俺様の方が強ェってのによォ!!)
     憎悪に似た嫉妬が湧く。だが、仲間に手を出す程、兵麻は人間を辞めていない。殺すべきは自身に立ち開かる魯鈍、そして作戦に支障を来たす愚図共のみ。それ以外は勝手に生きようが死のうが何の興味も湧かない。
     嫉妬の対象である臓玄が『水錬刀』を納め、悠然とした歩みで兵麻の許へと戻って来た。
    「ふぅ……そろそろ戦線を離脱するぞ、兵麻。作戦終了時刻に達した今、長居は無用だ」
    「ちッ……もうそんな時間かよ。暴れ足りねえぜ! 臓玄、この辺を一掃してもいいんじゃねえか!?」
     血に飢えた狼の如き殺意に、臓玄は溜め息を零す。諫めるように冷ややかな視線で応じると、否定を告げる。
    「これ以上の殺戮は無用の筈だろう、兵麻。【大聖堂】は直、倒壊を始める。広場に出現した傭兵の七割が死滅。作戦では一時間殺戮を敢行した後は撤収する事になっていた。――まさか忘れたとは言わせないぞ」
     ちッ、と大きな舌打ちを鳴らす兵麻。熟々頭の硬い奴だ、と臓玄を忌々しそうに見やり、肩を竦める。
    「分かった分かった、じゃあとっととずらかろうぜ? ……なぁ、臓玄。これでもう、【中立国】も終わりだな!」
     名残惜しいと思うのは、単にまだ暴れ足りないと思う心がそう思わせるだけだと判っていたが、それとは別に、兵麻の心中に高揚感が湧いていた。一つの国が一夜どころか、僅か一時間で崩壊すると言う現状に居合わせたのだ、心が疼くのも無理は無い――兵麻はそう感じた。
     隣で【大聖堂】の崩壊を見つめていた臓玄が、神妙に頷いて応じた。
    「平和のシンボルであり、国の象徴であり、更に国の中核を為す【大聖堂】が崩壊してしまえば、確かに或る程度は機能しなくなるだろうが……【中立国】がこれで滅亡する事態になると言うのは些か早計だと、僕は思うがな」
    「はぁ!? 何言ってんだ手前、見てみろよ、あのボロッカスにやられた国の象徴をよォ!! 我ら高尚なる国家【燕帝國】の民に因って犯られちまったあの姿を見て何にも思わねえのかよ、手前はよォ!? 世界は今動き出したんだぜ!? 動かしたのは誰だと思う!? この俺様なんだぜ!?」
    【燕帝國】は人間より崇高な存在〈燕人〉の国――そういう理念を念頭に置く兵麻は、〈燕人〉である自分が他国民とは比べ物にならない程に優秀且つ高潔な存在で、他国民――【中立国】にしろ【竜王国】にしろ、彼らは皆〈燕人〉に劣る愚劣で脆弱な存在であると信じきっている、根っからの人種差別者なのである。
    〈燕人〉に支配されるのならば本望だろう。〈燕人〉に殺されるのも本望で、〈燕人〉に犯されるのもまた同義。それを心底から信じているのが、兵麻と言う人間なのである。
     だが、〈燕人〉が皆そうである訳ではない。現に今、兵麻の隣で崩れゆく【大聖堂】を眺める青年は、彼とは全く違う人間性を持っている。
    「確かに今、世界は動いた。【燕帝國】が侵攻を始めた、と知るのはまだ先だろうが、何れは知れる事だ。それを鑑みても、この行為は赦されるモノではないと僕は思うよ。皇帝陛下の考えを、僕は汲み取れない」
    「……はッ、お堅いヤローだな、手前はよ!! 素直に受け入れりゃいいじゃねえか。俺様達はこれから【燕帝國】の英雄になるんだぜ!? 世界統一の覇業を成し遂げた英雄になァ!!」
     臓玄はそれには返答せず、兵麻に背を向けて「――戦線離脱するぞ。“獄焔砲”を頼む」とだけ告げた。
    (面白くねえ野郎だ全く。いけ好かねえとは思ってたが、まさかここまで欲がねえとはな。……おかしな野郎だぜ)
     心の中で吐き捨てつつも、“獄焔砲”の準備に取りかかる兵麻。――その視界に、不思議なモノが映った。
    【大聖堂】の正面入口から姿を現したのは――牙の面を被る男。ただその体は血塗れで、とても生きていられるとは思えない出血が確認できる。立っているのが不思議な位だった。
     何よりその男を見て、脳髄が警告を発している。
    (……あいつ、どうして――――)
     記憶が蘇る。一昨日だ。一昨日、奴は“獄焔砲”で灰燼と帰した、自分に喧嘩を吹っかけてきた大馬鹿野郎じゃないか……!!
     一瞬夢でも見ているのかと思ったが、見間違いではない。確実に奴だ。では何故、一昨日殺した筈なのに、悠々と目の前に立っていやがる……ッ!?
     牙の面を被った男――臓玄の話によると、彼が【竜王国】の英雄、〈牙〉――が血塗れの様相で兵麻に仮面の正面を向けながら、歩み寄って来る。その足取りに兵麻に対する怯えは微塵も感じられない。何の迷いも無く、兵麻の許へと突き進んで来る。
    (……巫山戯るな、俺様は手前を殺したんだぞ!? なのに、どうして――)
     どうして――俺様の体が震えている……!?
    〈牙〉はやがて、兵麻の眼前で足を止める。その表情は仮面のせいで窺い知る事は出来なかったが、何故か兵麻には彼が今どんな表情をしているのか判った。
     ――憤怒。理由は全く不明だが、彼は今、猛烈に怒っている。
     それを理解した上で、兵麻は歯軋りと共に、怒りを発した。
    「手前……どうして生きていやがる!?」
    「どうして俺が生きているか? それはお前が殺せなかったから――“違うのか?”」
     兵麻の怒りに応じるでもなく、〈牙〉は冷然と切り返す。それが更に兵麻の怒りを買った。
     一昨日の再現だった。兵麻の右手が持ち上がり、〈牙〉の体を掌が捉える。掌には穴が穿たれており、そこに大量の酸素が吸い込まれ――――るのと同時に、短剣が突き刺さった。
    『獄炎袋』に、短剣が突き刺さる。
    「いっづァッ!?」
     兵麻が呻いた刹那だった。――右手の『獄炎袋』が暴発したのは。
     轟音と共に凄まじい質量の熱風が駆け抜け、兵麻は思わず尻餅を着いた。――同時に、右腕に掛けて強烈な激痛が駆け抜ける。あまりの痛みに「がァッ!!」と喉から痛覚が変換された声が這い出る。
     爆音が鳴り止む頃、兵麻はやっと自分の身に何が起きたのか理解した。
     右腕が、滅茶苦茶になっていた。――それ以外に表現が出来ない程、肉が裂けてミンチになっていた。服――“幻想武装”である『耐煉鎧(フレアアーマー)』も内側から裂けてボロ切れのようになっていた。
     これでは――もう“獄焔砲”を撃つどころか、普通に動かす事すら出来ない。それを理解した瞬間、兵麻は言葉にならない絶叫を走らせた。
    「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!? なッ、なッ、なッ、何してくれてやがんだ手前ェェェェ――――――――――ッッッッ!? おッ、おッ、俺の手をォォォォ――――――――――ッッッッ!!」
     怒号は内側から破砕された右腕から発せられる痛覚をそのまま声に変換したものだった。兵麻は泣きながら怒号を張り上げ、右腕を左手で庇うように押さえる。グチャグチャにされた右腕を触っても、もう感覚は微塵も無い。まるで右肩から先が全て自分の体の一部ではなくなったような感覚。
     それを見つめていた〈牙〉は、やがて緩慢な口調で呟きを返す。
    「やっぱり、その穴が弱点だったんだな。“先手さえ打てれば”、どうって事は無いな」
    「ゆッ、ゆッ、ゆッ、赦さねェェェェ――――――――――ッッッッ!! 手前だけはッ、手前だけは絶対に赦さねえぞクソッタレがァァァァ――――――――――ッッッッ!!」
     何の策も無く左手を持ち上げようとした兵麻を見た臓玄は、咄嗟に彼の行為を止めに走る。『水錬刀』を“刃”の状態から“霧”の状態へ移行――大量の水飛沫を兵麻、〈牙〉、是烈の三人に浴びせかける。
    「うわっぷ!! 何だこれっ」
     突然浴びせかけられた冷水に驚く是烈。〈牙〉は驚く素振りも見せずに、兵麻の左手へ向けて短剣を投げ――臓玄が咄嗟に兵麻の左手を庇うようにして右手を差し出し、盾となって臓玄の右腕に短剣が突き刺さる。
    「くッ――兵麻、撤収だ!! このままでは君の身が危ない!!」
    「な――ッ、ざッけんなァ!! あいつは、あいつは俺の――――」
    「兵麻ッ!!」臓玄の圧縮された焦燥が大音声で鳴り響く。「……撤収だ……ッ!!」
    「――――ッッ!!」
     今回ばかりは命令に背く。そう、兵麻は決めていた。併し臓玄の心配した眼差しをマトモに受けると、その心情は僅かに変えられてしまった。言い様の無い不快を味わいながらも、兵麻は臓玄の命令に従った。
     左手の『獄炎袋』を地面に向け、小さな“獄焔砲”を放つ。辺りに熱気が立ち込めると同時に、臓玄が『水錬刀』から吐き出される水を“霧”状態に切り替え、辺りを濃霧に変貌させる。
    「〈牙〉!! 手前は絶対に忘れねえぞ!! 絶対に俺が殺してやる!! 絶対にだ!!!」
     最後の最後まで怒りを貫き、兵麻は撤収して行った。必ずや〈牙〉だけは自分の手で殺すと誓いながら。

    ◇◆◇◆◇

     濃霧の中で〈牙〉が「また逃がしたか」と溜息混じりに呟く声が、是烈の鼓膜に届いた。
    「……あの、〈牙〉さん」
    「ん? どうした?」
    「その……今、滅茶苦茶怒ってますよね?」
    「あぁ。今殯を取り逃がした事と、奴の顔を見た事で俺の怒りは爆発している。――それが、どうかしたか?」
    「……いえ、何でもないです……」
    「今ならもっちゃんの気持ちが解らないでもないな。今なら誰でも殺せそうだ」
    「…………」
     是烈は内心で怯えながら、〈牙〉の後ろを歩く事にした。
    「それにしても……くっつくんですね、腕……」
     是烈のポツリと漏れた一言に、〈牙〉は両腕――既に再生を終えた腕の先の指を動かしながら、短く頷く。
    「くっつけるか、或いは取れた両腕を完全に消失させなくちゃ、再生しないからな。……全く、面倒な不死の設定にしやがって……」
    「……何か、本当に漫画でも見ている気分ですよ……でも、爆発で死んだ時はどんな風に復活したんすか?」
    「そりゃー、全身が完全に焼却されちゃったから、その場に一糸纏わぬ姿で出現☆ ――みたいな?」
    「……はぁ、そっすか……」
     熟々凄い人だな、と思わずにいられない是烈だった。

    ◇◆◇◆◇

    【大聖堂】の裏門から抜けた先に在る通りが通称“裏門通り”である。そこには“正門通り”に似た大きな通りが広がり、道を挟んで様々な店が建ち並んでいる。中には木賃宿も在り、“正門通り”ほど眺めは良くないが、あまり表を歩けないような人間が泊まる時には無償で部屋を貸してくれる、そういう人向けの宿が“裏門通り”には多い。
     その一室に二人の〈忌徒〉の姿が有った。
    「……こりゃ酷ぇ……医者に見せないと大事だぜ、こいつァ……。一体どんな得物で斬られたっつーんだよ、えぇ?」
    「……鋸だ。併も錆びついてボロボロに刃毀れした奴な」
    「――クソッタレがッ。殯とか言ったか、そのクソアマ。俺のクロを疵物にしやがって……必ず殺してやるからな」
     部屋には窓は無く、六畳ほどの空間しか用意されていない。一面畳敷きの部屋で、夜でもないのに布団が敷きっ放しになっている。布団は染みだらけで、少し臭う汚さを呈している。土壁はボロボロに剥がれ落ち、壁付近の布団には破片が落ちて積もっている。宿代が恐ろしく安いだけの酷さが前面に押し出された部屋だった。
     染みだらけの布団の上で胡坐を掻いている黒宇の、先が無くなってしまった右肩に、左手と〈在手〉の異能を使って包帯を巻き、梶羽は熱気と共に嘆息する。怒りで脳が滾っていた。〈禍神〉と言う存在がここまで外道な事をする奴だとは思っていなかったが……今はその考えを改めた。何せ、自分の雇用主も似たような〈禍神〉だからだ。
     黒宇の顔色は思わしくない。恐らく、右腕を切除されてから簡単な手当て以外、何もされていなかった事が起因しているのだろう。もしかしたら傷口から雑菌が入ったかも知れないと思うと、梶羽は気が気でなかった。
     そして現状は、その事を鑑みる余裕すらないのだ。
    「クロ、よく聞けよ。手前は今から【竜王国】へ向かうんだ。場所は【砂入(スナイリ)】。そこに、鈴(スズ)って〈義体屋(ぎたいや)〉がいる。そいつに暫く匿って貰え。何なら口説いて義手を造って貰ってもいい。店の名前は〈鈴屋(すずや)〉だ。そこで俺の名前を出しゃ暫くは融通が利くと思う。……出来るな?」
    「【竜王国】……? 俺は、亜鳩を――」
    「ンな事ァ百も承知だ、最後まで俺の話を聞け馬鹿野郎。……いいか、三日以内に俺は〈鈴屋〉に亜鳩を何が何でも連れて行く。手前はそこで果報を寝て待ちゃいいんだ。――言ってる事、解るよな?」
     黒宇は瞠目した。舌が縺れそうになりながらも、口を開く。
    「カジさんにンな危ない橋渡らせられるかよ!! 俺にも手伝わせろ!」
    「阿呆吐かすな! 手前、その腕で何とかなると本気で思ってんのか? 隻腕ってのは、そう簡単に慣れるもんじゃねえんだぞ!!」
     苛立ちをブチ撒ける梶羽だったが、黒宇も譲れなかった。
    「あんたは俺に巻き込まれただけだ!! なのに俺一人指咥えて待ってるなんて出来る訳ねえだろ!!」
    「――解ってねえな、クロ。手前は、俺を利用すりゃいいだけなんだ。仲間なんぞと思うんじゃねえよタコ。単なる駒だと思え。手前が気にする必要なんざねえんだ、それを今すぐ理解しろ」
     静かに、厳然と吐きつけられる言葉に、黒宇は絶句した。咄嗟に声が喉を通らない。瞠目したまま、黒宇は数瞬を置いて、やっと舌を動かす。
    「何……言ってんだ、カジさん。あんたは……あんたは俺の……!!」
    「割り切れ、クロ。そんな甘ェ事吐かしてる時間は疾うに過ぎ去ってんだよ。手前は、“俺を選んだ”。それが全てだ」
     煙草を一本抜き出し、口に咥える梶羽。携帯灰皿を短パンのポケットから取り出して、染みだらけの布団の上に置いて灰を落とす。その所作は泰然としていたが、表情に余裕の色は全く窺えない。――もう、戻れない場所まで来ている。それを今、再び黒宇は痛感した。
     紫煙が漂う室内で、黒宇は奥歯を軋らせる。口惜しさで、脳が痺れた。
    「……それしか、手は無いんだな……ッ?」
    「ふん……手は幾らでも有るだろうが、俺がそれを選んだに過ぎねえ。選べる道が幾つ有ろうと同じだ、結局は誰であろうと一本道を直走る事しか出来ねえんだからな」
    「――絶対に連れて来やがれよ、カジ。それだけは、約束しろ」
     噛み締めるように告げる黒宇に、梶羽は口許に穏やかな微笑を滲ませる。

    「――あいよ」
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