鎖錠の楼閣

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    【神戯】037:神戯に到る〈其ノ肆〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第37話

    037:神戯に到る〈其ノ肆〉


     梶羽と惑香は【大聖堂】の前に拡がる広場の一角で、その瞬間を待っていた。
     広場の一角に建てられている時計台の針が、丁度天辺で重なろうとしている。正午まで、五分も無い。
    「いよいよ始まるな。……惑香、手前まさか、緊張してんのか?」
    「し、してませんわっ! ……ちょ、ちょっとは、してますけど……」
     微かに体を震わせる惑香。そんな惑香の頭をグシャグシャに掻き混ぜて、梶羽は笑う。
    「なっ、何するんですのっ!?」
    「かっかっかっ、犬娘でも緊張するんだな。――なぁに、心配いらねえよ。この俺が付いてんだからな」
    「……それが心配の種なのですわっ!」
     即座に反発するものの、惑香は梶羽を頼りにしていた。彼女がいれば確かに何の心配も要らないだろうと、そんな気にさせてくれる。
     惑香はこっそりと梶羽に感謝の意を呟きながら、再び時計台の時針、分針に目を移す。――もう、重なる寸前だった。
     世界が緊張しているような感覚が辺りに蔓延している。空気が凝固した、とでも言うべきか、誰もが息を呑んでいる気配が、自然と辺りに拡がっている。
     ――ごちん、と。まるで針が動く音が聞こえるかのような、最後の一動き。
     その瞬間だった。世界が、――崩れたのは。
     広場に屯している人間の大半が剣を抜き放ち、【大聖堂】へと雪崩れ込んで行く。門で哨戒していた僧兵は瞬く間に切り伏せられ、止める者のいなくなった広場は、刹那にして荒れ狂う。
     怒号、悲鳴、喊声、絶叫――様々な声が広場を蹂躙し、更なる混沌を極めようと駆け巡る。
     あちこちで武力の衝突が見受けられる。――傭兵と思しき人間達が、同じ傭兵染みた人間に斬りかかる。仲間なのかそうでないのか、それを判断すべき材料は何も無い。ただ、周囲にいる全てが敵だと言わんばかりに、皆、無差別に斬りかかっていく。殺せるのなら誰でも良い――そんな本音が聞こえてきそうな状況だった。
     梶羽と惑香は、状況が一変した刹那に行動を開始する。即ち――【大聖堂】へと駆け込む。脇目も振らずに、全力で足を動かし、【大聖堂】の入口に迫る。既に哨兵だった僧侶は無惨に斬殺されている。まだ息が有る者もいたが、彼らを助けるために駆け込んで来たのではない。全ては作戦遂行のため――二名の〈忌徒〉を探し出し、……殺害するため。
     こうなる事を事前に知らされていた二人は、状況を呑み込めずに混乱するような事は無い。作戦――即ち、広場で発生する混乱に乗じて【大聖堂】へと忍び込み、電撃的に二名の〈忌徒〉を発見、殺害すると言う、単純でありながら大胆不敵な作戦の、これは序幕に過ぎない。
     とは言え、【大聖堂】に忍び込むまでは良いが、〈忌徒〉二名を広大な敷地の中から見つけ出すのは至難の業だ。内部の間取りなら地図を見れば或る程度は把捉できるが、人……併も生きているか死んでいるかも分からない人間となれば難易度は格段に上がる。
     それを可能にするのが、亜鳩と惑香の異能だった。
     亜鳩の異能は〈索図〉――物であろうと人であろうと、地図さえあれば、そして地図上に存在さえすれば、どこであろうと把握する事が出来る。
     惑香の異能は〈敏嗅(フラグレンス)〉――動物染みた嗅覚を有し、どんな匂いでも嗅ぎ分ける事が出来る。
     まずは亜鳩の〈索図〉で大体の場所を特定し、惑香の〈敏嗅〉で目標の許まで辿り着く。亜鳩の異能だけでは、対象が移動している場合を考慮せねばならず、万が一に備えて惑香に付いて来て貰っている。
    (……それに加えて、恐らく惑香は監視役(みはり)なんだろうさ。俺が何かやらかすのを黙って見てる訳にゃいかねえからな……そうに違いねえ)
    【大聖堂】内部に侵入を果たした今、先頭を走る惑香に頼る他無い。事前に亜鳩が〈索図〉で探し当てた場所は、五階の中央に位置する、案内用の地図には記載されていない、謎の小部屋。そこに黒宇が、そしてその隣室に諜楽がいる、と亜鳩が示した。
     階段が在る場所は既に把握している。そこへまず向かうのが先決だが、惑香の先導が何より大事だ。彼女しか今現在の黒宇と諜楽の居場所を知る者はいないのだから。
     走りながらも惑香は鼻をひくつかせ、あちこちに鼻の頭を向けては、十字路を曲がって行く。
    「くん――、こっちですわ!」
    「おーおー、犬娘の面目躍如ってか。流石だな」
    「煩いですわよ!! 気が散りますから、黙っていらして!?」
    「へーへ、……にしても、こりゃやり過ぎだろ」
    【大聖堂】の内部は変化の乏しい通廊が延々と続くだけだ。広大な敷地が加わって、恐らく梶羽一人だったら確実に迷ってしまうだろう。そのあちこちで戦闘が繰り広げられていた。僧兵を相手にしているのは、傭兵と思しき者達。老若男女は関係無く、皆それぞれに得物を握り締めて、僧兵を殺しに掛かっている。
     ――陽動。恐らくは律が雇った傭兵連中だろう。彼らは単に【大聖堂】で暴れてくれと頼まれただけで、何のためであるかまでは説明されていまい。傭兵と言っても、恐らく正規の連中ではあるまい。金さえ貰えば何でもするようなゴロツキが多勢を占めているに違いない。
     全ては二人の〈忌徒〉を殺害するため。たったそれだけのために、何十人もの命がこの世を去って行く。
    (……にしちゃあ、やり過ぎって感じがしやがるぜ。高が〈忌徒〉二人に対して作戦が大規模過ぎる。――そうか、これが【神戯】とかいう、〈禍神〉同士の殺し合いなのか――?)
     思いはしたが、梶羽が口を開く事は無い。惑香の尻に付いて行くだけで、声を掛ける事無く、【大聖堂】内を突き進んで行く。
     そんな折、不意に惑香が口を開く。
    「……カジ。凄く嫌な予感がしますわ」
     顔を曇らせ、鼻をひくつかせながら、惑香が恐る恐る言葉を続ける。
    「酷い、――血の臭いがしますわ」
    「…………!」
     それ以上惑香は何も言わなかったし、梶羽も返答しなかった。
     ――その時だった。【大聖堂】が崩壊するかのような震動に見舞われたのは。

    ◇◆◇◆◇

    「――始まったか……!」
     正午ジャストに【大聖堂】前の広場に辿り着いた〈牙〉は、思わずと言った様子でその情景を見て呟きを漏らす。
     隣に立つ是烈は言葉を失っていた。
     露店を縫うようにして走り回る人達。彼らは皆、腰に帯びていた剣を抜き放ち、誰彼構わず斬りかかっている。まるで、そこにいる全員が咎人だとでも言うように、何の躊躇も無く斬り殺していく。
     それは――確かに〈牙〉の言うとおり、“地獄”と言う形容がピタリと当て嵌まる情景だった。戦争なら、まだ理解できる。だが戦時だとしても、どうして一般人が巻き込まれている? 傭兵と思しき人間が斬殺しているのは、同業者だけではない。その場に偶然居合わせた民間人にすら、刃を向けている。
     屠殺場――そう呼んでも差し支えない悪夢が、厳然と姿を現していた。
    「〈牙〉さん、これは……ッ!」
    「――殯の仕業に見えるが、違うな。……りっちゃんかエンタさんの仕業だな。――急ぐぞ、是烈」
    「急ぐって……こんな状況で、どうやって探し出すんすか!? もう逃げてるんじゃ――」
     是烈の言葉を聞きながらも、〈牙〉は駆け出す。是烈は刹那の放心を殺し、慌てて〈牙〉の後ろ姿を追い始める。
    「殯はな、こういう状況を見ているのが大好きな奴だ。どこかで確実にこの様子を眺めてる。――逃げた可能性も捨てきれないが、俺は俺の直感を信じるぜ」
     無茶だ、――そう思わずにいられない是烈。この混沌を極める最中に、どうやって一人の人間を探し出せようか。幾ら〈牙〉の勘が信じるに足るものだとしても、今回ばかりは無茶が過ぎる。
    「危険過ぎます! 〈神災対策局〉の局員を呼ばないと――」
    「それは〈禍神〉の思う壺だ。混沌が極まれば極まる程、殯が逃げ易くなってしまう。今の内に奴の居場所を突き止める。そして――――」
     言葉は続かず、〈牙〉は跳ぶようにして広場を駆け抜けて行く。是烈も必死に追従するが、本気を出して疾駆する〈牙〉から徐々に離されて行く。やがて〈牙〉は【大聖堂】の中へと入って行き、是烈もそれに続く。
    「ど、どこから探すんですか?」
    【大聖堂】の入口で立ち止まり、大きな案内板を見つめて黙り込む〈牙〉の隣に並ぶ是烈。若干息は切れているが、問題は無い。こういう運動は〈神災対策局〉の局員であれば誰もが一度は経験する。是烈も何度も経験した甲斐あって既に慣れていた。
    「一階ずつ回って行く。十五階までノンストップで駆け抜けるぞ。勿論、全部屋回る」
    「マ、マジっすか……」
    「あぁ、大マジだ。――行くぞ」
     再び全力で駆け出す〈牙〉を慌てて追い駆ける是烈。広大な敷地を有する【大聖堂】である、一階だけでもかなりの時間が掛かるのは明白だった。
     二人の局員の疾走劇が始まる。

    ◇◆◇◆◇

    「――遂に始まった……!」
    【大聖堂】二十八階――党首補佐の執務室。
     そこで白風は三角巾に吊るされた右腕を左手で握り締めながら、眼下に広がる情景を網膜に焼きつけていた。
     眼下――窓の外で繰り広げられる殺戮劇は、正午丁度に始まった。
     平和のシンボル――【中立国】と称する非武装国の中心地で戦闘が行われている事、それ事態が既に異常だ。それも〈神災慰霊祭〉の只中で起こった惨事となれば、民衆が飛びつくのは必至のスキャンダルだろう。
    「にゃひゃひゃひゃ。幕開けにしてはまぁまぁだね。一昨日みたいに派手な催しは無いのかにゃ?」
     野卑な声に振り返ると、ソファに腰掛けた純白のドレスの少女が視線をこちらに向けて嗤っていた。実に愉しげに、口許を歪めている。
     白風は嫌悪感すら懐く少女に、眉根を寄せて怪訝に言を返す。
    「何を仰っているのですか、殯様。この状況が目に入らないのですか? 既に広場は恐慌状態、【大聖堂】内にも多数の賊が侵入しております。これ以上の災厄を望むなんて、何を考えていらっしゃるのです?」
     鋭い諫言に対しても白いドレスの少女――殯は動じない。白風を見つめたまま、ゆっくりした所作で立ち上がる。
    「言わなかったかなぁ、ゲームって言うのは愉しんだ者勝ちなんだよ。勝とうが負けようが、愉しめればそれに勝るものは無い。――そうは思わないかい?」
    「――思いません。ゲームとは言え、これは真剣勝負。勝利以外は有り得ません。貴女が優勝しなければ、ならないのです」
    「くひゃひゃひゃひゃ……。ま、考えとくよ。……さて、賊狩りにでも馳せ参じようかなっ。役者は揃いつつあるんだ、後は役目を果たすのみ」
     執務室の出口まで歩み、扉を開けながら白風を振り返る殯。その双眸には言い知れぬ濁りが満ちていた。背筋を冷たい手が撫でていくような感覚に、白風は身震いする。
    「君も精々頑張りなさいな~。君は、あたしの腹心なんだから、さ♪」
     ぱたん、と扉が閉められる。外から怒号や悲鳴、喚声が響いてくるのを聞きながら、白風は再び窓の外へと視線を投げた。その表情には若干の焦燥が浮かんでいる。
    「巫山戯るのも大概にしろよ、〈禍神〉の分際で……! 人間の底力を今こそ思い知れ……!」
     ギリ、と奥歯を噛み締めた、その瞬間だった。【大聖堂】に轟音と共に立っていられない程の震動が駆け抜けたのは――――

    ◇◆◇◆◇

     視界を埋め尽くす閃光が消え去った後に残ったのは、空虚と呼べる空気だけだった。
    「ギャハハハハハ!! 見ろよ臓玄!! 【大聖堂】の土手っ腹に風穴が出来たぜ!!」
    「ごほっ、ごほっ、……ああ、そうだな。これで戦力の十分の一は削れたかもな」
     哄笑を上げて喜悦を口にしているのは、一昨日広場の一角を焼却してのけた黒衣の男――兵麻だった。先日と同様に、右手の掌から放たれた灼熱の砲撃で、今回は【大聖堂】の一部を焼却していた。
     隣には煤けた顔で佇む着物姿の青年――臓玄の姿が有った。間近で放出された灼熱の砲弾の余波により、全身が若干黒ずんでいたが、動けなくなる程のものではない。それに先日と違って、全身に薄い水の膜が張り、黒ずみや煤がすぐに流れ落ちていく。
    【大聖堂】の前に拡がる広場の一角に佇む二人が、巨大な穴が穿たれた【大聖堂】を見てそれぞれに感想を述べると、兵麻は再び右手に空気を吸い込ませ、【大聖堂】目掛けて灼熱の砲弾を射出する。
     ――凄まじい光圧に続き、爆音が駆け抜け、衝撃が重なり、熱が爆発する。
     そして、再び【大聖堂】の一角に巨大な穴が穿たれたのを、視覚が捉える。兵麻は砲撃の反動が若干後退するだけで済むが、隣に佇む臓玄はそうはいかない。全身に纏わせている水の膜が蒸発寸前にまで熱せられ、且つ衝撃で数メートル吹き飛ばされてしまう。
     メキメキと倒壊する音が辺りに響き渡る。――【大聖堂】の端が軋み、穿たれた巨大な穴を埋めようと、徐々に壁や床が撓みだす。
    「ギャハハハハハ!! 初めッからこうしてりゃ良かったんだよ!! なァ臓玄!? あん中に〈禍神〉がいりゃあ、たったこれだけで一人の〈禍神〉が死に絶えるんだぜ!? こんな楽な任務はねえよ!! ギャッハハハハハ!!」
     哄笑を高らかに上げる兵麻の隣で、怜悧な表情を曇らせる臓玄。兵麻は何かに付けてこの力を使いたがっているようだが、この力は出来る限り秘匿すべきだ、と言うのが臓玄の考えだ。故に、兵麻のやり方はどうも本能が受けつけようとしない。
    (……とは言え、これが皇帝陛下の望んだ作戦だ、僕がケチを付ける訳にもいかない。……併し、これでは〈禍神〉の死体を確認できないと思うのだが……陛下は一体何をお考えなんだ……?)
     兵麻の“獄焔砲”を使えば、〈禍神〉どころか【大聖堂】すら焦土と化す事が出来るだろう。だが、そこまですれば【竜王国】が黙っていないだろう。【中立国】に対してこうまで明確な敵意を持って攻撃を行えば、何れ自分達の事が調査され、行く行くは【燕帝國】にまで累が及ぶ。そうなれば全面戦争は避けられないだろう。
    【竜王国】と【燕帝國】の大戦争――それを調停する存在が今を以て消え失せれば、最早共倒れへと邁進するゼロサムゲーム以外に成り得ない。……いや、【燕帝國】が【竜王国】に負ける道理など無いのだから、これにて世界は【燕帝國】による統一が図られるのか――
    (……皇帝陛下の狙いは、まさか世界統一なのか……? ……彼の願望は忠臣である閑也ですら知れないと言う話だ、僕などが推考しても詮無い事か)
     今はただ、目の前にある問題を片づける――それが、尖兵としてやるべき事の全てだ。そう思い直し、臓玄は兵麻に視線を向ける。彼は既に三発目の“獄焔砲”の準備を終えていた。
     ――やがて世界に、三度目の閃光が瞬く。
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