鎖錠の楼閣

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    【神戯】036:神戯に到る〈其ノ参〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第36話

    036:神戯に到る〈其ノ参〉


     ――遂にその日が幕を開けた。
     数週間振りに出る外は見事なまでの快晴を呈し、アスファルトをじりじりと炙っていた。天道が丁度空の天辺に上り詰めると、辺りの空気は蜃気楼を催す程の熱気に冒される。昨晩が熱帯夜だった事も有り、朝の時間帯でも温度が高く、今頃になると、もう言いようの無い熱気が総身に纏わりついてくる。
    「……こんなクソ暑い日にどうして外に出なくてはならないんですの? わたくし、もう帰りたいですわ」
    「――ん」
    「『ん』って返事しないで下さる!? まるでわたくしが『もう帰りたいですわん』って言ってるように聞こえますわ!!」
    「――ん」
     場所は【大聖堂】と正門の間に拡がる広場の一角。昼に近い時間帯なので多くの人で賑わっている。様々な露店が開かれ、様々な人達が銘々に騒いでいる。
     楽しげな喧騒に包まれた広場は、一昨日の事件を忘れたかのように活気を取り戻していた。
     人込みを縫うように歩いているのは、二人の女性。一人は、ラフなシャツに短パンの梶羽。もう一人は――
    「全く、失礼しますわ! 何度も言いますけれど、わたくしは嗅覚が鋭いだけであって、決して! 断じて! 何が何でも! 犬ではありませんわ!!」
     梶羽に対して怒りを発露させている女性。短く切り揃えた茶髪は、太陽の光を帯びてキラキラ輝いているように映る、綺麗な色をしている。円らな黒瞳は人形のようにくりっとしていて、顔立ちを幼く見せる一因となっている。鼻が低いのも要因の一つだろう。身長も梶羽より随分と低く、百五十ほど。黒いライダースーツのような一繋ぎの服を纏っているため、女性らしい体の線が強調されている。
    「犬娘(ワンコ)って可愛い名前じゃねえか。何でそんな嫌がるんだ?」
    「だッ、れッ、がッ、犬娘ですかッ!! わたくしにはちゃんと、惑香、と言う名前が有りますわ!!」
    「――ん」
    「ですから、わたくしの発言の後に『ん』を付けないで下さいませ!!」
     犬娘――もとい、惑香は苛立ちを隠せない様子で地団駄を踏む。それを見て梶羽は大笑する。
     それが二人の間では茶飯事なのである。
     惑香は憤懣やる方ない様子で鼻息を吐き、「全く……どうしてわたくしがカジなんかと組まなければならないんですの? これならまだ、筋肉馬鹿のカキの方がマシってものですわ!!」と不平不満を垂れ流す。
     梶羽は煙草の紙箱をから一本抜き出し、口に咥えると、ライターで火を点ける――と言う一連の動作を左手一本で行い、紫煙を吐き出しながら口許を微かに歪める。――それは、自嘲とも取れる笑みの形に似ていた。
    「そればっかりは俺に文句垂れても始まらねえぜ、犬娘。任されたからには、やるしかねえだろ。それが――〈忌徒〉ってもんだ」
    「……それは、分かりますわ。けど……どうして、同じ〈忌徒〉であるクロとチョウを……殺さなければなりませんの?」
     惑香の言葉には疑問と無念さがこもっていた。何故? どうして? そんな想いが、梶羽にも伝わってくる。
    「同じ仲間ですのよ? ついこの間まで共に頑張ってきた、仲間なんですのよ? それが、どうして……」
    「――仕方あるめえさ。それが俺達に課せられた任だ。下っ端である俺達がどーこー言って始まるもんじゃねえ。全ては頭の意志さ、手足(まったん)が逆らえる道理はねえ。――だろ?」
    「……割り切っていますのね、貴女は。わたくしは、そんな単純な思考を持ち合わせていませんわ。……偶に、貴女の考えが解らなくなりますわ」
     くっ、と梶羽の口許が更に歪む。自嘲の色が濃くなったが、それもすぐに隠す。
    「そりゃそうさ。俺だって自分が何考えてんのか、自分でも解んなくなる。……手前が解る道理なんざねえよ、犬娘」
    「だッ、かッ、らッ!! わたくしは犬娘ではありませんわ!! 惑香ですわ!!」
    「――それよりも犬娘。手前は気づいてるか? この空気に」
     梶羽の真剣みを帯びた言葉に、「犬娘じゃないですわ!!」と言うツッコミを辛うじて抑え込み、不審そうに眉根を寄せる。
    「……空気? 確かに、今日は一段と暑いですわね。こんな炎天下で祭なんてしてたら、熱中症で倒れる人がどれだけ出るのかしら……」
    「違ェよ馬鹿犬」
    「だッ、れッ、がッ、馬鹿犬ですってェェェェ!?」
    「よく見てみろ。ここにいる連中の大半が帯剣してやがる」
     梶羽の心底馬鹿にしきった声調に怒りを覚えつつも、惑香は視線を、周囲を行き交う人間の腰へと向ける。――確かに、腰に剣を据えている人間が多い。顔つきを見れば、屈強そうな傭兵然とした者から、怜悧そうな優男まで種類はバラバラだが、全員が明らかに周囲に気配を巡らせている。――警戒している、と言っても過言ではない。全員が全員、周囲を行き交う者を威嚇し、敵として見つめている硬い空気を纏っている事が、惑香にもようやく知れる。
    「……き、気づいていましたわよそんな事っ。……血の臭いが酷いから、危険因子が何人か紛れてるとは思っていましたけれど、これじゃまるで、」
    「人殺しの見本市だな。気ィ付けねえと、手前も剣の錆にされちまうぞ」
    「こ、怖い事言わないで欲しいですわっ!」
     ぶるるっ、と体を身震いさせて叫ぶ惑香。その表情が警戒心を露にしたモノに切り替わり、声も自然、潜まる。
    「……彼らも狙いは……?」
    「あぁ、恐らくはあの馬鹿でかい棺桶で眠る〈禍神〉様のご降臨を待ってんだろうよ。くくっ、ようやく真実味が出てきたじゃあねえか、〈禍神〉とやらの存在のよぉ……!」

    ◇◆◇◆◇

     ――同時刻、〈神災対策局〉【真央都】支部。
     局員専用仮眠室に数名の局員が集まって佇んでいた。
    「……やっぱり被るんですか? その仮面」
     その一人――昨日首都入りを果たした朔雷が、不満そうな表情で、仮面を被ろうとする少年を見やる。
     牙の面を被ろうとしていた少年――冴羅は、その手を止める事無く、装着を済ませてから応じる。
    「俺はこれを被って初めて君らの局長でいられるからな。あくまで〈牙〉が局長であって、冴羅は局長ではない」
    「そうですが……」
     朔雷が納得できない雰囲気を纏い、残念そうに俯く。
    「……格好良いのに」
     朔雷の口からポツリと本音が零れるが、誰かに聞かれる事は無かった。
    「――〈牙〉さん。遂に牙城に乗り込むんですね? お供しますよ」
     仮眠室にいる三人目の青年――是烈が意気込む。軽度の火傷を負ったとは言え、その程度で戦線離脱する程、彼は自分が温室育ちではないと自覚している。それに、〈牙〉の護衛を果たす時が来たのだ、そんな時に自分がヘバっているなど考えられない。
    〈牙〉は短く顎を引き、腰掛けていたベッドから立ち上がる。
     その様子を見上げるようにして見つめていた朔雷が、不安げな表情で声を掛ける。
    「無理は為さらないで下さいね、局長。貴方がいなければ、〈神災対策局〉は立ち行かないのですから……」
     ベッドに腰掛けたままジッと〈牙〉を見据える朔雷。そんな朔雷の頭にぽん、と手を置いて〈牙〉は告げる。
    「俺は死なないさ。……そう、まだ死ねないんだよ、俺は」
    「局長……?」
    「――朔雷、今日一日だけ君にここの支部長になって貰う。支部長には事前に話を通しておいた。今日一日は君の采配で局員を動かせる。有事の際は、君の判断で局員を動かすんだ」
    「は……はいっ!」
     慌てて返答を返す朔雷。〈牙〉は「それと、」と更に付け加える。
    「局員全員に言って貰いたい事が有る。【大聖堂】には近づくな、――と。あそこは今日一日限定で、地獄と化す筈だ。俺と是烈が戻って来るまで、どんな騒ぎになっていようと、近づかせるな。――良いな?」
    「……それは、助けられる民間人を見殺しにしろ、と言う意味ですか?」
     言い方が悪いのは分かっていたが、朔雷は敢えて厳しい物言いで尋ねる。〈牙〉は朔雷を見下ろしたまま暫く黙り込んでいたが、やがて徐に口を開く。
    「――棺桶を、増やしたくないんだ」
    「ですが、それは〈神災対策局〉の理念に反するのでは? 救える人間に手を差し伸べる……弱者の味方をするのが、我々の使命ではないのですか?」
    「朔雷、お前――」
    「是烈は黙ってて。私は今、局長と話してるの」
     朔雷の鋭い返答に是烈は思わず閉口する。何をそんなに怒ってるんだ? と是烈は訝りを含んだ視線で朔雷を見据えるが、彼女は頑として〈牙〉から視線を外さない。
    〈牙〉もまた、朔雷を見据えたまま仮面を逸らそうとはしなかった。
    「“弱者には救済の御手を。悪者には万死の鉄槌を”……それが俺達の、〈神災対策局〉の方針だったな。……そうだな、そうだったよ。〈神災対策局〉は、そういう人間の集まりだった」
     自嘲――そう感じさせる笑声が、〈牙〉の仮面の中から漏れ出る。是烈と朔雷が、一瞬彼が本当に〈牙〉なのか疑ってしまう程に、いつもの彼とは何かが違っていた。
    「〈牙〉、さん……?」
    「――好きにしろ、朔雷。今日この日だけは、君がここ――【真央都】の支部長なんだ。君の采配に任せる」
    「……投げるんですか、何もかも」
    「俺は忠告した筈だがな。近づかない方が良いと。だが、決めるのは君だ。……任せたぞ、朔雷」
     朔雷に背を向け、仮眠室を後にしようとする〈牙〉。是烈は慌てて追従しようとして、ベッドから立ち上がる。
     朔雷はベッドに腰掛けたまま、視線を〈牙〉の背中に突き刺し、微動だにしなかった。
    「――忘れていませんよね、局長」
     ぴた、と〈牙〉の足が止まる。是烈もそれに倣って動きを止め、朔雷を振り返る。
     朔雷は先程とは違い、悄然とした表情を滲ませて、静かに〈牙〉を見つめている。
    〈牙〉は背を向けたまま、小さく肩を竦め、短く言を返した。
    「……夜までには帰る。“是烈と一緒に”、な」
    「――絶対、ですよ?」
    “絶対”を強調して告げる朔雷に、〈牙〉は肩越しに振り返って言を返す。
    「あぁ、絶対だ」

     時刻はやがて正午に辿り着く。
     開幕のベルが今、鳴り響く――――
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