鎖錠の楼閣

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    【神戯】035:神戯に到る〈其ノ弐〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第35話

    035:神戯に到る〈其ノ弐〉


    【大聖堂】――地下空洞。
    〈神災慰霊祭〉が始まるのは今日の正午ジャスト。恐らくその時刻を狙って〈救世人党〉に総攻撃が仕掛けられる……そう、白風は気づいていた。
     党首補佐専用の執務室からエレヴェーターを使って、殯の許へと辿り着いた白風は、若干上気しつつも声を上げる。
    「殯様っ! どこにおられますか!?」
     荒い呼気と共に吐き出される、熱のこもった大声。痛み止めを打ったとは言え、体は風呂上りのように火照っている。まるで風邪でも引いた時のような状態だったが、それでも白風は構わず殯を呼び続ける。
    「殯様っ!」
    「はいはーい、ここにいますよーっと」
     暢気な歩調で現れた純白のドレスの少女――殯は、含みを持たせる、どこか陰鬱な色を口許に刷き、白風に声を掛ける。
    「どしたの? 今は安静にしてなきゃいけないんじゃない?」
     殯の上辺だけの心配を、白風は軽く無視した。
     殯が上辺だけでも心配している要素は――間違い無く、彼女の視線の先に有る。――三角巾に吊るされた、白風の右腕。
     折られた右腕の橈骨と尺骨。骨が綺麗に折られていた事と、〈救世人党〉の医療班の発展した医学を以てすれば、一週間も有れば完治する、と診断された。
     本来ならば殯の言う通り絶対安静していなければならないのだが、そんな事が出来る程、今の事態が思わしくない事ぐらい白風は察していた。そうでなくとも手術後に半日以上も眠りこけていたのだ、これ以上無為な時間を過ごす訳にはいかない。
    「それどころではないのは、貴女もご存知の筈では? 殯様。〈神災慰霊祭〉――【神戯】開始まで残り十二時間を切ったのですよ? もう猶予は御座いません。如何為さるおつもりなのですか? ……お教え頂けますね?」
     もう問答する時間も勿体無い――そう言の葉に載せて声を発する白風。
     対して殯はどこ吹く風とでも言いたげに、涼しげな表情を崩さない。寧ろこの状況を愉しんでいるかのように、ほくそ笑む余裕が介在していた。
    「十二時間もあれば何が出来るかにゃ~? 一人の少年の精神を完膚なきまでに破壊し尽くすのも愉しそうだよねぇ? 或いは殺しちゃえばいいかにゃ? それとも――」
    「殯様! 事態は一刻の猶予を争うのですよ!? そんな悠長に構えられては、勝てる戦も――」
    「勝てる戦なんざ端ッから存在し得ない。初めから決められた勝負なんて無いんだよ? シロちゃん。全ては結果論だ。備え有れば何とやらとは言うけれど、それにしたって結末から見て、『そうしとけば良かった』、『そうしといたから良かった』、どちらかだろう? もっと楽に構えようよ? ゲームは、愉しんだ者勝ちなんだよ♪」
     ……ゲームじゃない。ゲームなんて言葉が当て嵌まる筈が無い……っ!
    【神戯】と銘打つ、これは――命を懸けた殺し合いだ。
     ゲーム感覚で行える筈が無い。自分の命を天秤に掛け、相手の人生を粉砕する、その行為をどうして遊び半分で行える? 真っ当な精神を持つ者で在れば、その時点で異常を来たしてもおかしくない極限状態で、彼女は――“愉しめ”と言う。
     狂(イカ)れている――それ以外に、彼女を称する言葉は有り得ない。
     正常な魂が近くに有るだけで、その輝きを穢されていくような悪寒が、白風の総身に纏わりついた。悍ましいなんて言葉さえ温い。
    「……では、如何為さるおつもりですか? まさか、この期に及んで無策と言う訳ではないのでしょう?」
     自然、声が震えそうになるが、辛うじて理性がそれを抑え留める。白風は必死に、彼女と相対すべく、神経を摩り削る道を選んだ。
     殯は〈禍神〉の一人。彼女が全ての〈禍神〉を殺し尽くした後に、白風自身の手によって、葬り去る。そう、決めたのだ。そうしなければ、人類は助からないとさえ、感じている。〈禍神〉が一人でも生き残れば、世界は変わる。――〈禍神〉の色に、塗り替えられてしまう。
    〈救世人党〉は〈禍神〉の手によって生み出された組織だと言われても、白風の想いは変わらない。〈禍神〉の手から、世界を、人類を、未来を護ってみせる。そのためには、彼女は不要な存在だ。殺さざるを得ない存在だ。
     その相手に嫌悪こそ懐け、恐怖を懐いてはならない。それは即ち、自分の手を強張らせてしまう事に他ならない。
     油断はしない。隙も見せない。でも――そこに躊躇が生まれてしまえば、全ては泡沫に帰してしまう。それだけは、忌避せねばならない。
    「うふふぅ♪ さぁて、どうしよっかなぁ?」
     極上の笑顔を振り撒いて嘯く殯。その顔には満遍無く邪念が塗りたくられ、見るだけで嫌悪を通り越して吐き気を覚えた。
     瞳を眇め、白風を見つめる眼差しは、まるで白風の内面を普く見透かすような意志が見受けられ、その視線を受けるだけで気分を害してしまう。
     今、思い知った気がする。白風が相対する、娘の皮を被った〈禍神〉は、想像以上……否、想定を遥かに上回る邪気を秘めている。謀略など、その断片に過ぎなかったのだとも、やっと気づく事が出来た。
     殯は、――悍ましい。白風の中で、やっと彼女に対する印象が確立した。
    “悍ましい”殯は極上に邪悪な笑顔を振り撒いたまま歩み寄り、白風の顎に指を這わせる。
    「まだゲームは始まっていないんだよ? シロちゃん。焦っちゃダメだよ、存分に愉しまないと♪」
    “つ”、と顎を這う指に悪寒を覚えた白風だったが、体が強張って動かない。殯の蛇染みた瞳に射竦められ、身動ぎ一つ取れなかった。冷や汗が、背筋を凍らせるように、流れ落ちる。
    “にぃ”、と殯の口唇が歪み、人差し指が顎を離れる。視線も逸らし、殯は本棚に片づけられている書籍を一冊、取り出した。それを流し読みしながら、白風へ言葉を掛ける。
    「【神戯】が始まったら、あたしはここを出るから~。あたしの兵装を準備しといてね。あと、お金の問題もヨロ。最低限それだけしてくれたら、後は好きにしていいよ。……ゲームは、皆で愉しまないといけないからね♪」
    「……御言のままに」
     これ以上精神を冒されたくないとばかりに、白風は踵を返して地下空洞を立ち去った。彼女と同じ空気を吸っていると思うだけで、肺が腐敗していくような錯覚が生じる。価値観が一瞬にして変容させられてしまった。
     エレヴェーターに乗り、扉が閉まった直後――白風は跪いた。荒い呼気が露になり、涙腺が決壊し始める。
    (……私は、何と恐ろしい存在を相手にしていたのだ……ッ!!)
     五年もの間、何故一度として気づかなかったのか。あの悍ましさに、あの恐ろしさに!
    〈禍神〉は“神”を冠しているが、その実は化物だ。過去にそう感じた価値観は、決して間違ってはいなかった。それこそが真理だったのだ。
     小さな筐体の中で、白風は絶望を噛み締めた。アレを、自分は殺めなければならないのか。そう思うだけで胸が張り裂けそうだ。出来る訳が無いと、本能が訴える。脳髄が悲鳴を上げている。
     エレヴェーターが執務室の本棚の間から姿を現しても、白風は暫く、その場を動く事が出来なかった。

    ◇◆◇◆◇

     ……これは夢だと、黒宇は認知した。
     それは、酷い悪夢だった。黒宇の精神を蝕む、害悪に満ちた光景だった。
     流れる映像は、自分が気を失っていた間の、情景。
     ――あらら。男の子は一発で気を失っちゃったのかぁ。それじゃ、女の子。君が全てを背負わないといけなくなっちゃったよ?
     ――ひっ、い……ッ、全てを、背負う…………?
     黒宇には、本来なら見えない情景だ。その時黒宇は気を失っていたし、何より、首の拘束具のせいで、そちらを向く事など出来なかったのだから。
     ……なのに、悪夢はその情景を事細かに再現している。
     諜楽の怯えきった相貌、ペンチを握り締める殯、その濁りきった眼差し。
     夢の中だと言うのに、嗅覚さえその時を再現する。――得体の知れない、臓腑を締め上げる臭素。それが鼻腔を貫き、肺を徐々に冒していく。
     赤く泣き腫らした瞳で殯を見据える諜楽は、恐らく首を振っているだろう。“いや、いや”と無声で伝える、その意志を、殯は心地好く受け取り、更に笑みを深めていく。
     ――ペナルティみたいなもんさ。相方がこんなだから、『拷問ゲーム』は破綻した。なら、誰が責任を取るんだい? ――“君しか、いないじゃない♪”
     殯の握り締めるペンチの先が、諜楽の中指を掴む。――掴む、なんて易しい表現は間違ってる。中指を、“押し潰した”。
    「あッ、あッ、あッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
     耳元で弾けた喚声に、黒宇は閉じていた瞼を一瞬で持ち上げる。
     視界が僅かにぼやけている。ピントが合うまで時間が掛かったが、すぐに自分がどこに居るのか把捉した。――拷問部屋だ。
     緑色のタイルが敷き詰められた空間は、濁った空気が充満している。息苦しさを覚えると同時に、吐き気を伴う感覚が喉元にせり上がる。
     頭がどこか焦点の合わない感覚に見舞われていた。すぐにここが拷問部屋だと理解したにも拘らず、自分が何故ここにいるのか、どうして首が動かないのか、そもそも体がどうして指一本として動かないのか、何一つ思い出せない。
     ぼんやりと、透明な液が膜を張る瞳を汚れきったタイルへ投げていると、不意に視界に一人の少女が入り込んできた。
     純白のドレスを纏った、長身の少女。歳は十代後半だろう、自分より少し年上と言う感じのする少女だ。薄い茶の髪を腰に届く程に伸ばしていて、それが歩く度に靡く。暗い青色の瞳で見据えられても、黒宇は数瞬、彼女が何者なのか分からず、虚ろな眼差しで応じる事しか出来なかった。
    「おはよう、クロくん。お目覚めは如何かな? 良い夢は見られたかい?」
     ――刹那に、彼女は敵だと、脳髄が痺れに似た信号を発した。
    「――――手前ッッ!! チョウをどこにやった!? ぶち殺すぞ、あァ!?」
     噛みつかんばかりに首を動かしたが、拘束具のせいで全く届く事は無い。“スイッチ”を使っても、ミシミシと体が悲鳴を上げるだけで、拘束具は外れない。ただ、繰り返せば外れそうな感じはしている。
     純白のドレスの少女――殯はその様子を見て愉しげに口唇を曲げる。手には、先刻とは違い、――鋸が、握り締められていた。
    「チョウちゃんはねぇ、どうなったと思うぅ? まだ、生きてると思うぅ?」
    「手前……ッ!!」奥歯を噛み砕かんばかりに軋らせる黒宇。
    「さて、そんなどうでもいい事は措いといてさ、――ラストゲームを始めようじゃあないか。内容は実に簡単! あたしがこの如何にも切れなさそうな刃毀れしまくってる鋸で、君の腕をぶった切っちゃいます♪“それだけ”」
     煮え滾る黒宇の思考では、殯の告げるゲームの内容を把捉するのに無理が有り過ぎた。
     数瞬黒宇は沈黙を返していたが、やがて瞠目して、近寄って来る殯を認める。
    「お、おいッ、巫山戯んなよ!? 何だそりゃ!? 俺の腕をぶった切る……ッ!?」
    「そだよぅ。特に意味も無く、君の腕は斬られまーす♪ ただ刀とか剣でスパーッと斬っちゃうのは味気無いじゃない? じっくりと鋸で切り落とした方が、やり甲斐有るじゃない♪」
     歩み寄ってきた殯が持つ鋸――大量の血液が付着した、刃毀れを起こしているその歯を、黒宇の右肩に添える。“ひた”、と冷たい鋼の感触が、黒宇の皮膚に下ろされる。
    「や、止め――――ッ」
     ――――“ぎゃり”、
     鋸の歯が、黒宇の肩に食い込む。――悍ましい鋼の擦れる感覚が、黒宇の総身を蹂躙する。
    「――――――――――――――――――――」
     言葉にならない絶叫が、黒宇の喉から迸る。
     ぎゃりぎゃり、と鋸の歯が上下運動する度に、黒宇の肩は抉られていく。鮮血を噴出し、徐々に肉色をした部分が露出し始める。
     ぎゃりぎゃり、ぎゃりぎゃり、ぎゃりぎゃ――――“ごり”、
     鋸の歯が柔らかい肉を悉く抉ったかと思うと、急にその動きを鈍らせる。硬い部分に到達したのだ。
     骨。
     骨が削られる悍ましい感覚と共に、黒宇の体が揺さ振られる。
    「――――――――――――――――――――」
     最早、黒宇から出る声に、疎通すべき意志など無かった。痛覚をそのまま絶叫に転換しただけの、何の意味も持たない声の連続。
     上げたくて上げている訳ではない。痛覚が勝手に絶叫に変換されるのだ。痛苦を感じ続ければ、絶叫も出続ける。ただ、それだけの事でしかない。
     ごり、ごり、ごり、ごり――――
     骨が、歯の上下運動で徐々に抉られていく。その度に黒宇は、痛覚に限界が無い事を思い知らされる。際限の無い痛覚は、まさに末期の世界――地獄を連想させる。
     どれだけ叫んでも、どれだけ訴えても、不変の痛覚に苛まれる悪夢。
     ごり、ごり――――みり、みりみり、
     やがて、骨が――切断される。
     もう痛覚も、絶叫も、知覚できる場所に無かった。思考が徐々に壊れていく。
     みりみりみり――――“ぶちり”、
    “ごと”、と重たい何かが落ちる音。同時に、感じていた痛苦が僅かに止んだ。
     やっと自身を苛む悪夢から解放された、その感覚で総身は埋め尽くされた。
     顔はもうグチャグチャだった。液と言う液を垂れ流し、果てた様相を呈した表情で、黒宇は破壊された意識に埋没する。
    (……俺は、)
     ――何をしているんだろう。
    (……そうだ、)
     ――帰らないと。亜鳩の許へ。護らなければならない、彼女を。
    (……帰らないと、)
     ――帰らないと。かえら――ない、と。
    「ふぃー……いやぁ、中々大変だね、鋸で腕を切り落とすのは。ここまで重労働だとは思わなかった。昔読んだ小説の殺人鬼がさ、割と簡単にやってたから、あたしも出来るかなーって思ったのが間違いだったかも。でもまっ、やれば出来るもんだね♪ 後は医療班に死なない程度に応急処置を施させれば、十日くらいは苦しみながら生き延びれるでしょ♪」
     声が聞こえる。敵の声が。
     黒宇は最早反応するのも億劫で、胡乱な顔つきのまま、僅かに総身を苛む痛苦に身を委ねていた。
     もう護れないのか。自分はここで終わるのか。自分はここで――――死ぬのか。
     殯の指が、黒宇の顎を這う。顔が至近距離まで近づき、息を吹きかけながら言葉を紡ぐ。
    「君は光栄にも選ばれたんだよ。君には資格が有るんだ、――“魔王を屠る資格が”――ね?」
     殯の手がゆっくりと黒宇の瞳を遮り、瞼を下ろしていく。
     やがて世界は闇に包まれた。もう二度と幕が開かなければいいと願いながら、黒宇は意識を微睡みへと埋没させていく……

    「……おやすみ、勇者様――――」
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