鎖錠の楼閣

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    【神戯】034:神戯に到る〈其ノ壱〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第34話

    034:神戯に到る〈其ノ壱〉


    〈異人研究室〉――【中央人民救済枢軸国】支部。
     地下に設けられた施設の一室で隻腕の女――梶羽は左手一本で小さな用紙に文字を連ねていた。達筆と言う訳ではないが、誰でも読めると言う意味では綺麗な字体をしていた。
     部屋は〈忌徒〉だけでなく、職員全員に割り振られた居住空間の一つで、あまり広いとは言えない造りになっている。ベッドと小さなデスク、洋服箪笥が在るだけで、見た目は質素そのものだ。トイレと浴槽は扉越しに分けられており、今は電気が消されて沈黙を守っている。
     梶羽はいつものラフな格好――胸元を隠す程度のシャツに半ズボン姿で、デスクに向かっている。その黒瞳には冷たい光が宿り、誰であろうと寄せつけまいとする気を纏っている。
    「…………」
     黙々とペンを走らせる姿は、傍から見れば隙だらけに映っただろう。だが、部屋には誰もおらず、扉も閉められている。見られる事は、万が一にも有り得ない。
     ――扉が、音も無く開く。
     実際には音はしただろうが、集中している梶羽には聞こえない程の微細な音で、扉がゆっくりと、実に緩慢な動きで開いていく。
     梶羽は気づく事無く、ペンを紙上に走らせ続ける。それも仕方ない事だった。扉を開けて入って来た者は、そういう異能を懐く者だったのだから。
     梶羽が気づく事は無い。そして、見つける事も出来ない。侵入者は視界に映っても知覚される事の無い、まるで空気のような人物なのだから。
     侵入者は無音のまま梶羽の背後へと近づく。そして、何の細工も無しに、用紙に視線を向けようとして、
     ――刹那、視線が天井に向いた。
    「ごほッ」と咳き込み、やっと喉に圧迫感を覚えた侵入者は、視界に豊満な胸と、女の野卑な顔が映ったのに気づいた。
     侵入者の体に跨り、梶羽は左手で半ズボンのポケットから煙草の紙箱を取り出すと、一本引き抜き、口に咥える。その動作を左手で行っているのに、侵入者は喉を締め上げられたまま、身動ぎ一つできなかった。
     梶羽は更に安物のライターを取り出して煙草に火を点けると、紫煙と共に、侵入者の顔に言葉を吐き出す。
    「よぉ、やっと拝顔できたな? 気配が全く掴めねえからどうしようかと思ったが、やっと尻尾出しやがったなクソッタレ。――で、手前は誰の使いだ? 十秒やる、それまでに言わねえと、その目を潰す」
    「あっ、あっ、待っ、待ってっ!」
    「こちとら時間に余裕がねえんだよ、加えて俺は短気なんだ、とっとと吐きやがれ。――“あと三秒”」
     侵入者は眼前に近づいて来る煙草の先端の紅玉に、瞠目させていき――――
    「――男は狼とよく言いやすが、稀に女にもいるんすねぇ、――“狼”」
     煙草の燃え滾る先端の動きが止まり、侵入者の瞳の目前から、引いていく。
     侵入者は胸の上に跨る梶羽から、扉の方に視線を向け、視界に糸目の少年を捉える。
    「女の部屋にノック無しで入り込む奴が何ほざいてんだ? 手前こそ内心俺を襲いたくて堪んねえんだろ?」
    「くっくっくぅ……。襲う前に襲われるのは目に見えていやすよ。――梶羽、そいつを離して下せぇや」
    「室長さんよぉ、そりゃねえんじゃねえか? 無断侵入に加えて覗き見までされて黙ってられるとでも思ってんのか、え? それとも、こいつはそれだけしても罰せられない程、手前らにとっちゃ大事な輩だってのか? 囀ってみせろよ、――律」
     侵入者の胸から尻を退け、立ち上がって侵入者を解放したかと思えば、侵入者が起き上がる前に透かさず足を踏み下ろし、胸を足底で固定する。
    「ぐ、か……ッ!」侵入者が苦しげに悶絶する。
    「……梶羽、分かっているんすか?」律の、静かな質疑。
    「分かっててやってる、――つったら、どうするってんだ?」からかうように応じる梶羽。
     二人が沈黙を挟んで対峙する事、数秒。律が穏やかな微笑を浮かべたまま、言葉を返した。
    「離してやって下せぇや、梶羽。――殺したくないんすよねぇ、“あんたを、この手で”」
     殺意――そう呼べる感情の塊が総身に浴びせかけられても、梶羽は涼しい顔で応じる。
    「俺も手前と同意見だぜ、律。――囀れって言ってんだ、このままじゃ“止むを得ねえぞ”」
     ぎり、と侵入者の胸を圧迫する力がこもり、侵入者は苦しげに喘いで、更に顔を紅潮させる。徐々にどす黒い色に変わりつつある顔色を遠目に眺め、律はやはりどこまでも余裕の微笑で、言葉を紡ぎ返した。ただ――その声調は、低く冷たい。
    「――梶羽。そいつを渡せば、“亜鳩の命は”保障しやしょう」
     梶羽の眉間が怒りに顰められる。ギリ、と奥歯が軋る。
    「手前……やっぱり筒抜けか……!!」
    「交換条件としちゃ、これ以上掛けようが無いと思いやせんか? 梶羽はその男の命を救い、俺は亜鳩の命を護る。それとも、――“まだ天秤に掛ける物が?”」
     ごり、と侵入者の胸を抉るように踏み躙ると、梶羽は足を離した。侵入者は咽返りながらも律の方へと這って行き、涙ながらに律に縋りついた。
     梶羽は際限無い憎悪を放っていたが、顔は全くの無表情だった。それだけに、その憎悪の程が知れた。
    「これで“よぅく”分かった。手前が、俺の――俺達の敵に回ったって事がな」
    「残念っすねぇ。俺は仲間だと思っていやしたが。――とても、残念っす」
    「どの口がほざきやがる……。人を監視しといて、挙句に自分のエゴのためだけに人殺しまでさせやがって、手前にまだ何が言えるってんだ?」
    「――作戦が切り替わりやしたよ。二人の帰還が無かった今、二人を殺害する人員を募集していやす。……勿論、行きやすよね?」
     話を掏り替えるにしては下手だったが、内容を聞いたらそれどころではなくなった。
     梶羽は戸惑いを覚えつつも、律を睨み据える。虚言ではないのか――そう疑ったが、話を掏り替えるだけのために虚言を吐く道理など無い。それに――彼が妄言を発したような意図は見えない。つまり……
    「……その話を持って来たって事ァ、俺に行かせたいんだろ? 危険因子は根刮ぎ除去してえだろうし」
    「そんな事は無いっすよ。単に、梶羽なら志願したいだろうと思って、一番に持ってきただけっすよ♪ ……その返事は、乗った、と認識していいんすね?」
     梶羽にとっては、律の思惑通りに事が進むのは好ましくないが、彼は言うなれば〈異人研究室〉の頭脳だ。彼の知略に勝てる者は恐らく、この機関には存在しない。こちらが裏を掻いても、その裏を掻くのが律だ。
     ここは素直に乗って、様子を見るべきだと本能が判断した。
     梶羽は煙草を吸いながら、忌々しそうに律を睨み据える。
    「で、もう一人は誰だ? 俺一人で殺しに行ってもいいが、そうはさせてくれねえんだろ?」
    「勿論、二人一組で行動して貰いやすよ。そうしないと予期せぬ事態が起きないとも限りやせんしね。――惑香(マドカ)を連れてって下せぇや」
    「惑香? あの犬娘(ワンコ)か? ……あぁ、なるほどな」
     納得したように紫煙を吐き出す梶羽。彼女なら確かに二人を探し出すのに重宝しそうだ。
     それだけ告げると、律は扉を閉めに掛かった。
    「作戦は明日――〈神災慰霊祭〉当日、昼の正午に始めやす。こちらの方でも色々しやすんで、梶羽は二人の殺害を頼みやすよ?」
     では、と最後に付け足して、扉が閉まりきる。
     静寂を取り戻す室内で、梶羽は煙草を噛み千切りそうになる。
    「黒宇…………ッ!」
     その顔には苦渋と憎悪が充ち満ちていた。

    ◇◆◇◆◇

    「……これで奴らと共存の道は途絶えた訳か」
     施設の通廊を男――虚馳と共に歩いていると、横合いから声を掛けられた。律はその声に応じるように口許を歪めるが、足は止めなかった。
    「寧ろ俺と分かり合える方が少数でしょうや。そうは思いやせんか? ――覇一」
    「……数少ない同胞を護るのに一杯々々に見えるぞ。本当に大丈夫なのか? このままでは〈忌徒〉を失う事態になるぞ。それも――最悪、四人も」
     いつもどおりの革の服装に身を包んで、サングラスを掛けた少年――覇一は、眉根を寄せて、いつも以上に難しい顔を呈している。同胞を見す見す失うのを見過ごせない、という本音を曝して、律に訴える。
     対する律は不変の微笑を湛えて、静かに応じる。
    「何かを得るためには何かを失わなければならない――それが、等価交換……錬金術の基本じゃないっすか」
    「併し、四人もの同胞を失って得られる物が果たして同等の物か。俺にはその辺が理解しかねるな」
    「くくっ、俺と分かり合える奴は、この施設にゃあいないみたいっすねぇ。……必定、俺の狙いを理解する者もまた然り、っすか。――言ってしまえばっすよ、覇一。俺は単に、殯の首を狙っているだけなんすよ」
     覇一は軽く嘆息した。「それは誰でも知ってる。だが、そのために四人もの命を散らせるのは、果たして――」
    「違うんすよ、覇一」遮って、律は口許を半月に歪める。「それは必要過程なんす。寧ろ、四人じゃ足りない位っすよ」
    「…………何?」怪訝に眉根を寄せる覇一。「どういう意味だ?」
     律は半月に口許を歪めたまま、前だけを見据えて歩き続ける。
    「言わばその四人は、――贄。俺の肩書きを覚えていやすか? 覇一。〈救世人党〉が宣う四人の〈禍神〉に付けられた、それぞれが司るモノの内容を」
     一瞬何を言っているのか分からなかった覇一だが、刹那に教典に記されていた内容を想起し、その文章を諳んじた。
    「……〈復讎〉……。――お前、まさか……!」
    「段階を踏まなければ発動しない罠は世に溢れているもんすよ、覇一。つまりは――そういう事っす」
    〈復讎〉を糧にし、神々さえも殺戮してのけた〈禍神〉――律。
     彼の殺戮と言う作業には、一つの付加価値が介在しなければ意味を成さない。
     それこそが彼の全てであり、生きる目的そのもの。
    「殯が謳う真理とは即ち、“現世に在す衆生を屠殺せよ”――つまり無辜の人間だろうが何だろうが皆殺しって話っすよ。俺はそんな野暮はしやせん。俺が殺すべきと見做す相手、それは――俺に喧嘩を吹っかけ、且つ、俺を一度でも敗った者のみ。それ以外とマトモに組み合う気は有りやせん、邪魔なモノは蹴散らすだけで充分すからねぇ」
     原動力を起動させるには、一度敗退する必要が有る――そう言いたいのだろう、律は。
     ――だが、それを黙って“肯”と頷ける程、覇一は同胞を駒だと見ていない。
    「……今の話、〈忌徒〉の連中が聞いてたら、間違い無く裏切るだろうな。捨駒どころか、予定調和で戦死が決められているんだから」
     相手の内情を知るために出陣した、などと言えば聞こえはいいが、その実、〈忌徒〉は殺されるために用意された駒だと律は言う。何のために彼らを育て、何のために彼らに力を蓄えさせたのか。全ては一瞬――律の心を満たすため、それだけのため。
     憤りを感じるのは言うまでも無い事だ。――が、覇一は生憎、憎悪を懐ける程、彼を疑っている訳ではない。忠臣――そう言える誠忠を、彼は律に対して懐いている。
     今の今まで説明して貰えなかっただけで、心中ではそうではないかと気づいている自分を、覇一は知っていた。それが悪夢として具現化しただけで、何の不思議も無かった。
     律は覇一の諫言に対しても涼しげな微笑を湛えているだけで、表情を崩す事は万が一にも無い。彼には鋼の魂が宿っていると覇一は思わずにいられない。彼が表情を崩すシーンを、一度として見た事が無かった。
     万事が思い通り、と言う訳では決して無い筈だが、彼の心には言い知れぬ闇が蟠っている。腹心である覇一でさえも届かぬ深淵が、彼には介在するのだ。
    「……お前は大事な事を黙っている奴だと知ってはいたが、今回は流石に驚いたぞ。……勝つためには必要、――そうだな?」
    「優勝は確かに目指すべき目標では有りやすが、無理矢理もぎ取るつもりは有りやせんよ。殺(と)るべき命(タマ)は唯一つ。それさえ殺れりゃ――他にゃあ興味は有りやせんよ」
    「――律、一つ聞かせてくれ。殯と言う〈禍神〉は本当にそこまでしなくてはならない相手なのか? お前の実力があれば、容易く殺せると思うんだが?」
    「くっくっくっ、確かに――百年もブランクが有れば、俺一人で殯を屠殺する事も可能かも知れやせん。……っすが、それも全ては明後日には分かりやしょう。俺が直接誅すべきか、――否か」
     覇一は律を見つめ、彼が一体何を見ているのか、思考で探ろうとした。
     ――恐らくは、近い未来だ。それが空夢で終わるのか、現実と成り得るのか、今はまだ解らないが……それが果たしてどんな世界なのか、覇一は少しばかり興味を覚えた。
     その世界に本当に自分が存在するのか。本当に律の隣に自分がいるのか夢想して、止める。
     律に任せる。そう、百年前に決めたのだ。自分は、律の手駒。彼の企てを手助けするために、自分はここにいるのだから。

     ――やがて夜が明ける。明日に控える祭に備えて、世界は静かな帳を下ろす――――
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