鎖錠の楼閣

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    【戦戯】026.猟王の園庭〈6〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    戦戯

    ■あらすじ
    遠い未来。戦争が当たり前のように行われる荒廃した世界で、或る男に一本の電話が入る。「君にゲームをして貰いたいんだ」……それが悪夢の始まりだった。――ひょんな事からチームを組んだ四人の男女の、狂れたゲームの物語。

    ▼この作品はブログ【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n3582cz/)、【ハーメルン】(http://novel.syosetu.org/73083/)、サークルサイト【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881703366)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり 戦争 ライトノベル 銃撃戦

    ■第29話

     026.猟王の園庭〈6〉


     セミオートのアサルトライフルであるラファルにスコープを取り付けて周囲を警戒していたヴェルドの視界に、一人の青年が映り込む。明らかにこの場にそぐわない、上半身裸でボクサーが付けるようなグローブを嵌めている男の姿が。
    「……」
     ビルの階下からヴェルドを見上げてニヤニヤと笑んでいる彼こそが、恐らくは最後の番人と呼ばれる敵性勢力の一人なのだろう。ヴェルドはレティクルに納まった彼の頭に、躊躇無く弾丸を撃ち込む。
     サプレッサーで抑えられた銃声が鳴り響いた瞬間、ヴェルドは瞠目する嵌めとなった。
     男は人間とは思えない反射速度で右手を振り上げ、本来頭を破砕する筈だった銃弾を殴り飛ばしたのだ。鋼と鋼が搗ち合う硬質な音が弾け、火花を散らして弾丸は虚空に消えた。
     男はヘラヘラした表情を崩さずに、そして何事も無かったかのように外付けの階段を上り始める。ヴェルドはその様子を裸眼で視認したまま、ラファルを下ろして眺めるだけだった。
     月明かりが有るとは言え、真夜中の時間帯に、街路灯も疎らな路地で、狙撃手の銃弾を、グローブを装着しているとは言え素手で、弾き飛ばす事が可能な人間と、ヴェルドは生涯で初めて遭遇した。
     人間業とは思えない挙動だからと攻撃を中止した訳ではない。一発銃撃を敢行した時点で、彼には銃弾が通じない事が瞭然としたため、無駄に弾薬を消費する事は無いと言う判断の元、彼がこれからどういう心算で自分の元に向かってくるのか、それを確かめようと思っただけである。
     やがて青年――二十代と思しき若い男は、磨き抜かれた筋骨隆々の浅黒い肌を自慢するかのようにポージングを決めながら、告げた。
    「怪しいと思ったら即射殺するその姿勢、悪くないと思うぜ兄ちゃん? だが残念だったなァ、俺には銃撃は通用しないんだなこれが! 」ガッハッハッ、と大笑する男。「俺の名は“ファイター”! お前を打ち倒す者だ!」
    「……」醒めた表情でファイターを見据えるヴェルド。
    「んん? 何故銃弾が効かないか分からないって顔をしてるな? 良いだろう! 冥土の土産に教えてやる!」ヴェルドがそんな顔をした覚えが無いにも拘らず、ファイターは饒舌に口唇を動かし続けた。「この俺ことファイターは兄弟の合作なのだ! 鍛え抜かれた最高峰の肉体を持つ俺こと弟と、前人未踏の天才的頭脳を持つ俺の兄貴が合わさる事で、最強の戦士がここに誕生した! そう! それが俺だ!」
    「……」興味無さそうにラファルを構え直すヴェルド。
    「兄貴は格ゲーのプロゲーマーでな、俺を安全圏から操作している! どうやって操作しているかって? フフフ、俺のこの美しい筋繊維の中に電気信号を発生させる装置が随所に埋め込まれているのだ!」ビクンビクンと胸筋を動かすファイター。「リアルタイムで俺の周囲の映像を映し出し、更にコンマ一秒のラグさえ無く兄貴は俺を操作できる! 故に、俺は最強の戦士足り得――」
     何の予兆も無く、今度は二発の銃撃を連続で加えるヴェルド。
     その瞬間、ファイターは右手だけで二発の弾丸を弾き飛ばした。
    「――るのだ! ん? お前は今の俺の話を聞いてなかったのか? バカだなァ、俺には最高峰の反射神経を有する兄貴がいる。弾丸程度、脊髄反射で弾いてくれるぜ、俺が最大限に敬意を払う、兄貴がなァ!」
     ガーッハッハッハッ、と高らかに笑うファイターを無言のまま見つめていたヴェルドだが、「そうですか」と初めて言葉を返した。
    「ん? 遂に観念したか? だがお前を見逃してやる事は出来ないんだ、悪いな! お前を殺す事で、俺はまた史上最強の座に一歩近づけるんだ! 史上最強の拳闘士としてこの世界に名を刻むまで、俺は立ち止まれないんだ! その礎として、お前はここで死んでくれるか?」
    「デジタルの申し子のような貴方に、アナログの戦法で敵うか否か、試してみましょう」スッと、ファイティングポーズを取るヴェルド。「格ゲーのプロゲーマーとやらの実力、拝見致します」
    「まじかよ! へへっ、本気で言ってるのかあんた!?」驚きを隠せない様子で笑い始めるファイター。「良いぜ、その心胆だけは褒めてやらぁ! どの道お前は生きてこのビルを出られないんだ、最後に本物の格闘戦って奴を叩き込んでやるよ! 行くぜッ!」
     ヴェルド自身、彼を侮っているつもりは無かった。先刻、反射神経とその鉄片が嵌め込まれているであろう拳だけで弾丸を無効化した技量と実力は、確かに人間の領域を遥かに超えるレヴェルの代物だ。
     人間の脊髄反射の物理的限界はゼロコンマ一一秒。これを下回る事は、プロゲーマーであろうと、オリンピック選手であろうと、人体の構造的に不可能である。眼前の敵が銃撃をする前提で鉄砲を構えている状態であっても、反射的に体を動かして弾丸を弾くと言う芸当は、そもそも人体の構造上不可能である事を示している。
     眼前の、熱に浮かされたようにペラペラと喋り続ける男は、態度こそ巫山戯ているものの、行っている所業は人跡未踏の領域に足を踏み入れた、正しい意味で神業なのだ。
     装甲や兵装で銃撃が通じないのであれば、話はまだ判る。併し相手は装甲など無く、寧ろ上半身を露わにしている程の軽装……否、未装備と言って差し支えない存在であるにも拘らず、銃撃が通じないのである。ヴェルドの今までの既成概念を覆す戦士と言っても過言ではなかった。
     ならば――己の価値観を新たに改定するためにも、未知の存在に対する攻略法を探りながら撃滅する手法に思考を切り替えるまで。相手が生きている人間である以上、絶対に殺せないと言う結末は有り得ない。己の死が確定するまでの工程で、如何に素早く彼を仕留められるかが、今回ヴェルドに課せられた任務と言っても良いだろう。
     ファイティングポーズを取り、相手の挙動を警戒しながら、相手の刃圏に踏み込もうと足を捌いた瞬間、ファイターが動いた。
    「警戒してるのか? そうだよなァ、お前にとっては初めて、いやこの世界中のどこにも俺みたいな戦士を見た奴はいないだろう! そんな稀有な戦士の一挙手一投足に注視するのは、仕方ない事だ、うんうん」
     呑気な世間話でも始めるみたいに語り出しているにも拘らず、その動きは語調に似合わぬ洗練された戦士のそれだった。鋭い踏み込みと共に間合いを殺すと、一呼吸の合間も無くヴェルドの刃圏に到達――一切の予備動作無しにその顎を破砕せんと拳を叩き込む。
     何の予兆も無く叩き込まれたアッパーカットを寸での所で受け止め――るが、尋常ならざる膂力に両手でカヴァーしたにも拘らず威力を殺しきれず、顎に接触する直前に体を自ら浮かせる。放たれた力の奔流を利用してバク宙し、空中で体勢を整えようとして――肋骨が破砕される感覚と共に、右半身が屋上の貯水タンクに叩きつけられる。
    「グ――ゥッ」
     突然襲い掛かった意識を明滅させる一撃に、ヴェルドは行動が一瞬遅れた。貯水タンクに叩きつけられた反動で屋上に寝そべりそうになった瞬間、掬い上げるように鳩尾にファイターの爪先が喰い込む。
    「グ、ポ……ッ」
     内臓が悲鳴を上げる感触が背中を貫き、体が再び宙を舞う。蹴り上げられるタイミングギリギリに辛うじて潜り込ませた左腕がへし折られるも、その甲斐有って内臓はまだ無事だ――そう認識したのも束の間、残像を残して駆るファイターの影が、視野に映り込む。
     閃光染みた拳撃。それがヴェルドの顔、肩、胸、腹、腕に容赦無く突き刺さり、抵抗する間も無く滅多打ちにされたヴェルドは、次の瞬間には再び貯水タンクに背中から叩きつけられていた。
    「――――ッッ」
     最早声すら出てこない。肺腑は酸素を取り込む事すら忘れ、脳は眼前の映像を正しく理解しない。消灯寸前の意識を繋ぎ止め、倒れ込む瞬間に一歩、右足を踏み出して、踏み止まる。
     ――強い。
     血反吐を吐いて、今一度ファイターを見やる。彼は相変わらずヘラヘラした表情のまま、物珍しそうにヴェルドを覗き込んでいた。
    「へぇ、兄貴直伝のラッシュを喰らって立っていられる奴ァお前が初めてだよ。ただまァ……それも時間の問題だけどよ」
     ケラケラと笑声を上げるファイター。巫山戯た態度は改めて気に食わないと感じたが、それを補って余りある膂力が彼には有ると、改めて実感した。
     彼以上に白兵戦で強いと感じる兵士に巡り合った事が無いヴェルドにとって、確かに現状は未知との遭遇に他ならなかった。相手は、人間の形こそ取っているが、人間の動きではない。人体の構造上不可能な動きを体得していると言っても過言ではない。
     人体の構造上不可能と言うのなら、彼は人間ではないのかと問われたら、答は否だ。それにこの“人体の構造上不可能”を可能にしているその答も、ヴェルドは既に彼自身の口から聞いている。だからこそ、その領域にまで科学が到達した事に驚嘆の想いを覚えずにいられないし、同時にこれからの戦争はまた次元が異なる領域に到達する事に確信を覚えずにいられなかった。
    「……貴方の動きは、確かにプロゲーマーのテクニックも少なからず流用されているのでしょう」血反吐を噴き出し、口元を拭うヴェルド。「だがその本質は、肉体可動域のルーティン化とオートメーション化だ」
     瀕死の重傷と言う態のヴェルドの呟きに、ファイターは初めて瞠目した。驚きに表情を塗り替え、ヘラヘラした笑いが消える。その反応だけでヴェルドは満足だった。
     ファイターの肉体の中に埋め込まれた電気信号を発する装置。それは何も、この場にいない兄に肉体の操作を任せるだけの装置ではない。マクロ――アプリケーションソフトなどに用いられる、関連する複数の操作や手順、命令などを一つに纏め、必要に応じて呼び出す事が出来る機能を内蔵しているのだと、ヴェルドは考えた。
     例えば――彼の肉体に埋め込まれているであろう装置にカメラの機能が付いている事は彼自身の言動から既に明らかだが、そのカメラが捉えた映像を自動的に解析、銃弾と認識した存在を自動的に迎撃するマクロを組んでおけば、兄弟が反応できなくとも、スーパーコンピューター並みの演算能力を有しているのであれば、コンマ一一秒を軽く超越する速度の反応が可能になるだろう。
     彼の人間を超越した格闘センスにしてもそれは当て嵌まる。幾ら鍛え抜かれた肉体と言っても、それを稼働させる存在が人間である以上、人間が想定する動きを超越する事は出来ない。その人間が想定できない領域を機械に委ねる事で、ファイターと言う怪物が最強の名を冠する事が出来ると言っても差し支えあるまい。
     無論、この事に気づけたからと言って攻略法を会得できた訳ではない。相手は人智を超える速度で襲い掛かる徒手空拳の化け物――殴り合いで彼に敵うとすれば、それはヴェルドも半分人間を辞め、半分機械に行動を委ねる必要が有る。
    「おいおい、まじかよお前、よく分かったな俺達の努力の結晶!」ファイターは嬉しそうに口唇を釣り上げ、感心しきりと言った表情でうんうん頷く。「その通りだぜ! 俺の肉体は半分機械が動かしてるんだなこれが! だからこそ銃弾は全く怖くねえ! 何せ勝手に迎撃してくれる訳だからな! それにこの半自動で敵を撲殺する機能は、お前にならその脅威が分かる筈だよなァ、熟達の戦士さんよォ?」
     得意満面で告げるファイターに、ヴェルドは頷かざるを得なかった。
    「私のように、武術の心得が有る人間にとって最大の脅威となるでしょうね。本来有るべき予備動作が無く、視線の誘導も存在しない、故にこそ、武術と言う下地を無視した動きに、私のような人間は追従できない」
     あらゆる格闘術には基礎となる動きが存在する。例え独自の格闘術を自ら編み出したとしても、筋繊維の予備動作までは隠す事が出来ない。
     ファイターにはそもそもこちらに襲い掛かると言う意志が、敵意や害意と呼べる意志が介在せず、更に言えば狙うべき場所を“観る”と言う視線誘導も存在しない。武術の心得が有るのであれば、相手が徒手空拳である以上、或る程度はその視線、更に筋肉の機微でどこを狙い、どこが陽動なのか把握する術を有しているものだが、機械により半自動で駆動する肉体にはそれが全く通じない。それがヴェルドのような存在には予想以上に効果的と言うのが一つ。
     ファイターの肉体のどこかに埋め込まれているであろう電気信号を発する装置は、筋繊維を自在に動かす術を有している。即ち本来武術者が見るべきポイントを隠しつつ、且つ全く意識していない箇所の筋繊維を稼働させる事によって、未知の挙動からの攻撃を可能にする。それが更に武術の心得を有している者を混乱させる要因の一つになる。
     そして、武術の心得が有ろうと無かろうと、その絶大無比の速度で叩き込む一撃で対象を捻じ伏せられるその膂力が備われば、なるほど最強の拳士と称されても違和感は無い。
     巫山戯た言動の多い男だが、それすらも勝利へ導くためのファクターとして利用しているのではないかと思わせるだけの余地が有った。彼はただ筋肉を限界まで鍛え上げただけの脳筋ではない。この場にいない兄同様、頭脳も相応に備わった知者だ。
    「そこまで分かって尚、俺に立ち向かうのか? 流石だなァ、最強の傭兵と言われるだけは有るぜェ。――それでこそ打ちのめし甲斐が有るってもんだ!」
     ……勝算はまだ見えない。だが、そのシステムの掌握が出来たのであれば、後はそこから攻略に繋がる要素を、ひたすら繋ぎ合わせるために思考と言う演算を繰り返すだけ。光の速さで想定される試行を脳内でトライアルアンドエラーしていく。
    「……殺さなくては殺されると言う環境に立っているにも拘らず、諦めると言う選択肢を選ぶ方が、私は理解に苦しみますが」
     折れた左腕を下げたまま、右腕だけでファイティングポーズを取るヴェルド。
     導き出される解が先か、己の肉体の破滅が先か。生と死を賭けたチキンレースが幕を開ける。

    ◇◆◇◆◇

     業火が燃え上がる惨状を現出させている犯人はすぐに見つかった。
     路地の真ん中を闊歩するのは、全身を重装甲で覆った三メートル近い上背の有る兵士。右手には火炎放射器を、左手にはバルカン砲を備え、背には巨大なタンクを背負っている。
     更に足とタンクにはブースターと思しき装置が組み込まれ、高速度で移動しながら民間人を焼き払い、蜂の巣にしていっている。
    「――アレだな」刃蒼を振り返り、街を縦横無尽に駆け回る重戦士を指差す臥堂。「殺すぞ?」
    「……せやな。アレは……はよ殺さなアカン。臥堂君、頼んだで?」ポン、と臥堂の肩を叩く刃蒼。
     そんな刃蒼を見やり、臥堂は不思議そうな顔をしていた。
    「何やねん? はよ行きや」怪訝な表情で臥堂を見やる刃蒼。
    「いや、お前ならまた“殺すな”って釘刺すのかと思ってよ」ばつが悪そうに頭を掻く臥堂。「やっとお前も俺の気持ちが分かったのかと思って――」「ンな訳有るかアホ」ぺし、と臥堂の頭を叩く刃蒼。
    「今回の相手は、今までの相手とはちゃうんや。アレはどう見ても民間人を虐殺して回っとる。それは殺してでも止めなアカン。分かるか? 前に臥堂君が殺そうとしとったんは、殺さへんでも良かった相手。今の臥堂君の相手は、殺さずに止める事が恐らく無理そうな相手。この違い、自分が分からん筈無いやろ?」
     臥堂の肩に手を置いて諭すように語り掛ける刃蒼。真剣な表情で、これだけは分かって欲しいと顔に書いて、刃蒼は臥堂の目を覗き込む。
     臥堂は理解に苦しんでいる――と言う様子は無く、刃蒼に応えるように、真剣な表情で彼の目を見つめ返していた。
    「……分かってるさ」目を伏せ、無念そうに呟く臥堂。「でもな、俺にはそんな事関係ねえんだ。俺は、立ち塞がる全てを殺す。敵は殺すしかないんだ。俺は敵を生かしておけるほど、善人じゃないんだ」
     まるで自分に言い聞かせるように、臥堂は言の葉を連ねた。自分の過去を振り返るように、自分の過去を正当化するように、自分の過去と戦うように、刃蒼の瞳に映る己を見て、臥堂は告げる。
    「お前も、ヴェルドも、敵だったら誰でも殺して良い、とは言わなかったな。情報を聞き出すためとか、もしかしたら敵じゃないかも知れない可能性とか、生かしておけば後々利用できるとか、殺さない理由は幾らだって作れる。でも俺は、俺の魂は、敵を生かしておけねえんだ。殺さなくちゃ、殺されるって、俺は分かってるんだ」
     初めて見せる、臥堂の本音の吐露に、刃蒼は瞠目して聞き入っていた。彼が抱える問題、その片鱗が今、露わになっている。彼が今まで見せなかった部分が、初めて彼自身の口から開示されていく。
     臥堂はそこまで言うと再び目を伏せ、言い難そうに口唇を引き攣らせると、そのまま呟きを落とした。
    「……俺を理解しろなんて言わねえよ。お前らにはお前らの考えが有って、俺には俺の考えが有る、ただそれだけなんだ」吐き捨てるように告げると、臥堂は顔を上げた。「やっぱり俺は、お前らには従えねえ。俺は敵を殺す。その考えを変える事は、やっぱり出来ねえんだ」
    「臥堂君……」
    「だから俺は奴を殺す。奴だけじゃねえ、立ち塞がる全てをだ」刃蒼を突き放し、臥堂は背を向ける。「……お前だって、俺の壁になるなら殺す」
     そう言って臥堂は駆け出して行った。刃蒼はそれを悔しげな表情で見送っていたが、彼にどう声を掛ければいいか迷っている間に“それ”は突然現れた。
     風を切る音。それを鼓膜が拾った瞬間、刃蒼は咄嗟にスーツの内ポケットにしまっていたナイフを引き抜き、振り返り様に振り抜いた。
     鋼同士が重なる硬質の音が弾け、火花が散る。と同時に刃蒼は咄嗟にバックステップを踏み、体勢を整えながら襲撃者の姿を視認する。
     紫色の着流しを纏った老齢の男。無精髭を蓄え、左目に黒い眼帯を当て、黒々とした髪は結って後ろに垂らしている。その手には、長刀が据えられていた。
    「……自分がサムライか?」
     刃蒼の誰何の声に、老爺は「如何にも」と嗄れた渋い声で応じる。
    「某が最後の番人が一人、サムライに相違無い」と言った後、「んひ」と口唇が笑みの形に歪む。「どう? どう? 今のカッコ良かった? 今の最高に決まってなかった儂? どう思うよ少年?」
     突然馴れ馴れしく声を掛け始めた老爺――サムライに、刃蒼はとても可哀想なモノを見る目を向ける。
    「うん、その台詞が無かったらカッコ良かったと思うで?」
    「じゃよなぁ、じゃよなぁ! んふー、そうじゃろう、そうじゃろう、ワシは最高にカッコいいじゃろう。何せ刀忍童子じゃからのう」
     間。
    「……え? 何か凄い聞き覚えの有る単語が出てきた気ぃすんねんけど、今何て?」頭が痛そうな表情で耳に手を添える刃蒼。
    「え? お前さん、刀忍童子を知っておるのか!? つまり戦忍童子を知っておると!? いやー、まさかあんなドマイナーゲームを知っとる少年がおるとは思わなんだわい……」驚嘆しきりと腕を組んで頷くサムライ。「いやの、ワシは厳密には刀忍童子じゃないんじゃ、悪いがの」
    「いや、それは分かるわ流石に。ゲームの中の話なんやろ? 僕のフレが戦忍童子を師に仰いでる言うから知っとるだけで……」
    「は? 戦忍童子を師に仰ぐじゃと?」
     サムライの表情に明らかな苛立ちが混ざったのを見て、刃蒼は「あ、勿論本当の話や無いと思うんやけど――」と咄嗟に言い繕おうとしたが、彼は「どうして刀忍童子じゃないんじゃ!!」と叫喚を上げた。
    「――は?」呆気に取られた表情で小首を傾げる刃蒼。
    「どう考えても戦忍童子より刀忍童子の方がカッコいいじゃろうが! そうは思わんか少年!?」長刀の先端を刃蒼に向けるサムライ。
    「いやそもそも僕戦忍童子はポスターでしか知らんし、刀忍童子に至っては何の情報も無いレヴェルやで?」困惑した様子でたじろぐ刃蒼。
    「ヴィジュアルは今のこの儂! 儂を見よ! どうじゃ! カッコいいじゃろう!?」クルクル回ったりポーズを決めたりし始めるサムライ。
    「カッコいいか……?」返答に窮し始める刃蒼。「てか爺ちゃん、自分刀忍童子のコスプレしとるって事は、自分もファンなん?」
    「カーッ! 儂の声を聴いても分からんとは嘆かわしい!! お前さん、それでも本当に戦忍童子をプレイした事が有るのか!?」額に手を当てて夜空を仰ぐサムライ。
    「いや、せやからプレイも何もポスター見ただけやっちゅうねん」ビシッと虚空に向かってツッコミの手を入れる刃蒼。
    「儂は刀忍童子を演じた声優、捌木屋秀三(サバキヤ シュウゾウ)じゃ! よく憶えとけ少年! ってそうじゃった、お前さんは今ここで死ぬんじゃったな。失敬! 儂の名を刻んで死ぬが良いぞ、うん」
     間。
    「ちょ、ちょい待って? 自分、声優なん? 声優が刀忍童子のコスプレして殺し屋紛いの事しとん?」意味不明だと頭の上に大量のクエスチョンマークを乱舞させる刃蒼。「マーシャさんも大概や思とったけど、世界ってホンマ広いなー、こんな訳の分からない人に逢うの僕初めてやで」
    「殺し屋じゃないわバカタレ。儂は刀忍童子に成りきって、この世界から根源を消し去るために冒険をしておるのだ」顎を摩りながら得意気な顔で告げるサムライ。「そのためにはお前さんも殺さねばならん。それが仕事じゃからの」
    「……今度はただの電波な爺ちゃんか。ホンマ何でもアリアリの世界やな傭兵の世界って」はぁーっと重い溜息を落とす刃蒼。「それで得物は長刀か。リーチの差で圧倒的に僕が不利やな」と言ってナイフの先端をサムライに向ける。
    「そうじゃのー、お前さんが良ければ一瞬であの世に送ってやるぞい? 儂の斬首の腕前は中々のモンじゃからな、手慣れたもんよ」んふふ、と楽しげな笑声が食み出しているサムライ。
    「知らんがな」吐き捨てると、刃蒼はナイフを構えてサムライを見据える。「そもそも何で僕に自分が宛がわれたんか、自分、分かっとるんか?」
    「それは――」踏み込み、刹那に刃蒼の首を刈り取らんと長刀を振るうサムライ。「お前さんが一番殺し易いからじゃろう?」
     振るわれた斬撃は併し空を切り、刃蒼は無傷の態でサムライの背後に立った――その瞬間、サムライの脇腹に裂傷が走った。
    「――僕がナイファーだから、やないかな?」
     ニヤリ、と笑む刃蒼に、サムライも口唇を歪めて改めて刃蒼を見据える。
    「楽な仕事と聞いておったんじゃがのう……お前さん、ただの科学者じゃなかったんか?」長刀を構え直し、刃蒼を正視する。――真剣な表情で、刃蒼を睨み据えるサムライ。「刀忍童子を名乗ったんじゃ、負けは許されんからのう、全力で屠らせて貰うぞ、少年?」
    「残念やったなぁ、初めからその意気やったら殺せとったかも知れへんけど」再びナイフの先端をサムライに向けて、挑戦的な笑みを見せる刃蒼。「互いに得物見せたったんや、こっからが本番やろ? 掛かってきぃや、僕も全力で相手したる」
    「面白い――ッ!」
     白刃が交わり、再び必殺が交錯する。


    【次回予告】

    「――そう、だからこそお前を殺すんだ!」

     滾る殺意の矛先は、改竄されし既往を識る者。

    「あ、あ、にゃ、にゃに、これぇ……っ!?」

     未知なる快楽の到る先は、悪夢を遣わす夢魔。

    「――お客様は、あまりにも危険ですねぇ」

     諸悪の道化は嗤う。邂逅が最初で最後であるかのように。

    「最高に甘い死を、今貴女に届けますわ――」

    Continued on the next stage……
    【後書】
     ラストバトルっぽい雰囲気が出て参りました! やっぱりこう、RPG好きな私としては、ラスダン直前のボスラッシュとかラスボス直前の四天王戦とかに憧れちゃうんですよねー。
     と言う訳で最後の審判戦が始まりました。今までの登場してきた常軌を逸したエネミーも大概でしたが、やっぱりこう、最後はもっと頭おかしい敵じゃないと面白くないですよね!
     今年はこの【猟王の園庭】編の完結と同時に、第弐幕【夜天猟区】の完結を目標に更新して参ろうと思います。最終章である第参幕は来年一月に更新できれば……いいな!
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    Comments

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    2016-12-26 07:16 
    日逆孝介 No.497

    キタ――(゚∀゚)――!!

    感想有り難う御座いますー!
    ありがたやありがたや……! 待っておりましたぞ!
    ホンダムって何かと思ったらwwホンダムじゃねーです!w
    刃蒼さんのガチモード、その真相を見逃すなっっ!

    お楽しみ頂けたようで何よりですー! ヨカターw
    次回もお楽しみにですぞー!
    2016-12-26 00:37 
    tomi No.494
    (/ω・\)チラッ

    更新お疲れ様ですvv
    すっかり間があいてしまいましたが、ちゃんと読んでますぞv
    来ましたね四天王。さすがぶっ飛んでますwホンダム?ホンダムなのかっ??w
    刃蒼君のガチモードも楽しみです。やっぱただの科学者じゃなかった!!

    今回も楽しませていただきましたーありがとー
    次回も楽しみにしてまするーvv
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