鎖錠の楼閣

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    【神戯】033:遊始に到る〈其ノ拾〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第33話

    033:遊始に到る〈其ノ拾〉


     そこが【大聖堂】に用意された部屋の一つである事は判っていた。ただ、視界はアイマスクに因って閉ざされ、耳には耳栓が詰め込まれ、手足は束縛されて身動きが取れなかったので、どこをどう移動したのか見当が付かないし、抵抗など出来る筈も無かった。
     拘束する装置は椅子を利用した物だった。座らされ、手の指一本に至るまで金具で拘束された。それを数名掛かりで持ち運び、どこかを移動しているのが、風を受ける事で分かった。
     時間の経過が分からなかったが、やがて小刻みな震動が止み、どこかへ下ろされた事が知れた。
     ――と、アイマスクが外され、耳栓も抜かれた。
    「……ここは、」
     黒宇が思わず呟きを漏らす。明るさに瞳を僅かに眇め、徐々に慣れていくのに合わせ、瞳も開いていく。
     一面薄い緑色のタイル張りの部屋だった。あちこちに赤い飛沫が散っているのは、恐らく血痕だろう。咽そうになる程、空気が濁っている。息を吸うだけで肺が汚れていくような不快感を覚える部屋だった。扉は見える範囲で一つだけ。首が固定されているため左右を窺う事は出来ない。
    「クロ……?」
     隣――黒宇の左側から聞こえてきた声は紛れも無く諜楽のものだった。無事だったのか――と、声を聞いただけで安堵が胸の中に拡がっていく。
    「チョウか? 無事だったんだな」
    「うん……でも、ここって……」
    「やーやー、二人っきりで話してないでさ、あたしにも話を聞かせてよ」
    「!」
     声は黒宇の背後から聞こえてきた。聞き覚えの有る声。忘れる筈も無い。つい先刻諜楽の耳を削ぎ落とした女……!
     黒宇は発作的に体を動かして拘束具を外そうともがいたが、金具はピクリとも動かなかった。怒りに身を任せて外そうとしていると、視界に少女の姿が現れる。
     手には何故か、ペンチが握られていた。
    「シロちゃんを殺そうとした時みたいに暴れてみるかい? 試してみても良いけど、その時は君を殺さなくちゃならなくなるんだっ。先に言っとくと、金具が一つでも無理に外れれば、君の喉を圧迫している金具が爆発する仕組みになってるんだよー。それとも君は喉が破裂しても生き残れる不死者なのかにゃ~?」
    「手前……ッ! 調子に乗ってんじゃねえぞ、いつかその頭、ぶっ壊してやるからな……ッ!」
     噛みつかんばかりに威嚇する黒宇。対する少女――殯は嘲笑を口許に滲ませながら、ペンチを振り回し、「怖い怖い♪」と歌うように呟く。
    「……さ、て、と。君達二人には、これからゲームをして貰います♪」
    「ゲーム、だと……?」
    「その名も――『拷問ゲーム』~♪」
     愉しげに悍ましい単語を混ぜたゲーム名を発表する殯に、黒宇は嫌悪感を覚えずにいられなかった。
    (拷問、ゲーム……? こいつは、こいつは――)
     ――拷問を、遊び感覚で行う気なのか……!?
     正気の沙汰とは思えない。そうとも、これは狂気の沙汰だ。黒宇は瞠目したまま殯を見据え続ける。殯は視線を浴びても動じず、朗らかに笑みを湛えている。――魔的な、笑みを。
    「ルールを教えたげよう。簡単だから一発で覚えてね♪ まず、あたしはそっちの女の子の指を“引き千切ります”」
    「え……っ?」
     一瞬何を言われたのか解らないのは、戸惑った声を発した諜楽だけではなかった。黒宇も瞠目したまま声を発せられない程に動揺していた。
    「でも、引き千切られない方法が一つだけ、――そう、一つだけ用意されています。それは、にゃにゃにゃ、にゃんと! あたしの質問に、そっちの男の子が答えればいいのです! 男の子は質問に答える……嘘はダメよ? その時は女の子の指がもっと引き千切られるから♪ で、質問に答える、或いは指が引き千切られたら、選手交代~。今度は女の子に質問して、答えなかったら男の子の指が引き千切られちゃうのさ♪ これを延々と繰り返すだけの、単純なゲームだよ。分かったね?」
    「……ふ、巫山戯んな!! そんな事して――――」
    「じゃ、ゲームスタート♪ まずは男の子に質問しまーすっ。君のお名前はぁ? 五秒だけ待ってあげよう♪ いーち、にーぃ、さーん……」
    「おい、止めろ! 手前ブチ殺されてえのか!? いいから止めろ!」
    「よーん、ごーぉ、――はーい、しゅーりょー♪ では、早速いきまっしょう! まずはそだねー、人差し指からいこっか?」
     黒宇の制止の言葉など全く意に介さず、殯が黒宇の視界より消え失せる。がちん、とペンチが一度噛み合う音が聞こえた後、――諜楽の絶叫が爆発した。
    「いだいいだいいだいいだいィィィィ――――――――ッッ!! 止めてッ、いぎィッ、カッ、アァッッ!!」
     ………………ぶちん、と肉が裂ける音が、黒宇の耳朶を打つ。
     あまりに悍ましい音声に、黒宇は歯を食い縛って耐える。隣では諜楽の絶叫が轟いている。
    「いぎゃいィィィィッッ、あッ、あッ、ぐァッ、あたしのッ、あたしの指……ッ!!」
     鼻声で呟く彼女は明らかに泣いていた。見るまでも無く顔はグシャグシャだろう。
     ――一瞬だった。たった一瞬で、諜楽の指が……ッ!!
     黒宇は自分は何もされていないと言うのに、歯を食い縛る程の苦痛に苛まれていた。体が我知らず震えている。
     怖かった。視界に再び現れる少女が、どうしようもなく怖かった。
     少女の口には、鮮血を滴らせる、人差し指が咥えられていた。
    「ひゃーて、次は女の子に質問だよぅ? 君のお名前は? 五秒だけ待ったげる♪ いーち、にーぃ……」
     再び始まる死の宣告染みたカウントダウン。そのあまりに狂気染みた宣告に諜楽の心が早くも砕けていた。舌を縺れさせながら言葉を発し始める。
    「あ、あひっ、ちょっ、ちょう――」
    「――答えるなッ!!」
     黒宇の一喝がそれを制止する。諜楽の涙ぐむ声が引き攣り、刹那に停止する。黒宇は荒い呼気を更に乱しながら何とか呟いた。
    「……絶対に、答えるな……!!」
    「よーん、ごーぉ。はーい、しゅーりょー♪ では、人差し指を引き千切っちゃいましょー♪」
     少女の顔が近づき、黒宇の目の前で止まる。噛みつこうと首を伸ばしたかったが、生憎拘束具の関係で、近づく事は疎か首を傾ける事すら叶わない。
     ペンチが、黒宇の右手の人差し指を掴み、ぎり、と力強く潰す。
    「かッ、ア……ッ!!」
     ぺき、と小さな破砕音と共に爪が砕かれた感触が腕を駆け抜け、全身を駆け巡って脳を刺激する。灼熱する激痛に、黒宇は肺が絞り上げられ、喉から熱い呼気が漏れた。
    「や、メ、ろ、ォ……ッッ!!」
     ぎち、と指が軋む感触が脳に直接送られる。指が引っ張られる感覚。それは、亜鳩が気を引くためにやる行為を、好意ではなく純然たる悪意のみを特化して行われた。
     指が徐々に変色していくのが見ずとも分かる。凄まじい激痛が指から腕を渡り、脳へと通達される、その一連の動作が遅鈍に思える程に、拷問は加速していく。
     みちみち、と肉が裂ける感触が駆け抜け、黒宇が食い縛っていた歯の間から遂に悲鳴染みた声が漏れ出す。我慢できるか否かと言う次元の問題ではない。この行為は最早拷問を超越している。悪意なんて生易しいものじゃない――明確な殺意を黒宇は総身に感じ取った。
     ――――ぶちん、
    「あッ、がッ、かッ、アアアアアアアアアアアッッ、アアアアアアアアアアッッッッ!!!」
     悍ましい感触に続いて、悍ましい音が続いた。人差し指の根元が熱を伴った激痛を心音に合わせて発している。あまりの激痛に涙が目尻に溜まりつつあった。思わず漏れた喚声は中々止まってくれなかった。
     頭が痺れている。考えようとするための機関が根刮ぎ破壊されたような感覚。脳のあらゆる箇所が痛覚に因って遮断され、視界に映す全てを、嗅覚が嗅ぎ取る全てを、鼓膜が聞き取る全てを、総身が感じ取る全てを、虚構の世界と誤認させている。
    (何だこれは? どうして俺はこんな目に遭ってるんだ? おかしいじゃないか、俺はただ――――)
     ――亜鳩を護りたかっただけなのに……
     他の一切を捨てるつもりだった。他の誰が死んでも構わないと思っていた。
     なのに――現実は、どうしようもなく、狂れてやがる。
     自分の絶叫が遥か遠くに聞こえていた。痛みに震える体も、視界を揺るがす涙も、熱と痛覚を発する指も、全てが遠い。遠過ぎる。
    (亜鳩……俺はお前を護ると決めた。なのに、どうして俺はこんな所にいるんだ? 俺は、亜鳩の隣にいなければならないのに…………)
     透明な液が濡れる瞳に、ふと、亜鳩の姿が映り込む。
     微かに笑む、その顔を見て、黒宇は笑顔を取り戻した。
    (何だよ、やっぱり近くにいるんじゃねえか。心配させるんじゃねえよ、バカヤロウ)
     遠くに浮かぶ蜃気楼のような亜鳩の笑顔を見つめて、黒宇は――――
    「――――クロ!!」
     ――意識が、覚醒する。
     瞳を開いていたのに、全く脳が感知しなかった映像を、黒宇は取り戻す。涙のせいで少し視界は不良だったが、それでも現状を把握する分には問題無かった。
     一面薄い緑色のタイル張りの部屋。酷い悪臭が漂う、胸焼けがしそうな部屋。
     ――黒宇の人差し指を口に咥えた少女が映る、部屋。
    「……チョウ、お前……?」
     視界には、諜楽の姿が一緒に映っていた。手足を拘束されているが、椅子に座っていない。黒宇の人差し指を咥えている少女――殯の隣に立ち、こちらを赤く腫らした瞳で見つめている。今朝見た時にはなかった、衰弱が顔に表れていた。落涙の筋が頬に走り、瞼が腫れぼったくなっている。
     彼女は泣きじゃくりながらも、声を嗄らしながらも、体を震わせながらも、それでも黒宇を正視し、ぎこちない微笑を浮かべて見せた。
    「クロ……っ、あたしの事、忘れないでね? 忘れちゃ、嫌だからね……っ?」
    「チョウ……? 何、してんだ……? お前…………」
    「チョウちゃんは、クロくんの代わりに全てを話してくれるんだってさ♪」
     応じたのは、下卑た笑みを浮かべて、諜楽の体を無造作に弄っている女――殯。黒宇は半ば放心した表情で、殯へと視線を向ける。
    「何、言ってんだ……?」掠れた声が、黒宇の喉から漏れる。
    「君の身の安全を保障する代わりに、彼女が全てを話すって言ったんだよ? 悪くない交換条件だよねぇ? てな訳で、今生の別れの言葉を言わせてあげようって、わ、け、さっ♪」
     黒宇の視線が、再び諜楽へと向かう。諜楽は恐怖に身を強張らせたまま、縺れそうになる舌を使って、何とか言葉を紡ぐ。
    「ク、クロは、手が無いと、ハトちゃん、抱き締めてあげられないじゃない……っ」
     黒宇の視線が、僅かに下へ向かう。
     諜楽の両手は、手首で縛り上げられていた。
     ――指が、“一本も無い”、両手首を。
    「――――――――――ッッ」想像を絶する悪寒が、黒宇の総身を駆け抜ける。
     黒宇が惚けて答えなかった間に、諜楽がどんな仕打ちを受けていたか、彼は瞬時に悟った。訓練を受けた男の黒宇さえ耐えられなかった痛みを、諜楽はどんな思いで耐えていたのか……。黒宇を助けたいばかりに狂う事さえできない……それを生き地獄以外の何と例えようか。
    「ごめんね……クロは、生きないとダメなんだよ……っ、ハトちゃんが、待ってるんだもん……。だから、これでお別れ」
    「チョウ――――」
    「――――愛してたよ、クロ…………っ」
     殯に連れられ、諜楽の姿が扉の奥へ消えて行く。
     最後に見せた、今にも崩れそうな笑顔が、黒宇の脳裏に焼きついて離れない。
     ……どうして、
    「…………どうして、俺なんだ……ッ?」
     力など、残っている筈が無かった。
     全てを投げ出して楽になりたかった。
     なのに……なのに……ッ、
    「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――――――――――――――ッッッッ!!!」

     ――こうして、一人の少年の、本当の悪夢が花を開いた。
     狂気に満ち、悪意に滾り、恐怖で彩られた舞台に、新たな役者(ひがいしゃ)が、今――――

    ◇◆◇◆◇

    「……陛下。〈鴉(カラス)〉の報告によりますと、向かわせた〈矛玖鳥(ムクドリ)〉の二名が騒動を起こしたとの事です。状況は、兵麻の“獄焔砲”で広場の一角を焼却、その後、臓玄と共に離脱したとの事ですが……如何為さいますか、陛下」
    「……ふん、兵麻の短気は今に始まった事じゃねえだろ。だからこそ尖兵として活用してやったまでだ。それにちゃんと臓玄が機転を利かせて離脱してる。初手の使いどころは難しかったが、これでもう考える必要が無くなった。後は、明後日まで好きに泳がせとけ」
    「はっ、御言のままに。……併し陛下。如何に〈矛玖鳥〉の上位二名とは言え、敵陣を刺激した上で敵地に留まるのは些か自殺行為なのではと愚考致しますが」
    「閑也(シズヤ)。恐らく奴らはそれどころじゃなくなってるだろうよ。どちらにしろ、発見されりゃあ手ずから薙ぎ払うまで。必要なら皆殺しにすりゃいい。俺が困る事は何一つねえんだからな」
    「……それでは国同士の戦が始まる火種を作りかねません。それでも――」
    「――望むところじゃねえか。端から【燕帝國】以外を殲滅して、世界を席巻する予定なんだから、よ」
    「……御心のままに、――閻太陛下」

    【遊始へ到る】――了
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