鎖錠の楼閣

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    【神戯】032:遊始に到る〈其ノ玖〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第32話

    032:遊始に到る〈其ノ玖〉


    【大聖堂】前の広場は夕闇が広がる時刻になっても喧騒は変わらなかった。
     怪我人は〈神災対策局〉の局員に因って応急の手当てを受け、搬送されていく。倒壊した建物には近づかないよう、『立入禁止』の黄色いテープで周囲を囲う作業も行われている。何が起こったのか事情聴取染みた事も随所で行われていた。
     広場には〈神災対策局〉の局員だけでなく、〈救世人党〉の党員も入り乱れて右往左往している姿が見受けられた。皆事情は呑み込めないまでも、困っている人を助けたい気持ちは一緒で、局員も党員も互いに手を取り合って救助活動に従事している。
     まるで紛争地帯の拠点のような光景だった。軽度の火傷の者は未だしも、灼熱の砲撃が掠めた者は炭化を起こしている肌を押さえ、涙ながらに手当てを受けている。倒壊した建物の近くにいた者が瓦礫の落下を受けて、目許を包帯で巻きつけて運ばれたりする。流石に刃物で傷を付けられた者こそ運ばれてこないが、その様相はまさに紛争のそれと酷似していた。
     その様子を少し離れた場所から見守っていたのは、僅かに焦げた肌に綺麗な包帯を巻いた是烈だった。顔には生気が無く、虚ろな眼差しで虚空を眺めている。
    (……〈牙〉さんは、死んだんだろうか……)
     脳内で自問自答を繰り返し、是烈は放心していた。それ以外に考える項目が思いつかない。衝撃的過ぎる状況に、思考が追いつかないのだ。
     木材を積み重ねて置いてある場所に腰掛け、ぼんやりと〈神災対策局〉と〈救世人党〉の人間が走り回る姿を見つめる事しか出来ない。他にやるべき事はたくさん在る筈なのに、是烈は今回に限って、体を動かす気にはなれなかった。
     ――不意に、是烈の頬に冷たい物体が押しつけられた。意識が瞬時に解凍する。
    「是烈先輩っ。どーしたんですかっ?」
    「……箕萩か」
     冷たい缶コーヒーを是烈の頬に押し当てたのは、この一連の事件に横槍を入れ、何とか賊を撤退させた張本人――箕萩だった。昨日久し振りに再会した時同様、服装に気を遣った格好をしており、とてもではないが局員とは思えない出で立ちで立っていた。
     箕萩は缶コーヒーの一つを是烈に手渡すと、スカートを尻に敷くようにして、木材の上に、つまり是烈の隣に腰掛ける。その手にはもう一つ、缶ジュースが握り締められていた。そのプルを開け、一口、口に含んでから、徐に口を開いた。
    「何を落ち込んでるんですかっ? 是烈先輩は副局長なんですから、もっと確りしなくちゃいけませんよぅ!」
    「……副局長っつっても、局長の命を護れなきゃ、そんな肩書き全く以て必要無いよな」
    「――〈牙〉様が何ですって?」
     瞠目し、是烈の顔を覗き込む箕萩。その顔は僅かに強張っている。そう言えば、と是烈は思い出す。あの現場を目撃した訳ではないんだな、と。――〈牙〉が刹那に焼失する瞬間を。
     どう説明すれば傷つけずに済むだろう、と是烈が俯いたまま沈思に入ると、箕萩は静かに嘆息し、「いいですかぁ?」と人差し指をクルクル回しながら、徐に喋り始めた。
    「是烈先輩はもう副局長なんですから、もっと確りしなくちゃいけないんですぅ! 〈牙〉様が如何に有能過ぎて天才過ぎて完璧超人でもう最強通り越して無敵でも、副局長だって確りしないと、〈牙〉様も困っちゃうんですよぅ? ちゃんと分かってるんですかっ?」
     数瞬言葉が出てこなかった。是烈は返事をしなくてはいけないと分かっていたのだが、喉が痞えて声が出てこない。胸にも圧力を感じていた。
     箕萩が「お返事はっ?」と指差して告げるのを見て、是烈は苦しげに奥歯を噛み締め、何とか感情を抑え込む。
    「……そうだな、お前の言う通りだ、箕萩。まさかお前に諭される日が来るとは思わなかったよ」
     取り繕った微苦笑を滲ませ、是烈は溢れる感情を悉く押し潰して返答する。
     箕萩はそんな是烈の内情など露知らず、にんまりと満足そうに笑むと、今度は胸を張って鼻を高くし始める。
    「ふっふっふっ、このミノちゃん様を侮ってはならないのだっ! いつか副局長の座を奪いに行くから、覚悟しとけよぅっ!」
    「はは、それは怖いな。……ありがとな、箕萩」
    「えっへん! まっ、あたしに掛かれば何でも御座れって奴ですぅ! ――でも、元気が出ないなら、一度支部の方に戻って、仮眠でも取ってくれば良いですよぅっ。そしたら、あたしよりもちょこーっとだけ回転の良い頭が復活するかもっ、ですよ!」
     それだけ言い残すと、箕萩は立ち上がり、是烈に手を振って立ち去って行った。
     夕闇は徐々に濃くなり、やがて辺りを闇に包み込むだろう。それでも救助活動は続けられるし、局員、党員共に不寝の活動となるだろう。それだけ規模のでかい事件だったし、被害者もそれに比例している。
    「……〈牙〉さんは、もう……」
     箕萩には言ってない事がある。大事な大事な、想い人の訃報を。
    (――言える訳が、無いじゃないか……ッ!)
     奥歯が軋る程に噛み締め、拳を固める。思わず握っていた缶が拉げ、中身の黒い液体が溢れ出る。
     でも、今はまだ隠しておくべきだ、そう是烈は考えた。今はまだ、失踪した事にしておけば、これ以上の混乱は起こらないだろう。……いや、目撃者が多数いるだろうから、虚言を吐いたって、いつかはバレる。
    「〈牙〉さん…………っ」
     悔しさが、喉を衝いて漏れる。


    〈神災対策局〉【真央都】支部に戻って来た是烈は、局員専用の仮眠室に見知らぬ少年が座っている事に気づいた。
     眼鏡を掛けた、大人しそうな風貌の少年。歳は十代後半と言った所で、是烈よりも若い印象が有る。線が細く、見ようによっては肉付きの悪い女性と思えない事も無いが、男に間違い無いだろう。座っているから判り辛いが、百八十を超える長身だと思われる。服装はモノクロのシャツとスラックス。何より特徴的なのが、髪だった。色素が少し抜けた灰色の髪が、まるで周囲を回っているかのように見える癖っ毛なのだ。瞳も髪と同じく、色素が少し抜けたような灰色で、垂れ目がちのためか、印象を更に優しげに映し出す。
    【真央都】支部の人間には違いないだろうが、是烈は彼をどこかで見た気がして仕方なかった。そしてその想いは、間違いではなかった。
    「遅かったな、是烈」
     ――落ち着き払った声。年寄とも、若人とも取れる、言わば若年寄とでも称すべき声で呟かれるその言葉の端々に、是烈は彼を連想せずにいられなかった。
    「き、〈牙〉、さん……!?」
    「いいや、俺は〈牙〉じゃない」
     是烈から思わず出た言葉を即刻否定する眼鏡の少年。併し是烈はそれを鵜呑みに出来る程、馬鹿でも阿呆でもなかった。
    「そんな訳無いです! 〈牙〉さんなんでしょ!?」
    「……言い方を間違えたかな。俺は、“今は”〈牙〉じゃない」
    「今は……? そ、それじゃ今は……?」
    「――冴羅(サラ)だ」
    「サラダ?」
    「違う違う。冴羅、冴羅です、冴羅っす、冴羅さ、冴羅な。“だ”は要らない、――冴羅」
     ――冴羅。その名前を是烈は知っていた。
    〈牙〉に〈神騎士〉に成れと言われた日から、是烈は〈救世人党〉が保有する教典に手を出した。〈禍神〉に関する記述を読んでおきたかったのだ。
     そして知った。四人いる〈禍神〉の名を。
    〈狂気〉を司る〈禍神〉――殯。
    〈断罪〉を司る〈禍神〉――冴羅。
    〈復讎〉を司る〈禍神〉――律。
    〈不羈(ふき)〉を司る〈禍神〉――閻太(エンタ)。
    〈牙〉は〈禍神〉の一人だった。そして殯、律と言う名が出てきた時点で、もう二人分しか枠は無い。故にどちらかだとは思っていたが、今、やっと分かった。
    「貴方が……〈断罪〉を司る〈禍神〉――冴羅、さんなんですか……?」
    「……誰かを〈断罪〉した覚えは無いんだけどね。多分その辺は殯が勝手に考えたんだろうさ。深い意味は無いぞ」
     応じる冴羅に気負いは無い。平然と、認めた。
    「……あの、冴羅さん。今は冴羅さんですけど、〈牙〉さん、って呼んじゃいけないんですか?」
    「あぁ、ダメだ」即答する冴羅。
    「何故?」
    「〈牙〉は、牙の面を被って初めて名乗れるものだ。俺は面を被っていないだろ? だから、俺は今、〈牙〉じゃない。今は――冴羅って呼んでくれ」
     ベッドに腰掛けた姿勢のまま冴羅は顔を上げ、是烈に微笑みかける。――十代後半の若さでありながら、まるで老人のように深みの有る笑みだった。その笑みに是烈は一瞬、息が詰まりそうになった。
    「えっと、じゃあ冴羅さん。……生きてたんですね……」
     今度は安堵する番だった。あんな爆撃を受けて生きているなんて俄かには信じ難いが、〈牙〉――冴羅はこうして無事な姿を是烈に見せている。
     眼鏡を押し上げ、冴羅は若干表情を曇らせた。
    「俺の説明を聞いてなかったのか? 俺は【神戯】が始まるまで不死なんだぞ? 死ぬ筈が無いんだ」
    「そんな事言われても……あんな光景見たら、どんな奴だって死んだって思いますよ!」
     それに、生きているなら生きているですぐに姿を現してくれればいいのに、こんな所で誰にも気づかれずに寛いでいるし。ここまでくると意地悪されているとしか思えなかった。
    「まぁ、確かにそうだな。俺もあそこまで殺されたのは初めてだ。だが、こうして生きてるところを見ると、殯が設定した不老不死はこの程度では壊れない代物だったんだな」
    「……それはもういいっすよ。でも、生きていたならどうしてすぐに現れなかったんです? 敵を仕留めるなら、俺も力を貸せた筈なのに」
     冴羅は「いやぁ、」と照れたように頬を僅かに紅潮させる。
    「生きているには生きていたんだがな、牙の面は疎か防災服も全焼しちゃってな……流石に一糸纏わぬ姿で現れるのはどうかと思わないか?」
    「……あぁ、そういう事っすか」
     確かに、今は説明されて彼が〈牙〉だと分かっているが、広場で全裸の男から「俺は〈牙〉だ」なんて言われても俄かには信じられない、と言うか疑う以外に有り得ないだろう。
    「今、朔雷に防災服の予備を届けるように連絡した。明日には到着の予定だから、それまで俺はここで待機している事にする」
    「……つまり、〈神災慰霊祭〉当日――【神戯】の日に、また乗り込むんですね?」
     ここまで来て、是烈は初めて情報不足を悔やんだ。まさか、あんな化物染みた戦闘力を誇る人間が出てくるとは思っていなかったのだ。……正直な話、〈神騎士〉と言われても是烈にはイマイチその凄さを誤認していた部分があった。自分の〈神力〉こそが最強に近しいと、本気で思い込んでいた。
     そんなものは空想だった。敵はその更に上、〈神力〉を行使して初めて対等になる膂力を誇っている。それも当然だ、敵も〈神力〉を持っているのだから、ただの人間がどう足掻いても敵う筈が無い実力を誇るに違いないのだから。
     自分の実力不足、そして相手に関する情報不足。二つの要因が重なれば、それだけで脅威になり得る。これは、そういう盤上での物語なのだから。
    「……〈牙〉――冴羅さんの言っていた事が今、やっと理解できました。根を詰めないと、確かに勝てないかも知れません。俺は少し、……いえ、確実に油断してましたし、慢心してました。今後はもっと気持ちを引き締めていきます」
    「そうだな。その事に気づけただけでも、高い授業料を払っただけの事は有る。……俺も、どこかで慢心していたように思う。何も敵は殯だけじゃない、まだ他に二人もいるって事を、再認識させられたな……」
    〈神災対策局〉のトップである二人は、そう言って微笑を向け合った。初めて見た〈牙〉の素顔の微笑は朗らかで、心を洗われるようだった。
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