鎖錠の楼閣

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    【神戯】031:遊始に到る〈其ノ捌〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第31話

    031:遊始に到る〈其ノ捌〉


     夕刻とは言えまだ宵闇が迫る時刻ではない。下界は黄昏色に溶け、懐かしさを内包する景色を映し出していた。
     二十八階にある執務室より望める景色は周辺に散在する木賃宿などより何倍も美しい。と言っても夜になったらネオンが輝く訳でもないため、望めるのは遥か遠方まで見渡せる景色と、地上が点のように小さく映る鳥瞰くらいだ。
     ……それも、今し方、崩れ去ったが。
    「……何だ、あの力は……!!」
     耳を劈く轟音が走ったと思った次の瞬間には、窓から見える景色の一部がごっそりと刮ぎ落とされていた。即座に自身の双眸を疑ったが、納得せざるを得ないのか、幻覚などでない事はすぐに理解できた。
     広場の中に在る空間――先刻まで露店などが建ち並び、その先には二~三階建ての建物が連なっていたのだが、そこがまるで砲弾の直撃を受けたかのように黒煙を昇らせながら、姿を消した。
     轟音が鳴り響いた瞬間、心臓が跳ね上がる感覚を連れて、窓へ走り寄った時には、その光景は既に完成していた。何が起こったのか理解できない――その光景は他に言い表しようの無い、悪夢と同等の代物だった。
    「――――これが……」
    〈禍神〉の力、なのか……!?
     先程痛感した〈牙〉と言う名の〈禍神〉の実力など、まるで児戯みたいなものだ。夢物語で綴られる“魔法”と呼ばれる非現実的な力を用いたような有様が、眼下に広がっている。まさか殯や〈牙〉もこのような力を持っているのか……? そう思うだけで背筋が強張り、思考を急速に凍結させられる。
     ――と、そこで意識が現実に戻り、刹那に白風は行動を開始していた。デスク据え置き型の通信機を手に取り、放送室へと内線を繋げる。
    「白風だ。直ちに二等僧兵の第一から第四小隊に【大聖堂】前広場へ急行するよう伝達。被災者の救助を最優先に、火災の鎮火活動を可能な範囲で行えと伝えろ!!」
    「み、御言のままに!」
     内線の電源を切り、白風は再び窓辺へと近寄る。空が晴れ渡っていると言うのに、辺りには白い霧が立ち込め始めている。その中心と思われる場所では、噴水が二十八階の高さにも届かんばかりに噴き上げている。噴水が噴き上げている場所に水道管が走っているとは聞いていない。あれも――何者かに因る攻撃なのか?
     白い霧は地上を覆い尽くし、視界を白く奪っていく。これでは僧兵が駆けつけても、すぐには救援活動に取りかかる事は出来ないだろう。敵の企みが何であるか分からない現在、僧兵を向かわせるのは得策ではないのか、と白風は一瞬惑う。
     白風が再び通信機に手を伸ばそうとした、その時だった。ノックも無しに扉が開き、一人の少年が部屋に飛び込んで来た。

    ◇◆◇◆◇

     黒宇は白風が在室する執務室の扉を蹴破って入り込むと、相手が構える間も無く作戦を実行に移した。
     ――この部屋に白風が在室する事、そして部屋の近くには一人も近衛がいない事、更には緊急を要する事態に陥っている事、全ては諜楽の〈全聴〉の異能が有れば掌握できる情報だった。相手が疲弊し、混乱している今が、襲撃するのに絶好の好機と二人は判断した。
     白風が侵入者の姿を認める前に、黒宇は〈破限〉の異能を始動させる。“スイッチ”を切り替え、身体能力を限界まで引き上げる。運動能力が絞り上げられた瞬間、一歩踏み込んで跳躍――弾丸の速度で白風の頭を狙う。
    「――――ッッ」
     そこから、黒宇の目測は外れた。
     白風が刹那に意識を黒宇へ向け直し、直前になって頭部を両手で防御――黒宇の必殺の跳び回し蹴りが防がれる。
     ――が、威力までは防げない。白風の体は大きく吹き飛ばされ、デスクの上の書類をばら撒きながら、絨毯の上を転がっていく。受身は取れたようで、流れる動作で起き上がると、片膝を突いて黒宇に視線を向ける。――が、焦点が定まっていない。半規管が揺さ振られたのか、平衡感覚も掴めず体をまっすぐに保てない。
     黒宇はデスクの上に着地し、した瞬間に跳び上がり、今度は白風の頭頂目掛けて踵を振り下ろす。初撃で戦法を切り替えた。殺す気で掛からねば、捕縛など出来る筈が無い――と。
     定まらぬ焦点に加え、平衡感覚の戻らぬ体と言うアドヴァンテージを抱えているにも拘らず、白風は横に転がって黒宇の踵落としを紙一重で躱す。ごがッ、と黒宇の踵が薄い青色の絨毯と共にコンクリートの床を打ち砕く。破れた絨毯と砕けたコンクリート片が散り、破片が白風の頬を打つ。
     ――迅(はや)い。そう素直に感じた。反射神経云々の問題ではなく、その単語は黒宇にとっては“強い”と同義だった。
     黒宇には〈破限〉の異能が有る。自己の限界を凌駕するその身体能力を以てしても、相手を捉える事が出来ない……その事実は彼の思考を脅かすには充分な材料だった。
     踵が床を破砕した直後に、その脚を軸にして左脚を使って回し蹴りを放つ。息も吐かせぬ猛攻を繰り出すしかない。アドヴァンテージを抱える白風に物を考える余裕など与えてはいけない、反撃を許す事も出来ない。追い詰めて、追い詰めて、手が無くなって隙を見せた瞬間にこそ、黒宇の一撃が決まると信じて――――
     白風はまだ平衡感覚が取れないのだろう、踵落としを辛うじて躱しながらも、回し蹴りの連撃には対応できず、ふらりと体を傾げながら、何とか持ち上げた右腕で回し蹴りを受け止める――その時、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)を綺麗に折った感触が、黒宇の脛に齎される。
    「ぐッ、……ッ」
     白風の顔が苦痛に歪む。そして回し蹴りの衝撃を殺せず、横滑りに薄い青の絨毯を転がり、壁に叩きつけられる。激痛に耐えているのだろう、右腕の折れた部分を押さえ、歯を食い縛りながらも、何とか起き上がろうとしている。
    「助けてくれよぉ……!」
    「!!」
     不意に意識の底に蹲る何者かの声が、脳裏に木霊する。忘れる筈が無い、黒宇が初めて意識を投げ出して殺めた男。名前など知らない。どこにでもいる男だった、――なのに強盗を犯した事が不運の始まりで、結局黒宇の手により殺められた、娘に逢いたがっていた、人間。
    「お願いだよぉ……」
     血塗れの顔が眼前に浮かぶ。黒宇は自分の顔が蒼白になるのが分かった。血の気が引く――拳が震えて、固める事すら叶わない。
    (こんな時に……ッ!!)
     だが、こんな時にこそ奴が現れるのも、黒宇は知っていた。
     初めて殺人を犯した日の後も、何度か〈忌徒〉の訓練と称して殺人を犯した。その度に血塗れの男は現れる。それも――仕留める直前になって、黒宇の意識を苛むのだ。
     意識の底に巣食うこの悪夢の塊は、何度だって黒宇の行動を妨げてきた。だが、黒宇はそれに平伏す事は無かった。気力だけで今まで持ち堪えてきた。悪夢の象徴に負けたら、恐らく現実でも勝てない――そう信じて、黒宇は今まで悪夢と戦い続けてきた。
     今も、そうだった。それに、今は白風を殺す訳ではない。殺す気で掛からないと負ける事を理解していたからこそ、殺すつもりで戦っていただけだ。なのに――
    (どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ……ッ!!)
     視界が軋む。今ここで失敗を犯せば間違い無く危険だ。ここまで追い詰めたのだ、逃げる選択を黒宇には選ぶ事は出来ない。白風をここで――捉える。
    「――チョウ!!」
     現実を呼び戻すために黒宇は恫喝染みた声を喉から走らせる。捕縛のタイミングにはまだ早いが、致し方ない。そうしなければこのままでは遁走も考えねばならない。
     白風は黒宇の叫び声を聞き取った刹那、仲間がいると察したのだろう、苦痛に歪んだ顔を更に曇らせ、額には大量の汗を浮かべている。息遣いも荒く視線も定まっていないが、苦境に追い込まれた事を正確に把握しているように見えた。
     諜楽が来る前に黒宇は最後の仕上げをしておかなければならない。それは――白風を降伏させる事。完全に戦意を喪失させ、抵抗できない程に追い込む。そこまでして初めて諜楽と共に彼女を捕縛する事が出来る。諜楽は戦闘要員ではないから、その作業は黒宇が単独で行わなければならないのだ。
     白風は庇っていた右腕から手を離し、未だに焦点が定まらない瞳で、苦しげに口を開いた。
    「……狙いは、私ではないのだろう、貴様……!」
    「……お話がしてえ訳じゃねえんだ、――眠って貰う!!」
     床を抉るように踏み込み、砲弾を連想させる速度と膂力で放つ拳は、過たず白風の鳩尾を狙っていた。それで、決まる筈だった。

    「残念だなぁ、あたしは君とお話がしたいんだけどなぁ」

     ――不意に室内に響いた、第三者の声。
     その声に導かれるままに黒宇が振り返ると、そこには諜楽の首筋に刃物を這わせた、少女が立っていた。
     格好は〈救世人党〉の党員を表す祭服だが、纏う雰囲気がその辺の奴らと根本的に違う。野卑な笑みを顔に貼りつけながら、隙だらけの姿で諜楽を盾にこちらを窺っている。
    「この子、犯されたくないでしょ? 大事な大事なお姫様を犯されたくなかったら、取り敢えず跪きなさいな♪」
    「……手前、何言ってんのか分かってんのか? こっちには党首補佐が――」
    「聞こえなかったァ? “お姫様が犯されたくなかったら、跪け”って言ったんだけど」
     黒宇は思わずたじろいだ。少女の反応に致命的な温度差を感じ取ったのだ。
     党員なら理解できる筈だ。賊の命と、党首補佐の命、両方を天秤に掛けたら、どっちを生かすかなんて誰にでも理解できる図が完成する。なのに――彼女は、党首補佐など見向きもしない。
     少女の関心は、完全に賊にしか向いていない。賊をどう料理するか、そこにしか。
    「ク、クロ……この人が……殯、みたい……」
     口許を震わせながら、完全に怯えきった表情で声を漏らすのは、首筋に短剣の刃を当てられた少女――諜楽だった。その一言で、黒宇は状況を呑み込む。
    「手前が……〈禍神〉か……!!」
    「あーぁ、再三忠告したのに。じゃ、まずは耳からいこっか♪」
     少女――殯の左腕が諜楽の首を圧迫し、短剣を握り締めた右手を諜楽の顔の前へ移動し、――何の躊躇も無く、諜楽の左耳を刮ぎ落とした。
    「いッぎ――――――ッッ」
     声にならない絶叫が諜楽の喉から迸る。ぽた、と諜楽の小さな耳が絨毯の上に落ちると、覆い被さるように血液の水滴が連続して落下し、絨毯に水玉模様を描き始める。
    「――手前ッ!!」
     黒宇が“スイッチ”を入れたまま突進しようとし――〈禍神〉の少女が再び諜楽の首筋に短剣の刃を這わせる。
    「人の話を聞かない子は嫌いだなァ。仕方ないからもう一度、言ってあげよう。――“このメスガキを犯されたくなかったら跪け”」
    「――――ッッ!!」
     がりッ、と奥歯を軋らせ、黒宇は顔をどす黒く赤らめて、刹那に膝を地に突いた。
     諜楽は殯の腕の中で苦痛を悲鳴に転換して叫び続け、落涙しながら腕の中で悶えている。その動きが少しだけ弱まり、黒宇を見て絞り出すように声を吐く。
    「ダメ、だよ……ッ、クロだけでも、逃げて……ッ!!」
    「勿論君には逃げる選択肢が用意されてるよ、クロくんとやら。でもその時は、この娘が二度と日の目を見られない体になっちゃうけどねー♪」
    「……〈禍神〉ってのが人間基準で考えちゃいけねえってのはよぅく分かった。手前は、絶対にぶっ殺す……!!」
     黒宇が射殺さんばかりの眼光で殯を睨む。その視線を軽く往なし、殯は壁際で苦しがっている女へと声を投げた。
    「――シロちゃん。〈狗隠〉の閑そうな奴を三人、連れて来て頂戴。この可愛らしい賊二人組を連行してって」
    「み、御言のままに……」
     苦しげに応じ、白風はデスクの上から落ちてしまった通信機を無事な左手で取り、どこかに内線を繋げて会話を始める。その間、黒宇は跪いたまま動く事は無かった。殯が諜楽の首筋に短剣の刃を押し当てたままだったからだ。それも少し力が加わって、赤い筋が入って、微量だが鮮血が滴り落ちている。
    「……俺達をどうするつもりだ?」
     低い恫喝染みた声で黒宇が尋ねる。マトモな回答は期待していなかったが、聞かずにはいられなかった。
     殯は「うふーふ♪」と愉しげに唇を曲げ、嘲弄を伴った声を吐き出す。
    「さて、どうしようかなァ? あたしは極悪非道、悪逆無道、腐れ外道で有名な〈禍神〉だからねェ、何が起こるか、今から楽しみでしょう……?」
     ……そう、黒宇はまだ気づいていなかった。
     今まで見てきた悪夢など、これから見る悪夢に比べれば、悪夢と呼べない事に…………
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