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    【戦戯】024.猟王の園庭〈4〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    戦戯

    ■あらすじ
    遠い未来。戦争が当たり前のように行われる荒廃した世界で、或る男に一本の電話が入る。「君にゲームをして貰いたいんだ」……それが悪夢の始まりだった。――ひょんな事からチームを組んだ四人の男女の、狂れたゲームの物語。

    ▼この作品はブログ【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n3582cz/)、【ハーメルン】(http://novel.syosetu.org/73083/)、サークルサイト【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881703366)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ▼再投稿作品になります。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり 戦争 ライトノベル 銃撃戦 再投稿

    ■第27話

     024.猟王の園庭〈4〉

     静寂。動体が無くなったアズラク市の街路を、散策でもするような暢気さで縦断する、一人の僧侶の姿が見受けられた。全身を返り血で真っ黒に染め上げたその姿は、殺人鬼でさえも忌避するような悍ましき空気を漂わせている。
     視野に映り込む全てを屠殺してきた彼の双眸には、最早生物の気配は感じ取れなかった。屠殺場が完全に移設された事を、肌身を切る空気で知覚する榊。その濁りきった瞳が不意に上空に向けられ、眇められる。
    「……面妖な。怨霊の類いか」
     ぼそりと呟いた瞬間、袈裟に仕舞っていた携帯端末が震動を齎(もたら)す。震動は小刻みに震えたり止まったりを繰り返し、やがて動かなくなる。着信とは別のヴァイブレーションであったため、手にとって確認する事も無く、音の無い言葉を聞き取る。
     こんな迂遠な通話をしてくる相手など限られている。その内容も彼ならではのモノだ。何者かに対しよほど警戒しているのか、ここまで婉曲な通信は久方振りで、榊は表情にはおくびにも出さずに苦い愉悦を吐き出す。
     大学施設襲撃の時からそうだが、今日は朝から珍事の現界が多い。お陰で大量の衆愚を済度できたのは喜ばしい限りで、それに纏わる現象に対し一顧だにしないスタイルを貫く榊だが、この現象の裏側に全く関心が無い訳ではなかった。
     ヴェルドが関与し、己と言うキリングマシーンに助力を乞う時点で、何かしらの止ん事無き事態に見舞われている事は想像に難くないが、己にとって緊要な事柄ではないと判断を下す。己の至上の命題はあくまで衆愚を済度する事であり、それ以上でも以下でもない。関心は湧けど、熟思する暇が有るなら済度に所懐を費やすべきだ。
     雑念は崇高なる精神を脅かす。心頭滅却すれば火もまた涼し。研ぎ澄まされた刀剣のように、持ち主を選ばず、ただ群盲を斬首していけばいい。
     改めて観想し、澄み渡る晴天のような瞳で活動を再開しようとした榊の前に人影が舞い降りた。
     まるで空から降ってきたかのように、ふわりと着地を決める、道化。恭しく、そして仰々しく一礼すると、榊に向かって声を掛ける。
    「初めましてお坊様! このような絶佳な舞台でお坊様と逢着できました事、感奮至極に存じ上げます!」
     嬉々として虚妄を吐き連ねる道化に、榊は驚きの感情を瞳に点らせる。
     彼女は、済度の対象の一人であると同時に、現在の穢土を築き上げた根源に一番近いと認識せざるを得ない、悪徳の塊であると、榊は肌身に纏う空気から感じ取る。
     故に済度しなければならない、――と言う経路は辿らない。彼女の存在は、済度すべき衆愚の剔抉(てっけつ)を容易にするだろう。
     彼女は、“使える”。道化の挨拶だけで、榊は即時にそう判断した。
     道化はそんな榊の瞠目に構わず、踊るように手を振り足を捌き、彼の元へと歩み寄って来る。
    「――お坊様。どうかこの哀れで見窄らしく不憫な道化をお助け願えませんか? お坊様の手腕が有れば、不備無くわたくしの望み、願い、求めに応じて頂けるのですが……!」
     手を合わせ、榊の眼前で跪拝(きはい)する道化。あまりに隙が多く、あまりに無駄が多過ぎるその挙動の数々が、榊にとって、散発する銃声や悲鳴、怒号を主旋律とした、雅楽を見ているかのような気分にさせた。
     彼女の行動に意味など、理由など、何も介在しない。無駄に尽きるその仕草にこそ、神聖なるモノが宿り、剰え神々しくさえ映る。虚妄と虚構の果てに見る楽園に繋がる道標を、彼女は体現しているようにさえ感じた。
     空虚の塊。彼女の瞳に映る存在は虚無。故に虚空。それはまさに、榊が夢にまで見た穢土の先に有る景色である。
    「断る道理は有りません」端的に、榊は喜色を塗る。「説示してください。拙僧の導き手となる本義を、具備しているのでしょう?」
     榊の熱誠なまでの態度に、道化――クラウンは仮面の下で微かに驚きの表情を滲ませるも、それをおくびにも出さずに「あぁ、有り難き幸せで御座います、お坊様……!」と榊の手をひし、と握り締める。「これにてわたくしとお坊様は一蓮托生、共に舞台を歩む演者と相成りました♪」握り締めた手を持ち上げると、踊るようにその手で闇に沈む道の先を指差す。「彼女もお坊様と同様に舞踏の演者、名を――影狼と申します♪」
     暗闇から躍り出た影狼と指し示された民警の女隊長は、クラウンを認識した瞬間、「貴様、今度は何の真似だ!?」とレプスを構える。「同胞をどこにやった……!? 答によっては今ここで貴様を処す!」
    「お客様のお友達はご無事です! ご安心ください! わたくしのお友達が確りきちんとお友達の元までお届け致しましたから♪」榊の手を握り締めたままクルクルと回り、影狼の手と握り合わせるクラウン。「ここにお約束を契りましょう! お客様とお坊様、先刻まで敵同士だったお二人が手を取り合う姿、わたくしは切に望みます……!」
    「敵同士、だった……だと……?」覆面越しに榊を見やるも、相手が何者であるか影狼には即座には把握できない。「貴様はテロリストの仲間か……?」
    「民警の狗でしょうか」澄み切った眼差しで影狼を捉える榊。「拙僧の名は榊蕃。僧侶を務めております」
    「榊……蕃……!?」手を振り解こうとして、榊が固く握り締めているため一瞬動きが硬直する影狼。「民間人七千人を無差別に殺害した、国際指名手配犯の中でも超重犯罪者の、榊蕃か貴様……ッ!?」
    「心得違いを為されぬよう」澄んだ表情で、併し影狼から手を離さずに告げる榊。「此度の穢土で築いた済度を加えて、一万飛んで十七人を我が骨身に載録しております。浄書する時は微に入り細を穿った編纂でお願い申し上げる、民警の狗よ」
    「貴様……ッ!!」空いている手で腰に手挟んでいたハンドガン――ニヒを構えるも、それすら掴まれて射撃不可にされてしまう。「くッ――!!」
    「貴女と事を構える気は有りません、お気をお静めください、民警の狗よ」穏やかな眼差しで、説き伏せるように謳う榊。「私はそこな道化に尽くす俗骨です。彼の道化が貴女と契れと仰るのであれば是非は無いのです。事を荒立て、無用な邪気を振り撒くのであれば、済度も致し方無しと言う心証を懐かざるを得ませんが」
    「貴様ら外道と契れだと……!? 冗談はその罪の多さだけにして貰おうか下郎!!」思いっきり榊の股を蹴り上げる影狼。「貴様だけは……ッ!?」
    「……道化。彼女は私と良友となる底意は無さそうです。済度しても、構わないでしょうか?」
     影狼が蹴り上げた足を、股と膝で固定する榊。影狼は両手と右足を固定され、身動きすら取れないまま、怪物を見据える事しか出来ない。榊の表情は凪いだ水面のように澄んだ色から一切変動する事は無く、どれだけの敵意を向けてもまるで動じずに影狼を見据え続ける。
     まるで仏像でも相手にしているような存在感だった。眼前にいるにも拘らず、眼前にいると言う実感が薄れてしまう程に彼の意識を覗けず、そして眼前にいる事を総身に刻み込むかのような異常な空気を発し続ける存在感は、並大抵の犯罪者では出し得ぬ、怪物染みた威圧を感じさせる。
     影狼にとって、彼は今この瞬間にも殺害したい相手である。七千人にも上る死傷者を出した、凶悪な殺戮者。勿論その中には同業者である民警の人間も多数含まれている。立ち塞がる全てを皆殺しにした彼を殺さねば、これからも被害者は増大する一途だろう。
     併し――今の影狼はあまりにもアウェーに立たされていた。味方はいない。搬送していた味方が忽然と消え失せ、突然クラウンが現れて告げたのだ。「新たな演者を召喚致します! お客様には是非彼とも仲良くして頂きたいのです♪」と、まるでお遊戯会でもするかのように楽しげに影狼の手を引っ張ると、ここに辿り着いた。
     ここは――本当に地獄だ。影狼は痛感する。悪夢でも見ている気分にさせられる程に、次から次へと予想だにしない、地獄のような光景を見せつけられる。アズラク市一帯が爆撃されたかと思いきや、今度は世界を震撼させる程の凶悪犯との邂逅。際限の無い悪意が容赦無く影狼の総身を憎悪で焼いていく。
    「お坊様! お客様にはちゃんと役割が用意されているのです! ですから、是非仲良くして頂きたいのです! わたくしとお坊様はお友達♪」榊を指差し、自身を指差すクラウン。「わたくしとお客様もお友達♪」影狼を指差し、自身を指差す。「でしたらお坊様とお客様は……?」う~ん、と腕を組んで悩ましげな声を出すと、「そう! お友達♪」人差し指を立てて、コトッと小首を傾げる。
    「巫山戯るなァ!!」ギリギリと右足を榊の股と膝で圧迫されながらも、影狼は懸命に吠え立てる。「私は賊と……ッ、手を組んだりなど……ぉッ!!」
    「やれやれです。全く困ったさんですお客様は!」やれやれと肩を竦めて手のひらを夜空に向けるクラウン。「わたくし、こういう事はあまりしたくないのですけれど、大好きなお仕事のためですから、仕方なくするのですよ?」ぷんぷん、と言いながら携帯端末をポン、と突然手のひらの上に跳び上がらせると、影狼の耳に宛がう。
    「何を――」と影狼が躊躇する間も無く、音声が届いてきた。
    「た、隊長ですか?」聞き覚えの有る声――そう、数時間前に聞いた、部下の声だった。「彼女の命令に従ってください、隊長……!」
    「――――ッッ!?」血の気が引き、泡を噴きかねない表情でクラウンを睨み据える影狼。
     クラウンは道化の仮面をこちらに向けて人差し指を頬に当てて小首を傾げる仕草を見せた。
    「お願いします、隊長……どうか、……ッ」
    「お客様……わたくしもこのような所業を為してまでお客様を従わせてしまった事、心底より苦慮しております」悄然と項垂れるクラウン。「本当はお客様には快くお友達になって頂きたかったのです……だって、わたくし達は同じ志を有する朋友なのですから! あぁ! 何て甘美な響きでしょう! わたくし達は、生まれた日、時は違っても、お友達の契りを結びまして、心を同じくして助け合い、立ち塞がる者達を殺しましょう!」そっと榊と影狼の手に自分の手を重ねるクラウン。「誓ってください、さぁ! 煉獄の誓いを、ここに契りましょう!」
     ――狂っている。
     最早そう形容する以外に、影狼は言葉を持たなかった。初めて遭遇した時から、頭のネジが何本も吹き飛んでいる輩だとは感じていたが、今以て思い知る。こいつは、人間として感性が明らかに破壊されている。犯罪者としても、破綻者としても、異常者としても、何れにもカテゴライズされ、何れにも分類されない、逸脱した存在。
     従う以外に、道は無い。遂にこの時を以て、影狼の心は折れた。彼女には逆らえないと、心の支えになっていた芯が根本から圧し折られたような錯覚に陥る。この道化と言う存在が、底知れぬ恐怖の権化として、影狼の心を縛り上げ始める。
    「契りましょう。私に是非は有りません」
     そして、この男も異形だと、影狼は怖気と共に見据える。
     このあまりにも異常に堕した領域ですら平常心そのもので臨める彼の心胆とは如何程のモノなのか、想像すら出来なかった。人間として最低限備えている筈の未知の存在に対する恐怖心すら、彼には備わっていないように思える。
     それどころか、まるで神々しいモノでも扱うように道化を見据えるその澄んだ眼差しには狂気の片鱗すら窺えた。異形の怪物が、異教徒の偶像を崇め奉っているかのような悍ましさが、眼前で繰り広げられている。
    「……わか、った……ッ」
     己の了承の意など彼らには関係無いのだ。彼らは、己が掲げる常軌を逸した価値観に従っているだけであり、それに服従するかしないかの判断でしか、影狼と言う存在を見ていない。従うのであれば害さない、従わないのであれば事も無げに害する、たったそれだけの思考しかない。
     故に、影狼にはここで服従以外の選択肢が存在しなかった。彼らは躊躇しないだろう。目の前の小さな草花にどんな感情を懐けるだろうか。容易く踏み拉けられる草花が抵抗すると言う考思を、そもそも持ち合わせているのか。
     影狼の前に立ち塞がる悪夢が服を着た二人は、彼女自身の力だけではあまりにも圧倒的な力を持ち過ぎている。敵うか敵わないか、と言う段階にすら立てていない。抵抗できるか否か、ですらない。彼らの前に立てるか否か、その段階でも限界だ。そんな領域の怪物を相手に、影狼が打てる手などあまりに少なかった。
     今は渋々であれど従う。それが最善である以上、己の信念に汚泥を塗りたくってでも進む他無い。好機を待つしかない。彼らが隙を見せる、ほんの一瞬を見逃さぬよう、己の両眼が汚物で穢されていったとしても、彼らから目を逸らさず、射殺さんばかりに、睨み据えてやるのだ。
    「良かった♪ わたくし達は今を以てお友達です♪」二人の手を取り合って楽しげな笑声を上げるクラウン。「では、早速皆でドライヴしましょう! 目的地は、――そう! ニーリー市! そこで、素敵なパーティを開催致しましょう♪」
     クラウンが軽やかに指を鳴らすと、眼前に突然ジープが降って涌いた。驚きを隠せない様子の影狼を無視して、榊は助手席に乗り込んで行く。クラウンは運転席に座り、背後を見やって影狼を手招く。
    「さぁお乗りくださいお客様! わたくしが優しくエスコート致しますよ! ふふっ、ご安心ください! わたくしの運転は、安心、快適、夢見心地な乗り心地をご提供致しますから♪」
    「……」
     正味の話、不安しかなかった。
     得体の知れない恐怖感を胸に据えたまま、影狼が後部座席に座り込むと、クラウンは楽しげに笑い、「さぁ参りましょうか! 宴はこれからですよう! レッツゴー! 素敵な夜の世界に繰り出しましょー!」とギアを切り替え、アクセルを踏み込む。
     急発進を始めたジープに振り落とされそうになりながらも、影狼は何とか座席を掴んで耐え忍ぶ。
     これから連れて行かれる場所が常軌を逸した地獄以外であるなら大歓迎だが、そんな事は万が一にも有り得ないだろうな、と正気の数値を削られながら嘆息を落とし、今一度失われた正気を取り戻すように歯を食い縛る影狼。
     夜空の闇は濃くなっていく。惨憺たる惨劇は河岸を変えるのだ。煉獄は、拡散する。

    ◇◆◇◆◇

     ニーリー市の外周区は、電飾が煌びやかに点る中心区とは違い、静寂と闇に支配されていた。人気の感じられない街路をジープは法定速度を無視して突き抜けて行く。
    「このまま直接空港には向かわず、一旦散開しましょう」ジープのハンドルを握りながらヴェルドがポツリと呟いた。「目的地にトラブル無く侵入を果たすため、最低限のクリアリングをしておきたいので、私とマーシャさんは単独で、刃蒼さんは臥堂と共に、三分隊を編成して空港に向かいます」
    「ヴェルドさんは、空港がこのゲームの最終目標地点と考えとるって判断でええんかな?」ジープが夜の闇に沈む街路の一角で停車したのを見計らい、刃蒼が飛び降りる。「そのための情報収集を先行した方がええっちゅう事か?」
    「このゲームの本質を正しく理解しているとしたら、導き出される解は一つですが」
     ヴェルドの値踏みするかのような視線に、対する刃蒼は涼しげな表情を崩さず、惚けるように首の後ろを掻く。
    「せやなぁ……僕の予想では、このゲームは既に終着点が決まっとる。皆が笑ってこのゲームを終わらせるには、その結末を回避する必要が有ると、僕は思とるよ」ヴェルドを見やる刃蒼の眼差しには、力強い意志が宿っていた。「そのための時間稼ぎ、情報収集なら、僕だって全力を尽くすで」
    「どういう事だ? お前らには、このゲームの全容がもう分かってるのか?」思わずと言った様子で口を挟む臥堂。「教えてくれよ、このゲームは俺達に何をさせようとしてるんだ? どこに向かってんだ?」
    「まだ断定できとる訳や無いから、今は言えへん」小さく首を振る刃蒼。「僕の想定しとる結末は、あくまで予想や。それで臥堂君やマーシャさんを混乱させる訳にはいかんやろ? その時が来るまで、僕は黙っとるで」
    「ンだよ、詰まらねェな」吐き捨てながらジープを飛び降りる臥堂。「で、こんな真夜中の街で何を情報収集するってんだ? このまままっすぐ空港に向かえば済む話じゃねーのかよ?」
    「空港に何も考えずに突撃したらそのままゲームオーヴァーかも知れへんって今言うとったんやけど、臥堂君には難しかったかーそうかー」ポンポンと臥堂の頭を撫でる刃蒼。
    「おい! 人を子供扱いすんじゃねえよクソがッ!!」刃蒼の手を振り払って唾を飛ばす臥堂。「そもそもゲームオーヴァーって何だよ? 今までだって俺達は無理を押し通してここまで来てただろ? そんな感じで、空港にいる敵を皆殺しにすりゃそれで終わりじゃねえのかよ?」
    「……空港に敵がいれば、な」
     ヴェルドの一言に、刃蒼は怜悧な眼差しを、臥堂は困惑した表情を覗かせる。
     一言に込めた意味を彼らが理解できなくとも、ヴェルドには構わなかった。そこから導き出される結論に気づいた時点で、このゲームは終わりを迎えるのだから。
    「ボクはあのタワーに向かってみマス!」ぴょこっと挙手して宣言するマーシャ。その視線の先には電飾が点った細長い建造物が見受けられる。「狙撃するならあそこ以上に良物件は無いと見マシタヨ!」
    「私は空港内部の情報を洗ってみます」ジープのギアを入れ直すヴェルド。「その間に刃蒼さんと臥堂は空港近辺の警邏に当たってください。恐らくは敵と認識できる存在が確認できる筈です。可能なら敵性勢力の数を減らし、安全を確保してくれると、後々の展開が楽になります」
    「了解や」「分かった」コックリ頷く刃蒼と、そっぽを向きながら応じる臥堂。
    「作戦を開始します。――ご武運を」
     そう言ってジープを駆って路地の奥に消えて行くヴェルドを見送った三人は、互いに頷き合い、行動を開始する。
     虚ろな闇に沈んだ街を駆ける。どこに何が潜んでいるのか知れたものではない危険域を、深みへと、核心へと、突き進んでいく。

    ◇◆◇◆◇

    「――マスターシックス。聞こえているなら、私にだけ回線を繋いでくれ」
     ジープを走らせながら、ヴェルドは通信機に触れずにボソリと呟きを発した。
     マスターシックスが呼応してくれる確証など無かったが、万が一を考えると大事を取るのがベストだろうと言う判断の元、ヴェルドは更に文言を連ねる。
    「他のプレイヤーに聞かれたくない、ゲームに係わる話を尋ねたい」
     ヴェルドがこのゲームの本質に近づき過ぎてしまった事は、恐らくマスターシックスも或る程度は把握している筈だ。それは即ちこのゲームの今後の展開を、ヴェルド自身の力で捻じ曲げる事が出来る可能性が有ると言う明示でもある。
     マスターシックスとしては、このゲームの破綻は望んでいまい。正しい結末を迎え、プレイヤーが本来あるべき形でゲームをクリアする……それこそがこのゲームを運営する者としての願いであり、求める在り方に違いない。
     現状、このゲームがどこに向かっているのか、プレイヤー自身が知る術は無かった。それが鮎川八恵と言うイレギュラーにより発覚してしまった“恐れ”が有る。それを由々しき事態と捉えるか、それも含めて予定調和と認識しているのか、その議題自体はヴェルドには与り知らぬ事だが、マスターシックスの今までの言動からして、快くは思っていないだろう。
     マスターシックスには関心が有る筈だ。現在プレイヤー自身がこのゲームに関してどれだけ本質に近づいているのか。そして、今後どうこのゲームに携わっていくのか。であれば、応答せざるを得ないだろう。故にこそ、ヴェルドは一人になる瞬間を待ち、舌を走らせた。
    「……現在、回線は私とヴェルド君だけ繋がっている。何を訊きたいのかね?」
     ――ビンゴ。
     内心でニヤリと笑むヴェルド。目論見通り釣れた事を再確認し、ジープの運転を無意識下で行いながら、改めて口を開く。
    「一つ確認したい事が有る」冷酷に、ヴェルドは告げる。「味方であるプレイヤーを殺害する事で、何らかのペナルティが生じる事が有るのかどうか、その有無を確認したい」
     風を切る音だけが聞こえてくる静かな車上で、ヴェルドはそれ以上言の葉を発しなかった。
     マスターシックス自身、もしかしたら困惑しているかも知れない。そもそもこのゲームは味方は四人しかいないにも拘らず、その味方の殺害の許可を得ようとしているのだ、常人の発想ではないだろう。
     だがヴェルドは、このゲームを“正しい形でクリア”するためには、味方の殺害が必要不可欠であると判断を下した。その理由も、明確に告げる算段は付いている。
    「……味方プレイヤーの殺害に関しては、ペナルティは生じない。但し、ゲームの難易度が徒に上がる事になるが、それでも構わないのかね?」
     幾許かの沈黙を置いて発せられたマスターシックスの声調には、予想通り困惑の色が浮かんでいた。何故このタイミングで味方の殺害の許可を得ようとするのか、恐らくヴェルドの内心に疑心を懐いているのだろう。
     理由も無く味方を裏切ろうとする臥堂の発言であれば理解に苦しくなかっただろうが、ゲームを、この尋常ならざる任務を完遂しようと考えているであろうヴェルドが発するような疑念ではない。マスターシックスの当惑はその既成概念が上手く作用しているのだと、ヴェルドは判断した。
    「問題無い。寧ろ、味方を殺害せねば、このゲームは正しく完遂できないと判断した」
    「――ほう」興味深そうに嘆息を落とすマスターシックス。「君さえ良ければ、是非聞かせて頂きたい。誰を、何のために殺す必要が有るのか」
     闇夜に沈んだ街から、徐々に電飾が煌びやかに瞬く中心区へとジープは辿り着く。真夜中であるにも拘らず路上には市民が屯し、賑やかな喧噪を奏でている。
     その只中を突っ切るように、法定速度を遵守してヴェルドはハンドルを切る。目的地である空港を目指して、周囲の警戒を怠らず。
    「このゲームの本質に気づいている者がいる」ポツリとヴェルドは呟いた。「そいつは、このゲームを有るべき形で完遂しようとは考えていないと推察される。それは、私の望むべき形ではない」
    「……その口振りから察するに、ヴェルド君、君もこのゲームの本質を既に理解できていると、そう認識していいのかね?」
    「鮎川八恵からのメール。そこに全て記されていた」断定するように、ヴェルドは続ける。「答はあの文章に全て集約されている」
    「彼女が虚偽を騙ったと言う可能性は?」
    「私宛てであればその可能性を判ずる余地があるが、あの文章はあくまで刃蒼瑞賢に宛てたものだ。それに恐らく、刃蒼瑞賢以外に知られる事を想定していない文章でもある」標識を見据え、ウインカーを出して右折するヴェルド。「本来、彼だけが知るべき情報であり、且つ彼にこのゲームを転覆して貰おうと思ったが故に発信した情報でもあると判断できる。だからこそ私は、彼を――刃蒼瑞賢を殺さねばならないと判じた」
     再び通信機は沈黙を吐き出した。ヴェルドの発言に困惑を隠しきれないと言った様子で、マスターシックスは数瞬無言を返し続けた。
    「……ヴェルド君。私は君を過小評価していたようだ」空咳の後、マスターシックスは感嘆しきりと言った風情で拍手を始めた。「君ならばこのゲームをクリアできると思っていたが、まさかこのゲームを破綻させようとしている者の排除まで考えていてくれたとは……いやはや、本当に素晴らしい傭兵だよ、君は」
    「私はマスターシックス、貴方がこのゲームを通じて為したかった事に、概ね賛成しているんだ」表情筋をピクリとも動かさず、ヴェルドは淡々と告げる。「このゲームの本質を知ってしまった以上、そして辿るべき結末が見えている以上、私は正しい形で完遂しなければならない。それが私と言う傭兵の在り方であり、傭兵とは斯く在るべきだと私は考えてる」
     至るべき正答、どう足掻いても辿り着く先が決まっていて、その最後の審判はこの世界にとって良きモノとなると確信しているからこその、英断。
     恐らく刃蒼は最後の結末がプレイヤー全員の死と言う確定事項に対して異議を申し立てるつもりだろう。それは回避しなければならない事案で、故にこそこれから悪足掻きをするつもりだと推察できる。
     だが――それは、ヴェルドの望むべくではない。彼と同じ道は歩めない、故にこそ――早々にご退場願わねばならない。このゲームが正しい形でエンディングを迎えるためには、刃蒼瑞賢の死が必須となってしまった以上、躊躇も惑いも介在しない。
     運営者の許可を得た。必要な布石を打った。後は時が満ちるのを待つのみ。
     人の喧騒が遠くなる。本来ここにいるべき人物ではないのだと、改めて己自身を鑑みる。任務遂行のためであれば一切の躊躇いを感じる事無く仲間を切り捨てる己の判断力は未だに衰えとは無縁だと、ひっそりと毒づく。
     終末の時は近い。夜明け前こそ一番闇が深いのだと、電飾に霞む夜空を見上げてふと思ったヴェルドは、黙祷を捧げるように瞑目するのだった。



    【次回予告】

     終極へ導く番人が、悪夢の遊戯の開幕を謳う。

    「お、遂に俺の出番だな? 任せとけ!」

    「ホンマかな~? ホンマに分かっとんかなこの子……」

     ――苛立ち?

    「……本当に殺すのだね、彼を」

    「マーシャの本気を見るのデス!」

     深き闇が浮かぶ時、夜猟は真髄へと到る――――

    「では始めましょう、素敵なゲームを!」

    Continued on the next stage……
    【後書】
     クラウンさんと榊さんは絶対意気投合すると思った(挨拶)。
     この二人の邂逅は絶対に綴らねばならないと思っていたのと同時に、波長が噛み合えばこの二人以上に恐ろしい二人組もいないだろうなーと思ってました。大体合ってました(笑顔)。
     加速度的に闇が深くなっていく展開のオンパレードです。無死クリアがあまりにも遠い……大丈夫、日逆先生の殺し合いだよ!(朗らかな笑み)
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    2016-12-17 14:55 
    日逆孝介 No.484
    感想有り難う御座いますー!


    このぐらいのペースで更新しないと今年中に完結できない事に気づいてしまった俺達は……(ぁ
    マスターシックスが為したかった事、そして何者であるかは確り明かされる予定ですので、楽しみに続きをお待ち頂けたらと思います!
    って来週もお仕事ダメなのか!w これはもっと更新速度を上げるしか……!ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
    超展開過ぎるwww世界観崩壊ってレヴェルじゃないwwwパロディならありだな!ww

    今回もお楽しみ頂けたようで何よりです~!
    次回もお楽しみにー♪
    2016-12-17 14:12 
    tomi No.482
    更新お疲れ様ですvv

    読み返す前に更新されちゃうとは…日逆先生の本気を見た気がしますw
    マスターシックスが為したかった事ってなんなんだろう??
    そもそも何者???疑問符いっぱいで来週もお仕事ダメっぽいですw
    超展開で空から王火君とミコト君たちとニャッツさんがやってきて、
    丸くおさめちゃうってのはどうだぃ(テキトウ

    今回も楽しませていただきました~
    次回も楽しみにしてまーすvv
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