鎖錠の楼閣

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    【神戯】027:遊始に到る〈其ノ肆〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第27話

    027:遊始に到る〈其ノ肆〉


    【中央人民救済枢軸国】【大聖堂】地下空洞――
     幾つか設けられた直通エレベーターの一つを使って下りて来た白風は、頭を冷やす程度の冷却効果が有る冷気に身を浸しながら、〈禍神〉である少女の許へと急いだ。自然、足を運ぶ速度が加速する。
     やがて首が痛くなる程の高さまで続く本棚が見えてくる頃には、目当ての少女とは別の存在も視界に入っていた。
    「――神無様? 何故ここに?」
     見間違える筈も無い。あの時――五年前に姿を拝見した時より五年分の成長を遂げた少女は、今では十代後半になり、やがて役目を終えようとしている。
     清らかな青い髪は遂に床を擦る程までに伸びていたが、身長も比例して、白風や殯ほどではないが、歳相応の背丈にまでなっていた。病的なまでの白さを誇る肌は不変で、直射日光を一度も浴びていないのでは? と思わせる。流石に紅色の瞳はあれ以降大きくなる事は無く、切れ長の怜悧な双眸は昔のままだ。
    「〈牙〉様の件でしょう? 既にわたくしから殯様に報告させて貰いました」
    「それは……ご報告が遅れ、誠に申し訳有りません」
     平身低頭で謝する白風に、殯はどうでも良さそうに手を振って応じる。
    「んにゃははは、あんまり気にしちゃダメだってシロちゃん♪ もっと胸張っていいんだよ。『報告遅れちった、てひひ♪』みたいな感じで」
    「流石にそれは……」頭を上げて苦笑を滲ませる白風。
    「――それより殯様。〈牙〉様は、あなた様の所在を一体どこで嗅ぎつけたのでしょう?」
    「あたし――否、〈禍神〉がここにいる、って言うのは何と無く分かる問題。……だけど、あたしを名指しってのは確信有っての事。あたしの存在を知る方法を会得した、或いは……情報を齎した第三者の存在が臭くなってきた訳だ。……いやぁ、奴の場合は、勘の可能性も捨て切れないけど」
     いつもとは違い、その表情に剽げた色の一切が剥落し、真剣な色が浮かんでいる。双眸には小さな意志の光が宿っているようにも映る。
    「……殯様の存在を知る方法……まさか、内通者が……?」
    「可能性は捨て切れないね。でもまぁ、全ては憶測の問題だ、あれこれ言っても正答は出ないさ。……そして、それを探るための部隊があたしの手駒には有る。――狗神(イヌガミ)を呼んで頂戴。直々に指令を下したげる」


     時計の時針と分針が丁度天辺を指す頃。
    【大聖堂】地下空洞に一人の男が姿を現す。
     狗の面を被っているために素顔を見る事は叶わない。狗の面は頭巾と一体になっており、頭部全体を隠す作りになっている。“忍服”――と呼ばれる、迷彩機能の施された漆黒の着物を纏い、その下には軽量型の鎖帷子を身に付けている。更には吸音機能が施された足袋を装備し、昔ながらの“忍者”を容易く連想できる出で立ちだ。
    「――頭領が狗神、ここに」
     声の低さから年配のように思えるが、書類上では確か二十二歳だったな、と白風は思い出していた。
     片膝を突き、静かに頭を垂れる所作に隙は無い。現在に至るまで厳格な訓練を行ってきた証でも有る。そこに存在している事を視覚では認識できても、まるで影か虚像を見ているかのように現実味が希釈している。それだけ存在感を消しているのだろう。
    「指令を下します。〈狗隠〉の中から三名を選抜し、〈神災対策局〉局長である〈牙〉を監視せよ。期間は本日午前四時より始め、我が中止命令を下すまで続行せよ。尚、その間に入手した情報は全て神無に報せよ。特に調べるべき内容は、彼に接触を図った者、全てだ。三人の〈狗隠〉を駆使して出来得る限りの諜報を遂行せよ」
    「御言のままに」
     深く頭を垂れると、狗神は目にも留まらぬ動きでその場を脱する。許より闇に溶けそうな人物だっただけに、漆黒に紛れるのは容易かった。
     狗神の消えた地下空洞で、殯は「う~ん……」と背伸びをする。
    「あー、何か面倒だよね、ああいう口調って。ラノベとか漫画とか見てると、普通にそんな口調で話すキャラいるけど、どうやったらあんな人間が育つのか謎でならないなぁ」
    「…………。それはそうと、殯様。問題は〈牙〉様だけではありません」
    「ふぇ? てーと?」
    「小耳に挟みましたところでは、何やら【大聖堂】内部に見知らぬ賊が入り込んだとの未確認情報が入っております。こちらとしても確認作業を急がせておりますが……何よりこの広さに加え、党員は百名以上に上りますれば、顔を見ただけでの確認は不可能かと……」
    「あー、確かにね。でも、そういう情報なら昔から何度も在ったじゃない。確かに今は時期が時期だから過敏になるのは判るけど……恐らくは諜報に来てるんだろうけど、この地下空洞はそう簡単に割り出せるような代物じゃない、――とあたしは思ってる。……ま、それも相手次第だけど、ね」

    ◇◆◇◆◇

    【大聖堂】一階、通廊。
     そこには祭服を身に纏った少年少女が座り込んでいた。就業時刻はもう過ぎたと言うのに、少女の方が静かに蹲ったままその場を動こうとしない。少女は決して体調を崩した訳でも、怪我を負った訳でもない。少女は目を瞑って耳を澄まし、少年は辺りに視線を鋭く向けている。
    「……何か、侵入がバレてるみたいだよ、クロ」
     呟いたのは少女――群青色の髪をショートカットに纏めた、〈異人研究室〉の〈忌徒〉――諜楽。彼女は目を瞑ったまま、両耳に手を添えて、耳を澄ました姿勢のまま、蹲っている。
    「……早いな。まだ何も掴んじゃいねえってのに……!」
     応じる声は諜楽の同僚である黒宇のものである。彼は着慣れない祭服の袖を気にしつつも、周囲に視線を巡らして、見回りの党員が来ないか見張っている。
    〈異人研究室〉より先遣された二人の〈忌徒〉は、早速諜報活動を行っていた。昼間も行っていたのだが、諜楽の話では地下方面に耳を澄ませていても何の情報も確認できなかったらしい。ただ、人がいる事は判っていた。少女らしき人物の笑声、冊子の捲られる音、跫音などが聞こえてきたのだ、これで誰もいないのであれば怪奇現象に他ならない。
     二人は〈異人研究室〉が用意した祭服と呼ばれる〈救世人党〉の制服を身に纏い、侵入を果たしていた。初日とは言え、実質二日間しか猶予が無いのである、何の収穫も無いのは流石に不味いと考えた黒宇が、諜楽を説得し、こうして深夜に至るまで諜報活動を続行した訳だが……
    「でも、判った事も有るよ、クロ。殯と言う人物が実在する事。〈救世人党〉の党首、及び党首補佐もその存在を知っている事。それと……これは偶然だけど、〈神災対策局〉の局長までもが、ここに殯がいると疑っている……ううん、知っている事」
     黒宇は静かに頷いて応じる。
    〈神災対策局〉の局長の言は二人にとって驚かされる内容だった。〈異人研究室〉は〈禍神〉である律と、〈索図(サーチ)〉の異能を持つ亜鳩がいるからこそ、【大聖堂】に殯と言う名の〈禍神〉がいる事が判ったのだ。なのに、何故〈牙〉は判ったのか。考えられるのは、彼の仲間にも似たような異能者、そして〈禍神〉がいると言う事だ。
     ……いや、違うな。と、黒宇は推測を重ねる。
    〈牙〉の経歴を鑑みれば、彼が〈禍神〉である可能性は濃厚だ。百年もの歴史を数える〈神災対策局〉の永久に変わらぬ局長……最前線で戦いを続けても一度も伏す事無く戦い続ける英雄。それだけでも〈禍神〉としての材料は揃い過ぎている。考えれば考える程、彼が〈禍神〉だと言う証明が浮かび上がってくるのだ、間違いは無いだろう。
    「〈牙〉が〈禍神〉だと仮定すれば、殯って〈禍神〉を狙ってる組織はこれで二つになる訳だな。だが、恐らく敵の敵は敵……仲間にはならねえ筈だ。……それより、捕獲すべき対象の名前は分かったな?」
    「うん、神無と白風って人だね。どっちも〈救世人党〉の人じゃなくても知ってるような有名人だよ。片や現〈救世人党〉党首であり【中立国】国王、片や現〈救世人党〉党首補佐であり【中立国】執政官。名前ぐらいなら、黒宇も聞いた事有るんじゃない?」
    「ああ、名前ぐらいはな。……どっちにしても、捕獲するにしては大層な肩書き持ちじゃねえか……警護の人間の多さは尋常じゃねえだろうな……」
    「どうする? 諦めて一度〈異人研究室〉まで引き返す?」
     そう、諜楽が呟いた刹那、彼女が声を潜めて告げる。
    「――クロ、誰か来た」
     声を掛けられても、黒宇の視界には誰も映らない。恐らく諜楽はその鋭敏な聴覚を使って、曲がり角の先にいる人物の姿を捉えたのだろう。黒宇も小声で尋ねる。
    「――どっちだ?」
    「クロの見てる十字路の右から来るよ。――逃げよう、クロ」
    「ああ、分かった」
     小声で言葉を交わし合い、即座に遁走を図る二人の〈忌徒〉。跫音を出来る限り立てず、慎重且つ迅速な行動により、十字路より現れた影に見つかる事は無かった。
     十字路より現れた影は、十代後半の少年だった。祭服を身に纏い、懐中電灯を手に、先程二人が佇んでいた辺りを円筒形の光で照らしだす。勿論そこにはもう誰の姿も無く、静かな闇だけが蹲っている。
    「……」
     少年は怜悧に瞳を眇め、二人の〈忌徒〉が消えた十字路へと視線を向ける。当然、そこにも誰の姿は映らなかったが。

    ◇◆◇◆◇

    「――どう為さいました? 殯様」
     無表情のまま、唇を噛み締めている殯に気づき、怪訝そうに視線を向ける白風。殯は即座に表情を切り替え、白風へと笑顔を向ける。
    「ん? んにゃ、何でもないよ~。ちょろっと考え事してただけさ♪」
    「……そうですか。ではそろそろ戻ります。これにて失礼致します」
     深々と頭を下げて立ち去って行く白風を見送ると、神無も地下空洞より消えた。
     残された殯は独り言を呟く。
    「鼠か……それも、壁に耳を当ててる様子も無いのに筒抜け……となれば、能力か……? その鼠は危ういな。どこから放たれて来たかは分からないけど、生け捕る価値はありそうだ。――人無(ジンナイ)、巧くやれよ」
     独り言は闇へと溶ける。誰にも聞かれる事無く、泡沫のように――――

    ◇◆◇◆◇

    「――作戦は続行するぞ」
     黒宇の言葉が漏れたのは、“正門通り”の一角にある木賃宿の一室だった。
     木賃宿『椛(もみじ)』。木賃宿の中でも上流に位置する宿で、相部屋とは別の個室が幾つか用意されている。地上三階地下二階の、【中立国】の宿の中では大きい部類に入る。部屋の数は五十を数え、地下は夜景を望めぬ代わりに大きな部屋が用意してある。地上は個室がメインで、場所に寄れば門前広場を一望する事が出来る。
     二人がいる部屋は、三階に用意された二人用の個室である。調度品は足の低いテーブルと座布団以外に無く、布団が二つと引き戸式の箪笥があるだけの、一面畳敷きの和室。八畳ほどの部屋の入口の反対側には窓が用意され、そこから【大聖堂】前に広がる門前広場が視界に入る。現在、〈神災慰霊祭〉の準備で夜遅くまで作業の音が響いていたが、流石に深夜も一時を回れば静かなものだった。辺りにはひっそりとした夏の蒸した空気が満ちている。
     布団の上から窓の外をぼんやりと眺めていた諜楽はその言葉で現実に意識を戻し、布団の上に寝転がったまま中空へ視線を投げている黒宇へと視線を向ける。
    「二人のどちらかを捕獲する、って事?」
    「あぁ。今はまだどっちか決める事はしねえが、流石に情報を持ち帰るだけじゃ不味ぃだろ。……せめてそれ位の役に立たなきゃ、俺は……」
     ――捨てられるんじゃないか。その言葉は喉を出る事無く、黒宇の胸に沈殿する。
     既に〈異人研究室〉を裏切る意志が知られている以上、長居は無用だ。とは言え、何の成果も挙げずに帰還すれば、それこそ〈忌徒〉として機能しない事が露見し、自身の存在価値の有無に係わってくる。そうなれば亜鳩を連れ出す前に、黒宇だけが〈異人研究室〉より退室される可能性が出てくるのだ。……既にそういう状況なのかも知れないが、せめて任務だけは忠実に熟し、敵意が無い事を証明しなければなるまい。それが、亜鳩を連れ出す第一歩だと黒宇は考えていた。
    「でも、もうあたし達の侵入がバレてるみたいなんだよ? それでも……やるの?」
     諜楽はどこか戦々恐々とした想いで言葉を連ねる。
     確かに、諜楽の〈全聴〉の異能で〈救世人党〉のトップの連中が二人の侵入に気づいた事は判っている。その事態はこれ以上の侵入活動が困難になる一因に挙げられる。単純に考えてこれ以上掘り下げて行動するのは止め、一時帰還して情報だけでも持ち帰るべきだ。
     ――だが、黒宇は敢えてその手法を採る気は無かった。
    「……最悪の場合、〈救世人党〉に寝返る事も考えてる」
    「! クロ、それって……」
     ハッと息を呑む気配。黒宇はそれを噛み締めるように、瞼を下ろし、顔を顰めて応じる。
    「ああ、解ってる。そんな事すりゃ、確実に俺は〈異人研究室〉を敵に回す……いや、チョウ、お前も敵に回しちまう。……だけど、もう手段を選んでる場合じゃねえって気がするんだ。じゃねえと……律から亜鳩を取り戻せない気がするんだ……!」
     中空へ伸ばした右手を固く握り締め、黒宇は上体を起こして、諜楽へと視線を向ける。諜楽は黒宇の視線をどこか哀しげな瞳で受け止め、「……そっか」と呟きを漏らす。
    「もう、そんなトコまで行っちゃったんだ……」
     顔に陰りが差し、諜楽は沈んだ微笑を滲ませる。黒宇はその表情を痛ましげなものでも見たかのように俯いて、視線を逸らす。
     気まずい沈黙が停滞する。二人とも言葉を交わさず、相手の顔を見る事すら出来ず、ただ黙する。
    「……分かった、作戦は続行しよう、クロ」一つ頷き、諜楽は痛々しい笑顔で告げる。「クロを応援するって言ったしね。出来る限りの事は、手伝うよ」
    「チョウ……」
    「ハトちゃんを護るためには、仕方ない、よね……。……でも、クロ。あたしはクロの敵に回りたくない。回りたくないけど……〈異人研究室〉を敵に回す程、強くも無い……あたしは、どうすれば良いの?」
     黒宇は胸を抉られたように、苦しげな表情を浮かべたまま、沈黙を返す。
    “お前も亜鳩と一緒に護ってやる”
     その言葉を出す程、黒宇の精神は強靭ではなかった。
    (解ってるんだ、諜楽も護ってやれば、味方が一人増えるって。でもそれは、俺の問題にまた一人、巻き込む事と同義だ。そんな事……出来る訳が無い……ッ!)
     梶羽に話を持ちかけたのは、彼女が〈異人研究室〉で一番話し易く、そして力が有る〈忌徒〉だと知っていたからだ。それに比べて諜楽は黒宇よりも〈忌徒〉の期間が短い、後輩に当たる者……それに彼女は殺人を犯した訳ではない。表の世界に戻る事だって、諦める事は無いのだ。
     黒宇が目指しているのは、亜鳩の表の世界への復帰。だがそれには、〈異人研究室〉を、並びに〈禍神〉全員を屠る必要が有る。彼らが生きている限り、亜鳩が死ぬまで狙われ続けるのは明々白々だ。だからこそ味方の存在は必須なのだが……逆に言えば、勝ち目の無い戦いに巻き込む事と同義でも有る。人死にが更に増えるのは言うまでも無い事だろう。
     黒宇は舌が痺れたように、言葉が出てこなかった。諜楽の痛ましげな笑顔が遠い。何か気の利いた台詞を吐かなければ、そう思っても意識は白紙を呈し、結局喉を突いて出るのは空気以外に無かった。
     その反応を諜楽は知っていたように、痛ましげな微笑を苦笑へと変えた。
    「ごめん、クロ。こんな事言っても迷惑だよね。……あたし、ちょっと混乱しちゃっててさ、頭がちょっと変になっちゃってるのかも」
     えへへ、と切なげにはにかむ諜楽。彼女は「だからさ、」と顔を伏せたまま黒宇へ這い寄り、息が掛かる程に顔を近づけ、呟いた。
    「今さ、頭が変になってるから、変な事するかも知れないけど……忘れてね?」
    「チョウ――――」
     言葉を発そうとした黒宇の唇に、諜楽の唇が重なり、言葉はそこで途切れた。
     焦点が合わない程の至近距離に映る諜楽の瞳は、悲哀の色で満ちていた。黒宇を見ているようで見ていない瞳は、透明な雫で濡れ、やがて離れていく。
     突然の出来事に体を硬直させた黒宇の前で、諜楽は瞳から一筋の雫を零して、はにかんだ。
     ――見る者の心を抉る、痛切なまでの笑みで。
    「ごめん、クロ。――明日も、頑張ろ?」
     それだけ言って、諜楽は電灯を消し、自分の布団へと潜り込む。
     暗闇と、熱っぽい息を感じさせる沈黙の中で黒宇は――――
    「………………馬鹿野郎……ッ」
     唇を噛み千切り、血を滲ませた。

     月が翳る夜。一人の少年の心が、密やかに軋んでいく――――
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