鎖錠の楼閣

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    【神戯】025:遊始に到る〈其ノ弐〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第25話

    025:遊始に到る〈其ノ弐〉


    〈神災対策局〉本局――
     場所は【竜王国】の首都【臥辰】の中心地区の一角に設けられている。灰色一色で染め上げられた外壁が、三階分の高さを有して聳えている。決して大きな建物ではないが、日夜百人以上の局員が勤務している場所である。
     その三階の端に局長室が据えられている。内装は質素で、高級感とは無縁の様相を呈している。壁が薄いため、隣の部屋の音が殆ど駄々漏れ状態だ。床のカーペットは埃こそ落ちていないが、あちこち剥げていて、そろそろ交換を勧めるべきかと悩む程に傷んでいた。
     局長室には三人の男女が佇んでいた。二人は局員である、是烈と朔雷。是烈は先日退院を果たしたばかりだが、もう職場に復帰していた。ラフなシャツの合間から見える包帯が先日の戦闘の余韻を思い出させる。
    「……多分、これは――〈禍神〉が綴った物で間違いない」
     残りの一人、局長である〈牙〉は珍しく局長室の自席に腰掛けていた。彼がこの席に座っている事は希少で、彼の言を借りるなら「俺に相応しくない」――らしい。謙遜とも取れる発言だが、彼は進んで人の前に立ちたいとは思わないらしく、そういう言動を頻繁に口にしている。その割には、事件や戦闘などの有事が起こった時に真っ先に突っ込んで行くが。
    〈牙〉の手許には一枚の書簡が握られていた。それをデスクに置き、腕を組んで鼻息を漏らす。
    「……罠ではないのですか?」
     進言を申し出たのは深緑の髪をポニーテールに纏めた女――朔雷だった。顔には怪訝な色が滲み、その色が放たれた言葉にも塗り込められている。
    〈牙〉は「罠だろうな」と即答すると、牙の仮面越しに吐息を漏らす。
    「だからこそ、俺は行かなくちゃならない」
    「……敢えて罠に嵌まりに行くのですか? 危険行為ですよ」
    「――朔雷。俺は奴らの策に嵌まりに行くと言ったが、死にに行くとは言ってないだろ」
     確かにそうだな、と是烈は思ったが、口には出さなかった。口を出せば隣に佇む女がキツめの瞳と共に怒気を向けてくる事は自明の理だったからだ。触らぬ神に祟り無し。是烈は思いながら肩を竦めるに留めた。
     ――〈牙〉宛に書簡が届いたのは早朝だった。郵便と一緒に届けられた謎の封筒は〈牙〉に宛てられた悪戯の物かと思われた。とは言え、〈牙〉は悪戯であろうとなんであろうと取り敢えず読んでみない事には分からないと言う姿勢が常だったので、その封筒も開け、中を検めて――今の事態に行き着く。
     その内容は――
    「罠じゃないにしても、〈禍神〉が〈救世人党〉の総本山である【大聖堂】にいるなんて、嘘を吐くにしても無理が在り過ぎではないでしょうか? そもそも〈救世人党〉とは〈禍神〉が見限った世界を人類が助け合って生き抜こうと説いている宗教団体ですよ? その中に、教義の中とは言え、人類を見限った存在を内包するなんて……」
    “〈禍神〉の一人、殯は【大聖堂】にいる”
     内容を掻い摘めば、それだけの文だった。単純明快であり、他には何の装飾も施されていない簡潔さだった。
     その文章を疑う事無く〈牙〉が信じたのには三つ理由が有る。
     一つは、〈禍神〉の真名だった事。もう一つは、差出人がその一人である事。以上の二つは調べればすぐに分かる事だが、〈牙〉が書簡を信じるに足ると思った最大の理由は、最後の一つ――差出人の筆跡が、確かに〈禍神〉の一人の物だったからだ。
     如何に〈禍神〉の名を知っていようと、筆跡ばかりは複製できない。故に、信憑性が増す。
     罠かも知れない、と言う朔雷の発言は正しい。相手が悪戯目的でなく、実際に〈禍神〉の一人が出した物であるにせよ、罠である可能性は否定できない。寧ろその可能性の方が高いだろう。
    「俺はそうは考えない」
     朔雷の発言に〈牙〉は真っ向から否定した。是烈は瞠目する程の驚きを覚え、思わず口が開いた。
    「何故です? 〈救世人党〉ほど〈禍神〉を敵対視している組織は無いと思いますが……〈禍神崇信教団〉なら未だしも……」
    「そういう教義や、組織の在り方なんて物は、考慮するに値しない。そんな物は幾らでも変えようが在るからな。〈禍神〉がいる場所を探すには、単純な事を考えれば良いと、俺は思うんだ」
    〈牙〉の声は平静そのものだった。まるで分かりきった答を説明するかのように、淡々としている。
    「……それは?」と是烈が呟きで促す。
    「どれだけの歴史が在るか、――だ。〈神災対策局〉のように百年近い歴史がある組織こそ疑うに足る、と俺は考えてる。例えば〈救世人党〉、例えば〈人類復興財団〉。国もそうだ。小国と合併して大きくなった二大国はどっちも疑わしい。……と、そう言ってしまえばどれもこれもが疑わしく映るんだが、中でも俺は〈救世人党〉が国になった【中立国】が一番に疑わしいと思ってる」
    「何故です? 一番除外して良さそうなものと思いますが……」
    「だからこそなんだよ、朔雷。〈禍神〉の一人である殯は、そういう奴だ。仮に罠だとしても、奴は〈救世人党〉に属していると、俺は思ってる。……妄想が含まれてるが、こればっかりは俺にも自信が有る。間違い無く奴は――“ここに、いる”」
    (……それだけ、相手の事を知り尽くしているって事なのか……?)
     そう思い、是烈は沈黙と共に意識を思考の渦に埋没させていく。
     仮に、殯と言う〈禍神〉が〈牙〉の言う通りの人物だとしたら……それはそれで危険な香りが漂ってくる。裏を掻く、と言う訳ではないだろうが、殯が“普通は考えつかない事をする”人物だとしたら、この書簡すらもそれに順ずる何かではないのか。
     とは言え、書簡の内容を信じるならば、これは殯が出した物ではない。差出人は――律と呼ばれる〈禍神〉。〈禍神〉が別の〈禍神〉がいる場所を、更に別の〈禍神〉へ教える、この一連の流れが是烈の中に不審を懐かせる。そしてそれは恐らく、是烈だけではない。
    「仮に殯と言う〈禍神〉がいたとして、律と言う〈禍神〉はどうなんです? 別の〈禍神〉が謀を企んでいないとどうして分かります?」
    「企んでいない筈が無いな。特に律は――彼は、そういう事に関しては殯に並ぶ程に優秀だ。一筋縄ではいかないのは百も承知だよ。……だがね、男には――いや、俺には行かねばならない時というものが有るのさ」
     ――それはまるで、真新しい玩具を見つけた瞬間の子供の歓声に思えた。
     心底より待ち侘びていたのだろう、この瞬間を。〈牙〉は……〈禍神〉は、百年もの間、老いる事も、況してや死ぬ事も無く、百年先を見据えて、生き続けた。その長きに亘る平行線が遂に衝突するのだから、彼らにとっては夢にまで見た瞬間なのかも知れない。
    (……その百年後の再会が殺し合いなんて……皮肉、って言えば良いのか……でも、何でだろう)
     どうして――〈牙〉はあんなにも楽しそうなのか。
     仲間だった筈の〈禍神〉と出逢える事が楽しみなのか、それとも――
     是烈が思考の渦に呑まれている間に、朔雷は深く、とても残念そうに嘆息を零した。
    「局長がこうなったら、誰の言う事も聞かないのはよぉーく存じております……ですから、これ以上はお引き留めしません。――但し、誰か付き人をお連れ下さい。さもなければ私が付き人として御供致します。それだけは、譲れません」
     最大限の譲歩、と言う意味なのだろう。朔雷はしかめっ面のまま〈牙〉の仮面を睨み据える。相手が何か発言するまで動く気は無いようだった。朔雷も〈牙〉と同じで頑固者なんだよな、と是烈は小さく苦笑を浮かべる。
    〈牙〉は朔雷の譲歩に対し、悩む仕草も見せずに頷いてみせた。
    「本当は俺一人で行くつもりだったが、そう言われたら仕方ないな。――是烈」
    「は、はいっ」突然の呼びかけに一瞬惑う是烈。
    「お前が俺の付き人になれ。……〈神騎士〉としての力はギリギリまで隠しておけよ?」

     ――〈神騎士〉。

     先日の大事件――【臥辰都立総合学習院】襲撃事件の終わりに、是烈は〈牙〉の申し出を受け、〈神騎士〉に成った。
     とは言え、〈神騎士〉と成った後すぐに入院生活が始まり、授かった〈神力〉がどのような力なのか、未だに説明を受けていなかった。入院中は体力が落ちないようにと、リハビリを兼ねた鍛練を行っていただけで、〈神騎士〉に触れるような何かをしていた訳ではない。
    「分かりました、付き人として御供致します。……それは良いんですが、俺の〈神力〉って一体どんな物なんですか? 説明が無いから、想像すら出来なくて……」
    〈神力〉――神の力と言うからには、さぞかし凄まじい物なのだろう、と入院中の是烈は色々妄想を膨らませていたが……〈禍神〉自身が不老不死と成り得る程だ、余程の力だという事くらいは想像が及ぶ。
     改めて〈牙〉に質問して、是烈は心の中がときめくような感覚を覚えた。小さな子供みたいな感情だな、と理性が諫める。
    「あれ、説明してなかったか?」
     きょとん、と〈牙〉は返して、それからすぐに顎に手をやって俯くと、やがて牙の仮面を持ち上げて苦笑を漏らした。
    「済まん、忘れてたかも知れん。あれから〈竜王〉に呼び出されて色々あったからな。失念してたみたいだ、悪い」
    〈牙〉は軽い口調で応じるが、一般人にしてみれば大それた事に違いない。〈竜王〉――つまり現【竜王国】国王に呼び出されるなど尋常ではない。今でこそ是烈は〈牙〉の正体が〈禍神〉の一人だと知っているから、今のような畏れ多い発言も落ち着いて聞けるが、聞いていなかったら驚くどころの騒ぎではないだろう。
    「簡単に説明すれば、お前の力は、触れた対象を三分間だけ静止できる、と言うものだ」
    「触れた対象を三分間だけ静止……?」
    「ま、試してみればすぐに分かるだろう。自分の体に何かが触れた瞬間、それに対して“停まれ”と念じてみろ。多分それだけで力は行使できる筈だ」
     言われてもよく分からなかったが、取り敢えず〈牙〉の言う通りに動いてみる。
    〈牙〉が外套の裏に常に隠し持っている折り畳み式の槍を引き抜き、組み立てずに抛り投げる。それを是烈は受け取らずに、張り飛ばす要領で横合いから掌をぶつける。その刹那に――“停まれ”と念じるのも忘れない。
     すると、
     折り畳まれた槍が空中で動きを止め、落下する事も無く、静止画のようにそこで完全に動きを停止させた。
     まるで魔法でも見ているかのような光景だった。方向性の運動が消失したと言うのに、重力に引っ張られて落下する事も無く、空間に閉じ込められたかのように空中で動きを固めた槍。これが現実だと言うのだから、まるで白昼夢でも見ているような気分になる。
    「それが〈神力〉――〈盾ノ神(シールド)〉って奴だ。巧く利用すれば、お前は傷を負う事無く、相手を倒す事が出来るだろうな」
     淡々と説明を続ける〈牙〉に、是烈は数瞬言葉を失っていた。
     これが〈神力〉――これが神の力なのか。
     自身の身に宿った力が、人では絶対に届かない域の物だと今一度認識して、――そんな力を使う人間を、六人も相手にしなければならないと思うと、流石に言葉が出てこなかった。
     ――【神戯】。それは、四人の〈禍神〉と、八人の〈神騎士〉が繰り広げる殺し合い。
     生き残るには、仕える〈禍神〉以外の〈禍神〉と、その〈神騎士〉を屠らねばならない。
    「……どうした?」
     返事が無い事を不思議がる〈牙〉。小首を傾げ、是烈を見据えている事に気づいた是烈は、やっとの事で返答を絞り出す。
    「あ、いや、その……正直、傷を負う事無く倒せるって言われても、実感が無いって言うか……〈神騎士〉は皆、こんな力を持っているんですよね? そう考えると、少し……」
    「――怖いのか?」
     嗤っているように聞こえる、〈牙〉の声。是烈は一瞬勃然としたが、すぐにその問いに“否”と返す。
    「怖くありませんよ! ……いや、そりゃ、全く怖くないって言ったら嘘になりますけど……。でもそれ以上に――どんな奴がいるのか、少し楽しみだな、って。不謹慎だとは思うんですが……」
    「是烈……貴方って人は……」隣で朔雷が額に手を当て嘆息を漏らす。「相手は命を狙ってくる敵なのよ? 本当に分かってるの?」
    「それ位、自覚してるよ。……でも、親父ならきっとそう考えるんじゃないか、と思ってさ」
     ふと父が生きていた頃が脳裏を過ぎる。彼はどんな時だって敵には最大の礼儀を持って戦っていた。どんな相手であろうと、本気でぶつかり、死力を尽くして屠る。それこそが、戦いに於ける最大の礼儀だと、生前によく語っていた。
     此度の是烈の敵は、恐らく我烈が相見えた何人よりも遥かに強靭で、強力で、強大だろう。そんな相手と、是烈はこの身に宿る〈神力〉で戦わねばならない。〈牙〉が付いていると言っても、彼は是烈が護らねばならない存在だ。是烈が相手を屠らなければ、ならないのだ。
    「俺の実力は〈牙〉さんより遥かに劣ります。〈禍神崇信教団〉の幹部にさえ、アドヴァンテージが無ければ勝負にならないんすから。……それでも俺はやりますよ。全力で、〈牙〉さんを護ってみせます」
     実力も、経験も、知識も圧倒的に不足しているだろう。それを、気力と、意地と、意志で補ってみせる、貫いてみせる。
     その決意を新たに、是烈は〈牙〉に告げる事が出来た。〈牙〉も満足そうに頷いた。
    「そうと決まれば早速行動に移すぞ。――朔雷、ちょっと【中立国】まで出掛ける。留守を頼んだ」
    「そんな軽々と任せないで下さい! それに【中立国】までの費用はどうするつもりなんですか!? そんな余分な経費はありませんよ!!」
     珍しく怒鳴り散らす朔雷に、〈牙〉は「あぁ、その辺は問題無い」と軽く応じる。
    「【竜王国】の王族が全面的にバックアップしてくれる筈だ。それでまぁ、大陸横断列車に乗るつもりだ。〈神災慰霊祭〉が終わる頃には戻ってくると思う。それまで、留守を頼んだぞ」
    「……私用で一週間近くも本局を留守にするなんて……貴方と言う人は……!!」
    「ダメか?」小首を傾げる〈牙〉。
    「~~~~分かりましたよ!! やればいいんですねやれば!! もうどこにでも行って下さい!! ――但し!! 絶対にここに帰って来て下さい。是烈と一緒にですよ!」
     そう言って踵を返す朔雷に、二人の男は顔を見合わせ、苦笑を漏らすのだった。
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