鎖錠の楼閣

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    【神戯】024:遊始に到る〈其ノ壱〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第24話

    024:遊始に到る〈其ノ壱〉


    〈異人研究室〉――【中央人民救済枢軸国】支部。
     民家の地下に建造された当該施設は、【竜王国】に在る本部と代わり映えのしない空間だった。
     黒宇がいるのは“連絡室”と呼ばれる、〈忌徒〉同士で会合を行う部屋だった。広さは十二分に設けられ、窮屈さとは無縁だ。現に青年が八人も佇んでいると言うのに、肩がぶつかり合う事など、意図しなければ有り得ない。木目模様の壁紙が貼られた壁にはあちこちに絵画が飾られているが、この場に居合わす誰もその価値を見出せない。。八人全員が大きな木製のテーブルを囲んで、席に着いたり壁に寄りかかったりして、上座に座る少年へと視線を向けている。
     少年――律は、今日は紺色の着物姿だった。秋の花々が織り込まれた着物を着慣らす彼は、無表情のようでも笑っているようでもある顔をしたまま、言葉を紡いでいく。
    「遂にあんたら――〈忌徒〉に指令を出す日が来やした。分かっているとは思いやすが、あんたらの為すべき事、それは――」
    「〈禍神〉の抹殺、――だったっけか? 室長殿」
     口を挟んだのは、壁に寄りかかって煙草を吹かしている隻腕の女――梶羽だった。今日も豊満な胸を隠す程度のTシャツに、短パンと言うラフな格好で佇んでいる。律を見据えるつり目気味の黒瞳には、皮肉の色が濃く滲んでいる。
     律はその視線を真っ向から受け止め、彼女と似て非なる笑みを浮かべて応じる。
    「それも勿論含まれていやすが、まずは――〈禍神〉の強さを知って貰わねばなりやせんでしょう。今まで訓練で殺してきた一般人とは、格が違い過ぎやすんでね。そっすね、人形と人間ほどの違いが有りやしょう。……とは言え、この場に居合わせる全員で一人の〈禍神〉を葬りに掛かれば、敵に全てのカードを曝すも同然。そこで、二人」
     律が右手の人差し指と中指を立て、一同の様子を確認してから、話を徐に続ける。
    「二人の〈忌徒〉に、内偵をして来てほしいんす。調査すべき内容は、〈禍神〉の補佐たる人間を探し出す事。そして出来る事ならその人間を捕獲、連れ帰る事。出来なければ、速やかに帰還する事。現時刻より六十時間経っても帰還できなかった時は、敵に捕獲されたものと見做し、――続く二名の〈忌徒〉に殺害命令を下しやす」
     連絡室を緊張が支配する。静かな帳が下りた空間で、梶羽が眉根を寄せて言を募らせる。
    「そりゃ、先行の二人にゃ、ちと重荷じゃねえか? 幾ら俺達が〈忌徒〉――異能を懐く特殊な人間と言えど、初っ端の任務にしちゃ、あまりにハードルが高過ぎんじゃねえの?」
    「そのための訓練だったんすよ、何のために厳しい訓練を積み重ねてきたと思っていやす? 全てはこのため――エクストラミッションを確実にクリアするためっすよ。それとも、ここに来て降りやすか? やってもいない事柄を恐れて、遁ずらでも扱きやすか?」
     流石に律の発言に真っ向から対峙するような輩は現れなかった。梶羽も涼しげな顔で煙草を吹かす以上の抵抗は見せない。
     その様子を見て律は再び話を始める。
    「実は、その二人は既に決まっていやす。――黒宇、諜楽。二人にお願いしたいと思いやす」
    「――俺?」「あ、あたしが?」
     黒宇も諜楽も突然の指名に目を瞠る。どうして自分が? そういう想いが態度で知れた。
     律は二人に視線を向けると、口調を変えずに説明を続ける。
    「諜楽は勿論、その異能を使って諜報活動を行って下せぇ。黒宇はその護衛っす。いざって時は、敵を殺す勢いで頑張って下せぇや」
    「おいおい、黒宇も諜楽もまだ〈忌徒〉になったばかりの半人前だろ? 柿輪とか俺とか、もっと相応しい護衛は他にいるんじゃねえか?」
     口を挟むのは例の如く、梶羽だった。突然の展開に、彼女としても異論を唱えたいらしい。
     だが、律は小さく首を“否”と振る。梶羽を見やり、酷薄な微笑を浮かべて告げる。
    「いいや、黒宇はもう半人前じゃありやせんよ。“組織を敵に回す程の胆力を持っている”んすから。それとも――梶羽、あんたも腹に一物を抱えている訳じゃありやせんでしょう?」
    (――漏れてるのか)
     梶羽は小さく舌打ちし、黒宇に視線を射込むが、彼も動揺を隠しきれない。――どこで漏れた。あの会話を聞かれていたのか? 一体誰に? 梶羽は不快を隠しきれず、煙草を思わず噛み千切りそうになる。
    「〈禍神〉の居場所は既に特定していやす。場所は――〈救世人党〉の総本山、【中央人民救済枢軸国】の中枢、【大聖堂】の地下にいると出やした。二人には【大聖堂】内で秘密裏に情報収集を行い、〈禍神〉の補佐と思しき人間を調査、可能なら捕獲し、ここまで連行して来る事。発覚された、或いは発覚されそうになった場合、速やかに帰還するように。特に黒宇は、諜楽の身を最優先で護って下せぇよ? 彼女は、我が〈研究室〉でも指折りの異能持ちなんすから」
    「……あぁ、分かった」
     頷く黒宇には、律の表情を窺う余裕など無かった。
     どこで勘付かれた? 何故、律は自分が〈異人研究室〉に叛旗を翻そうとしている事を察知している? 
     ……一瞬、諜楽へと視線を向けるが、彼女は彼女で不思議そうな顔をしていた。諜楽が犯人だとしたら、その時、自分はどうするつもりなんだ? 黒宇はそこで思考を振りきり、現実へと引き戻す。知られたからには、もう後の祭だ。今は、為すべき事を為せ。そう言い聞かせる。
     確実に好機は巡ってくる。それがいつになるか分からないけれど……だが、いつか必ず来る。そう信じて――――

    ◇◆◇◆◇

     作戦の伝達を終えた連絡室には、律と覇一の二人だけが取り残されていた。
    「……良いのか? 律。知らせる時期を誤っていないか?」
     サングラス越しに見える瞳には、不安げな光が揺れていた。覇一は律の言動を心配していた。一言でも懐疑的な言動が発せられれば、集団はあっと言う間に瓦解する。その心配をしているのだ。
     対する律は沈着に応じる。
    「正しいか誤りか、それを決めるのは今じゃありやせんよ、覇一。出過ぎる前に打ち込んだだけっす――これで開き直られても困りやすがね。……やれやれ、やんちゃな部下を持つと頭が痛いっすね」
    「それが長たる者の運命だ、受け入れろ。……プラン〈群舞〉の方は滞り無いそうだ。既に〈神災対策局〉、【燕帝國】上層部への通達は終えたと報告を受けている。後は……」
    「どう噛み合うか、っすね。……不確定要素の塊、カオスと化す世界は、恐らく奴の独壇場でやしょう。そこは、奴にくれてやりやすよ。……戴く代価は奴の手札っすがね」
     くくっ、と律の口許が歪む。ここまでは良い。机上の空論と言えるこの作戦が実を結ぶのは、まだ先――期待通りに進むなど有り得ない話だが、もし進めば……確実に一人の〈禍神〉は落伍する。
     駒の動き方次第と言える現状。その現状に、律は僅かな不満を懐いていた。
    「練り上げた策とは言え……俺自身が表舞台に参加できないのは、残念な事この上ありやせんねぇ。シナリオを書き間違えたとしか思えやせん」
    「お前はキングなんだ、前線で戦える立場じゃないだろう。お前が殺られたら、俺達は単なる烏合の衆なんだぞ? 自覚は無いのか?」
     律の不平に対して即座に諫言を突きつける覇一。サングラスを押し上げ、困った生徒を見やる教師の態度で、小さく吐息を漏らす。
    「お前は確かに、この一座――〈異人研究室〉の中じゃ最強を誇るだろう。〈神騎士〉である俺や由鷹なんざ目じゃない。それでも――」
    「分かっていやす、分かっていやすよ、覇一。……っすがね、恐らく次の手、或いはこの手で狂いが生じた時は、そんな温い事は言っていられなくなりやす。俺が〈復讎〉を司る〈禍神〉なら、奴は――殯は、〈狂気〉を司る〈禍神〉……下策は容易く瓦解させられやすて」
     律の言葉には強い想いが込められていた。殯と言う〈禍神〉を心底より強敵と認めている事、その実力は折紙付きだと言う事、――その一手で容易く律の心底に灼熱の塊を沈殿させる事を。
    「百年もの間、俺を閑にさせていやしたんすから、精々楽しませてくれやせんと……初手でチェックなんて、――認めやせんよ?」

    ◇◆◇◆◇

     作戦内容が伝えられた日。黒宇は諜楽の部屋を訪れた。
     軽くノックすると、間も無く扉が開き、――部屋の前に立つ青年を見て一瞬驚くが、すぐに悟ったような表情を浮かべる諜楽。
    「用件は分かってるよ。……入って」
     部屋の中に入ると、黒宇の部屋と代わり映えのしない、小さなワンルームが広がっている。尤も、黒宇の部屋のように地面が衣類で散らかっている事は無く、片づいていた。
     諜楽はラフなシャツにスラックス姿で、ベッドに腰掛ける。黒宇は座らず、部屋の壁に体を寄りかからせた。
    「……先に言っとくけど、あたしはクロの事も、カジさんの事も、誰にも喋ってない」
    「……喋っちゃいねえが、聞いちまったんだな、お前」
    「…………ごめん。聞くつもりは無かったんだよ、ホントだよ! ……でも、あたしの異能、分かってるでしょ……?」
     悄然と呟く諜楽。いつもの溌溂とした雰囲気が一変し、しおらしい少女然と俯く彼女を見つめて、黒宇は静かに夢想する。
     ――諜楽の異能は、簡単に言えば「聴覚が鋭い」のだ。彼女の聴覚は人類のそれよりも遥かに高性能――寧ろ犬などの動物に近いらしい。遥か遠方――話に寄れば、一キロ離れた場所の人の話し声を聞き分ける事が出来るらしい。それも、どんな遮蔽物が在っても、一切を無視して、――だ。
     彼女はその異能を以て、先日〈忌徒〉になったばかりで、黒宇にしてみれば後輩に当たる人間だが、亜鳩同様、殺人は犯していないらしい。鑑みるに、戦闘に特化した異能を持つ人間だけがそういう最終過程を歩んでいる、という事だ。
    〈全聴(ヒア)〉――と〈異人研究室〉では呼ばれている。誰よりも優れた聴覚を懐く彼女は、間者として驚くべき力を発揮する事は間違いない。だからこそ、黒宇は真っ先に疑ったのである。
    「……済まん。俺もお前を疑いたくは無いんだ。でも……俺はもう……」
     憮然と項垂れる黒宇を見て、諜楽は心配そうに見上げる。悄然と見つめるその眼差しには、励ましたい、と言う意志がありありと浮かんでいた。
    「ハトちゃんを護りたいんだよね? ……あたしも大っぴらには言えないけど、応援してるよ? お似合いだって思ってるし」
    「……ありがとな。――ってお似合いって何だ手前。あいつは単に護ってやらなくちゃいけねえってだけで誰もあんな奴――」
    「あははっ、何でそこで慌てるのさ? クロは少し純情過ぎだよ~。……こんな事を言うと、多分あたし……ううん、いいや。――本当は分かってるんだよ、クロ」
    「は? 何がだ?」
     諜楽は膝の間に腕を挟んで、「えっとね、」と勿体振るように間を置くと、言い難そうに開口する。
    「……虚馳、って人がいるみたいなの」
    「虚馳? ……誰だそりゃ、聞いた事ねーぞ。そんな奴、〈異人研究室〉にいたか?」
    「いる。……あたしも実際に見た訳じゃないから分からないけど……でも、そいつが……クロとカジさんの話を、副室長――覇一さんに話していたんだよ」
    「…………!!」
     ――虚馳。それが、〈異人研究室〉の中で、黒宇を敵に回した奴の名前か。
     黒宇は奥歯を軋らせ、想像でしか補えない相手の顔を思い浮かべていると、諜楽は慌てて付け足す。
    「あっ、でもねっ、この事は絶対に誰にも言わないで欲しいの!」
    「……知られたら不味いのか?」
    「……うん、分からないけど……こんな事を知ってたら、きっと……ううん、絶対に……」
     それ以上、諜楽は語らなかった。それ以上、語る必要が無かった。
     黒宇は沈痛な面持ちで黙り込むと、少しぎこちなく微笑を浮かべて応じた。
    「分かった、これは俺とお前だけの秘密だ。誰にも話さない」
    「……うん、ありがとっ、クロ」
     えへへっ、とはにかむ諜楽。その頬が仄かな桜色に染まっている事には、黒宇は気づかなかった。
     ――作戦は明朝より始まる。それまでに梶羽と打ち合わせをしなければ。そう思って、黒宇は壁より体を離した。
    「押しかけて来て悪かったな、チョウ。話はそれだけなんだ」
    「あ、うん。……明日から、頑張ろうね?」
    「おう。手前は俺が護ってやるから、安心してろよ」
    「へへっ、期待してるよっ」
     扉を閉め、黒宇は喫煙コーナーへと向かう。時間はあまり残されていない。思考を刹那に切り替え、梶羽の許へと――
    「――梶羽は現在、室長と面談中だ」
    「…………覇一」
     いつもなら梶羽が煙を楽しんで腰掛けている席に、サングラスを掛けた、革製の服で身を包んだ青年が腰掛けていた。サングラスの奥は、電灯の位置関係で、覗く事は叶わない。
     覇一は黒宇を見るでも無く、腕を組んで凝然と佇んでいる。まるでそういう形の銅像が在ると錯覚しそうな程に、動きが無かった。
     黒宇は引き返そうと思ったが、すぐに思考を打ち切り、覇一の隣に腰掛ける。梶羽の時と同じような仕草で、覇一を受け入れる。煙草の入った紙箱を取り出し、一本抜き出す。ライターの火を咥えた煙草に近づけ、紫煙と共に一息吐く。
    「……思えば、手前と一対一で話すのは、初めてだな」
     そう言って、黒宇は少しだけ体を俯かせる。表情は固まったまま、動かない。
     応じる言葉も無く、覇一は腕を組んだまま沈黙で返した。
    「……ふん、」と鼻で笑い、黒宇は言葉を続ける。「内通者がいるんだな、この組織にゃ。……そんな奴がいるんじゃないかとは、思ってたけどよ」
    「――叛徒は誰であろうと赦さない。それがこの〈異人研究室〉に於ける規律だ。破るのであれば厳格に処分するまで。……と言うのが、室長及び副室長――俺の考えだ」
     硬い語調の後に、苦笑染みたものを口許に刷いて告げる覇一。紫煙が徐々に喫煙コーナーに蔓延し始め、世界を白く染め上げ始める。
    「……俺は、お前の事を今でも仲間だと思っている。……いいや、お前が死ぬその時まで、仲間なんだ。……黒宇、俺達は裏切りを赦免する訳にはいかない。それが組織の長たるものの矜持だ。だから……」
    「――それで俺が改心すると、本気で思ってんのか? 手前は」
     苛立ちに歪み始める黒宇の顔。それを見ようともせず、覇一は鼻息を吐いて肩を竦めてみせた。
    「――いいや、思わないな。寧ろ反抗心を燃やして、手が付けられなくなるだろう」
    「……お前、馬鹿だろ? 何がしてえんだよ、手前は」
    「俺は、仲間を仲間の手で殺めたくないと願っているだけだ。……修復が出来ないのなら、仕方ないさ。だがな、この問題はそれで終わるもんじゃない。お前と言う存在が、どれだけの影響力を齎すのか、お前は恐らく理解していないだろう」
    「……何が言いてえんだ? 手前は」
     思わず覇一の横顔を覗き見るが、彼は正面を見据えたまま、全く身動ぎさえしなかった。顔には、何の色も浮かんでいない。ただ、強張っているように見えた。
     その表情が一瞬だけ弛み、苦笑の形を作る。その顔を凝視する間も無く、彼は立ち上がり、喫煙コーナーから立ち去って行く。
    「道を選んだのなら、迷わず進め、黒宇。それが――違えた道であろうとも、な」
     それだけ言い残し、覇一は黒宇の視界より消えた。
     紫煙の漂う世界で一人、黒宇は煙草を灰皿に押しつける。ぎり、と煙草の先端が押し潰される。
     俯いたその素顔を見る者は、一人としていなかった。

     作戦が、始まる。壮大な物語の幕開けと共に――――
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