鎖錠の楼閣

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    【神戯】023:深闇に到る〈其ノ肆〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第23話

    023:深闇に到る〈其ノ肆〉


     逃げる事など叶う筈も無い。母の許へ逃げ帰る事など、出来る筈が無かった。
     母は女手一つで白風と弟を育て上げた。理由は聞いていないが、父は弟が産まれてすぐに姿を消した。当時の白風から見てもあまり好印象を懐けるような男ではなかったが、それでもいなくなれば生活は苦しくなる。それから母は様々な職を掛け持ちし、白風と弟が幼い頃にはこのままでは死ぬんじゃないかと思う程に、鬼気迫るものを感じる働きようだった。
     そんな母は過労が原因で何年も前から病床に臥せ、弟の看病と、娘である白風の給金で何とか生活を続けていた。母が患った病は不治の病らしく、今は延命しか処置の施しようが無いと医師に言われた。日毎に衰弱していく母だが、まだ希望を捨てた訳ではない。ゆっくりと進行していく病と言う事だけが救いで、その間に病を治す治療法が生まれてくれれば、とずっと姉弟は願っている。
     薬代だけで、姉弟が働いた分の金は刹那に消滅する。それほど高価な代物で、扱っている薬師も多くない。今はその薬に縋っている状態だ。
     それを……どこで嗅ぎつけたのか、彼女――殯は知っていた。調べればすぐに分かる事とは言え、何故そんな事をする必要があったのか。
    (決まっている。奴は、私を服従させたい。それ以外の何が有る)
     場所は変わらず、地下に出来た空洞のような伽藍とした薄暗い空間。そこに白風は薙刀――いつも使っている、愛用の物――を握り締め、眼前に佇む殯を睨み据える。
     相対する殯の気概は感じられない。怒りに滾る白風が“動”ならば、ニヤニヤと悪事を企むような笑みを滲ませて自然体で佇む殯はまさしく“静”だった。両者は互いを見据え合い、動きを止めていた。
    「この勝負に勝ったら、相手を好きにしても良い。――そうだったな?」
     確認の意を込めて、白風が声を張り上げる。大声は闇に呑み込まれ、反響する事は無い。
     対する殯は一振の短剣を握り締めたまま、下卑た笑顔を隠そうともせず、声だけで応じる。
    「うん、そだよぅ」
    「ならば先に言っておこう。私が勝った暁には、貴様は〈救世人党〉より去れ。そして二度と私の前に現れるな」
    「にゃひひひっ、嫌われたもんだなぁ、あたしも。……良いよ、受諾したげる。代わりにあたしも先に宣言しとこう。あたしが勝ったら、白風ちゃんはあたしの忠実な手足になる。……良いね?」
    「……ああ」
     頷いて、“肯”と応じる白風。
     白風の中に宿る殺意は、膨れ上がって内面を焦がしていた。馬鹿にするにも程が有る。あんな短剣一つで、薙刀を振るう自分に勝てるとでも? ――有り得ない。何よりリーチが違い過ぎる。確かに一度懐に潜り込まれれば大事だが、そんな隙を見せる程、白風は無能ではないと自覚している。
    「じゃ、始めちゃおっか。――ゲームスタートっ!」
     楽しげに告げたかと思うと、殯は何の構えも無く、無造作に白風に歩み寄って来る。
     これが――これが武人の動きか? 怒りを通り越して呆れてしまう挙措に、白風は困惑を覚える。全くの素人の動きに、躊躇すら覚える程だ。
     とは言え、この勝負は絶対に負けられない真剣勝負。白風は両眼を鋭く眇め、顎を小さく引き、薙刀を両手で握り直し、素早く一歩、踏み出す。
     だん――ッ、と刹那に突き出された薙刀の先端に有る白刃は、殯の籠手――つまり短剣を握る右手へと寸分の狂い無く突き込まれる。これで勝負は着いた――そう認識するのは、まだ早かった。
     くるり――、とその場で舞踊を踊るように片足を軸にして自転すると、軽やかに白刃を避ける殯。動きは無駄だらけだったが、確実に収斂された動きには違いなかった。
     思わぬ動きに、一瞬にして警鐘が脳裏で鳴り響く。思わず踏み込んだ足を戻し、バックステップを踏んで、殯から距離を取る。
    「あれ、どうしたのかにゃ? そんな距離を離して……もしかして、怖い?」
     嘲弄をふんだんに塗り込んだ笑みに、白風の怒りが再燃しそうになるが、すぐに冷却処置を施す。彼女に乗せられるのは不味いと、本能が既に理解していた。それに理性が追いつくのは、自然な流れだ。
     薙刀の先端を斜め左に倒した下段の構えで、摺り足でじりじりと殯に近寄って行く。言葉を返す余裕は無い。全ての神経を戦闘に注ぎ、先程のような隙は二度と見せまい、と頑なな意志を見せる。
    「堅いなぁ。堅い戦法は面白くないよ、白風ちゃん。もっと戦いは楽しまなくちゃ♪」
     歩み寄って来る殯には、彼女が言う堅実さなど欠片も介在しなかった。全くの無造作。隙だらけの態で、どこもかしこも狙い放題と言わんばかりの所作。が――白風は警戒のあまり、更に後退してしまう。
     迂闊に近づいて来る殯など邀撃してしまえ――そう、理性が告げる。だが本能は、動物的な危機意識は、その真逆を唱える。彼女の存在そのものが危険だ――と。
     けれど、このまま後退し続けても何も始まらない。攻撃を加えねば。それは分かっている。彼女ほどの軽装なら、一撃でも腹に斬撃を与えれば、それだけで動きが停まる筈。
     後退し続けた足に停止を命令し、踏ん張りを加えて、先程とは違い、籠手ではなく胴を狙った突きを放つ。
     全身を余す事無く使った、隙など微塵も見当たらない型通りの突き。初速も申し分無く、一撃の名の下に戦闘不能にするのも難しくない、雷撃染みた突き。
     ――それが、まるで舞踊の動き染みた、片足を軸にした自転のみで、躱される。
     驚くべき反射速度、そして身体能力だった。
     全霊を込めた突きを躱された白風は咄嗟に動く事が出来ず、殯の接近を許してしまう事になる。するりと滑り込むように肉薄した殯は、何の変哲も無い短剣を使って、白風の手首に刺し傷を作る。ざくっ、と喰い込んだ白刃から痺れに似た痛みが走り、思わず薙刀を取り落としてしまう。からん――、と薙刀が落下した音が、空虚に響いた。
    「あッ、く……ッ!!」
     反射的に体が動き、踏鞴を踏む形で後退した白風は、手首を押さえて呻き声を漏らす。その視線は殯を捉えたまま離れなかったが、瞳には僅かな怯えの色が広がり始めていた。
     視線の先に佇む少女は、人血に濡れた短剣を愛しげに見つめながら、白風へと言葉を紡いでいく。
    「くひひひっ、まさかここでギヴアップするとか言わないよねぇ? まだゲームは始まったばかり、お楽しみはここからだもんねぇ?」
     ――悪魔だ。
     そう、思わず脳裏に一つの単語が過ぎった。奴は、確かに人間じゃない。だが、神なんて崇高なものでもない。――魔物。魔に憑かれた、化物だ。
    「……参りました。私の……負けです」
     降参の意を示すように、白風は諸手を上げ、跪く姿勢を取る。これ以上、抵抗しても意味が無いと即座に察したのだ。……これ以上続けても、嬲り殺しになるのは、自明の理だった。
     殯は白風の様子を見て不満そうに唇を尖らせ、「えー、もう終わりー?」と不平を漏らす。
    「お見事です、白風さん。素晴らしい判断でしたよ」
     ぱちぱちと、小雨のような拍手で迎えたのは神無だった。澄んだ笑顔で白風を見やり、嬉しげに手を叩いている。
    「あれ以上戦っても、損は在れど得は無いと気づいた冷静な判断、お見事です」
    「まぁねぇ。それでも戦うのが男ってもんだけど……ま、君はか弱い女の子だしね。――及第点だ。君は今を以て党首補佐として職務を果たし給え、――にゃは♪」
     ……話に付いて行けない。
     跪いて両手を挙げた姿勢のまま、何をどうすれば良いのか分からず、暫らく呆然としていた白風だったが、やがて立ち上がり、怪訝な眼差しで二人を見つめる。理解不能だ、と言う意を盛り沢山に詰め込んだ視線を突き込む。
    「……いつ裏切るとも知れない輩を党首補佐に置く理由をお聞かせ願えませんか?」
    「君は裏切らない。さっきの話を聞いてなかったの? 負けた方は、勝った方の忠実な僕になるんだよ。君は、今じゃもう、あたしの狗なんだから、反駁する権利は剥奪された。裏切る道理なんて、無い筈だけど?」
     ぽかん、と一人だけ取り残されたように茫然としてしまう白風。
     彼女の言っている事は、子供の約束と何も変わらない。明確な規定で定められた訳ではないのに、そうだと言いきれる確証も何一つ介在しないのに、彼女は――断言する。白風は、叛旗を翻さない、と。
     ……実に馬鹿げていた。愚かしいにも程がある。なのに、
    「……ふふ、」
     ――なのに、何だろう、この感情は。
     意識した訳でもないのに、心の奥底から得体の知れない感情が、笑みの形を取って浮き上がってくる。
     理解できなかった。納得など出来る訳が無い。分かり合える事など万が一にも有り得まい。
    「――御言のままに、我が主、殯様」
     再び跪き、右手を左肩に置いて、静かに頭を垂れる白風の顔には、言い知れぬ感情が渦巻いていた。
    (良いだろう、今だけは忠誠を誓ってやる。だがな、殯。貴様は確実に殺してやる。我が手で、必ず――!)
     憎悪、そして憤怒に満ち満ちた感情を発露していた白風だったが、その口許は確かに――邪悪を極めた笑みに彩られていた。

     白風はそうして、殯と邂逅を果たした。必ずや彼女を殺すために、彼女の傍に就く事を約束した白風――――

    ◇◆◇◆◇

     ――現在に至るまで、白風は党首補佐でありながら、殯の世話役と言う裏の職務を全うした。朝は薙刀の鍛練を怠らず、昼間は執務に従事し、夜は殯に定例の報告を行う。それを毎日繰り返し、やがて邂逅より五年近くの歳月が経とうとしていた。
     季節はあの時の真逆――夏へと移ろい、地下に在る殯のいる空間は過ごし易い場所と化していた。
    「お尋ねしたいのですが、梵在様を【臥辰都立総合学習院】に送り込むまでは良いとしても、そこに〈牙〉がやって来るとは分からない筈。ですが、殯様は〈牙〉を試すための実験と仰っていました……どういう目算が有ったのか、説明願えますか?」
     実のところ、白風には真相は分かっていたのだが、社交辞令的な意味合いで、殯に確認を取る。殯は説明が苦手だと言い張るくせに、いざ説明を始めると得意気に話し出すのだ。矛盾しているが、彼女はそういう人種だった。
    「〈牙〉が【竜王国】の王族と通じているのは知ってるでしょ? 何せ彼は、百年前から【竜王国】の繁栄に助力し続けた……それを王族関係者が知らない筈が無い。まぁ、実際は〈狗隠(クイン)〉に裏づけを取ったから分かった訳なのだけれど……そこで【竜王城】直々に脅迫状を突きつければ、真っ先に連絡が向かうのは〈神災対策局〉――つまり〈牙〉って訳よ。あの時は〈竜騎士〉の殆どが遠征に出掛けていたしね。後はまぁ……梵在の動きが良かったんでしょうね。お陰で〈牙〉の不死性を確認できた。もしかしたら、って言う僅かなパーセンテージをゼロに変えられたんだから、状況は良好、ってね♪」
     ――〈狗隠〉。〈救世人党〉が秘密裏に抱える、隠密部隊の事である。頭目以下八人の部下を内包した、計九人の狗の面を被った集団……その活動内容は主に諜報に有る。全員が幼少から血を吐くような鍛練を繰り返し行い、感情や性格を完全に駆逐された、訓練された人形とでも言うべき存在である。
     先日、【竜王国】の首都である【臥辰】に在る、上流階級の人間が通う学習院が襲撃された事件に、〈狗隠〉の人間が借り出された。勿論、誰にも知られる事無く、あくまで諜報のみを主要任務として行っているのだ、戦闘に係わる事など以ての外だった。
     彼らが齎した情報には、〈牙〉と言う【竜王国】の英雄が、胸を串刺しにされても平然と活動していたと言う内容が含まれていた。常識で考えれば、人間と見做すには些か問題が在り過ぎる。その意味するものとはつまり――
    「……〈牙〉が〈禍神〉である証明をされたのですね。殯様はどう為さるおつもりですか? 【神戯】の期日まで一月を切りました。見過ごせる問題ではないと愚考致しますが」
    「まだだよ、シロちゃん。――そう、“まだなんだよ”。まだゲームは始まっちゃいない。楽しみは最後まで取っておくものさ♪」
    「その油断が命取りになるのでは? 叩ける内に叩く。相手の状況が整っていない今こそ、千載一遇の好機とお見受け致しますが」
    「確かに、ゲームに“勝つために”は必要な戦法だ。でもね、シロちゃん。あたしは勝ちたいんじゃない、“楽しみたい”んだ。始まってもいないのに、いきなり先制攻撃を加えるのは展開的には面白いけれど――恐らくあたしが負けるよ。ゲームは長いんだ、じっくりと事を構えなくちゃ♪」
     薄汚れた純白のドレスを引き摺りながら、殯はその場をグルグルと歩き続ける。落ち着きの無い奴だと白風は常々思う。少しは静かに出来ないものか、と。
     直立不動の姿勢のまま、白風は更に言を募る。
    「併しあなたには今、〈狗隠〉だけでなく、〈救世人党〉が抱える武力、僧兵を十万人も従えている……相手は〈神災対策局〉と言う肩書きを持つだけであって、国を敵に回せる程の戦力は持ち合わせていない。相手が【竜王国】王族に支援を乞う前に潰せば、〈禍神〉が一人、盤上より消え失せるのではと愚考致しますが?」
    「分かってて言ってるんだよね? シ~ロちゃんっ♪ 始めッから自分のカードを見せびらかしてどうするのさ? 奴らはあたし以上に頭が切れるんだ、出し惜しみしたい訳じゃないけど、まずは敵の手札がどんな物か拝見しない事には、策の練りようが無いからね。〈牙〉一人を全力で潰しに掛かれば、残りの二人に背後を襲われる……つまりはそういう事さ♪」
    (……流石に、それ位は考えている、か)
     内心で冷たい笑みを滲ませて殯を見据える白風。殯が謀略を練るのは、何も今に始まった事じゃない。彼女は、先日の件――【臥辰都立総合学習院】襲撃を企てた張本人だ。〈禍神崇信教団〉と言う、〈救世人党〉から見れば敵以外に見做しようの無い輩の、それも幹部を利用し、学習院を襲う算段を組んだ。その本質はと言えば〈牙〉の不死性を探るためと言う、何の繋がりが在るのかと疑ってしまうような内容だ。が、彼女はそれを悉く成し遂げた。梵在と言う男が如何に有能な男であったとしても、ここまで巧く事が運ぶとは白風も予想だにしなかった。
     一見すると軽薄にしか見えない少女。その内実、彼女の脳裏には常に謀が浮かんでいるのだろうか。白風は冷ややかな視線に、僅かな憎悪を載せ、殯に突き込む。
    「して、殯様。次の手は如何為さるおつもりで?」
     殯は片足を軸にしてターンを決めると、ふわりと持ち上がったドレスの裾をそのままに、すとんっ、とその場に座り込む。挙措に一々無駄が在り過ぎる、と白風は毎度のように感じる煩わしさを再び感じた。
    「正直な話、今これ以上打つ手は無いよ。待ちの一手、って奴だね。……おおよその見当は付いてるけど、藪を突くのはまだ早いんだ。今突けば、指どころか体を丸ごと齧られちゃう。だから、待つ。奴らがこの藪を突くのを、さ……」
     邪な気を隠そうともせずに漏らすその面には、陰惨を極めた笑みが浮かび上がっていた。

    【神戯】まで残り一月を切った或る日。
     殯の壊れた笑声が【大聖堂】の地下で鳴り響く――――

    ◇◆◇◆◇

    「……それで、殯様。この本は一体どうされたのですか?」
    「うにゃ? あぁ、こんな地下空間に一人で過ごすのって閑でさぁ。神無に頼んで買ってきて貰ったの」
    「この量を全てお読みに?」
    「まさか。精々で三百冊かな。百年掛けてやっと三百冊さ。併も、殆ど内容を覚えてないと言う」
    「……記憶されてないのですか?」
    「うん。あたしの記憶力って最悪だからねー。読む速度も尋常じゃなく遅いし。あ、でも、漫画なら千冊超えてると思うよ? ラノベが三百冊で」
    「……そうですか」
    (……本当は馬鹿なんじゃないだろうか、この〈禍神〉は……)

    【深闇へ到る】――了
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