鎖錠の楼閣

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    【神戯】022:深闇に到る〈其ノ参〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第22話

    022:深闇に到る〈其ノ参〉


    【謁見の間】の隅に在る壁の一部に手を触れると、壁の一部がスライドして開き、奥に箱型の空間が現れた。そこに神無と共に白風が入ると、壁が再び元の位置に戻り、――箱型の空間が移動を始める。その時点で白風は、この箱型の空間がエレヴェーターなのだと気づいた。
     間も無く箱の扉が開き、暗い空間が視界一杯に拡がる。箱から出てみると、外に比べれば何倍もマシだが、屋内にしては涼しいと思える程度の冷気で満ちていた。だだっ広い空間は、どこを見渡しても壁が窺えず、延々と深淵が続いている。
     併し漆黒の闇と言う訳ではない。遥か先が見通せないだけで、僅かな光源がどこかに在るのか、足許が確りと見える。近くにいる神無の姿も、白風の瞳に克明に映り込んでいる。
     神無が裾を引き摺りつつ進んで行くのを見て、白風も無言のまま後を追う。
    「〈禍神〉は実在する……まだ白風さんの中ではその現実を事実として認識するのは難しいでしょう。ならば実在すると仮定して、それはどういう存在だと思いますか?」
     静かに足を運びながら、神無が開口一番、そんな質問を投げかけてきた。
     白風は先程とは別種の緊張を纏っていたため、即座に返事を返せなかった。
    (……私は今、〈救世人党〉の禁忌に触れようとしているのではないだろうか)
     そういう想いに囚われ、神無の質問を一瞬、意識が知覚できなかったのである。
     神無の声がやがて脳裏を過ぎり、彼女は慌てて思考を現実に引き戻すと、眉根を寄せて考え込む素振りをする。屋内だと言うのに冷え切った空間は、頭を冷やすには打ってつけだった。
    「……過去の書物に出てくる悪魔、と言う印象が強いです。神にしても、自らの手で世界を創造し、更に自らの手で滅亡へと至らせた、と書物にあります。とは言え、それらが実際に起こった現象かと言えば、そうではありません。鑑みるに、悪魔も神も、あくまで想像上の存在……人間の深層意識の中にのみ存在する、架空の存在だと思います。……無礼を承知で申し上げますが、神無様が仰る〈禍神〉と言うのは、〈禍神〉を騙った不届き者なのでは、と愚考致します」
     神、悪魔、天使、それらと同列に並ぶであろう〈禍神〉が、実在するなど有り得ない……そう、白風は認識している。神も悪魔も、確かに書物……過去の書物である聖書などには出てくるが、実際の歴史に出現したと言う事実は一切無い。人間が考え出した想像上の存在……それはつまり、宗教団体が創り上げた神や悪魔や天使のように、〈禍神〉も〈救世人党〉の創り上げた、教義の中にのみ存在する架空の存在なのでは、と白風は考えている。
     今の発言は恐らく、〈救世人党〉にとって禁忌以外の何物でもないだろう。教義を根本から否定するようなものだ、相手が神無でなくとも、怒りを露にするだろう。――だが、恐らく相手は憤怒だけでなく、僅かな安堵も得られる筈だ、と白風は思っている。自分もそう思っていたんだ、と言う共感を覚える筈だ、と。
     そういう反応を期待していた白風の予想を裏切り、神無は歩む足を止めずに、くすりと微笑を零す余裕さえ見せた。白風は怪訝にその後ろ姿を見据える。
    「確かに、神、悪魔、天使と言った存在を誰かが見た、と言う話は聞いた事が有りません。有ったとしても、大概は見間違い、精神に異常を来たしていた、或いは虚言と言ったところでしょう。わたくしの話を信じられないのも、無理からぬ事だとは思います。……恐らく、彼女と相対しても、その考えは変わらないでしょうね」
     言葉が最後の方になると、微笑が暗く沈んでいくのを白風は感じた。
     やがて二人が辿り着いたのは、首が痛くなる程の高さを有した本棚の前。壁が一面本棚で埋められ、棚にはぎっしりと本が詰め込まれている。その量は恐らく千や二千で済むまい。軽く億……いや、それ以上の桁を有するかも知れない。
    「殯様~。今日は一体どこにいらっしゃるのですか~?」
     両手で輪を作り、口許に当てて大声を張り上げる神無。声は反響するでもなく、闇の中へと溶けていく。
     白風は見えない天井辺りまで続いている本棚を見上げると、近くまで歩み寄って、一冊の本を抜き出してみる。表紙を見ると、可愛らしい少女が描かれていた。題名からして、巷で売られている漫画の一つだと察しが付く。それが延々と本棚に敷き詰められているのだと分かった。
    (……漫画ばっかり。後は……小説かしら? どれも、ライトノベルみたいだけど……)
     この空間の主は、恐らく子供のような精神を持つ者なのだろう、と白風は推測した。これだけ大量の書物をどうやって集めたのかは謎だが、ジャンルは全く無差別だった。雑食、と言う言葉が似合う程に、漫画も小説も、デタラメに買い揃えた感が窺える。ただ、シリーズものが丁寧に順番に並べられているところを見るに、適当な性格、と言う訳でも無さそうだ。
    「やーはー、神無ちゃん。今日は何のご用事だーいっ?」
     暢気な声が、暗闇に沈む空間から響いてくる。
     素早く視線をそちらへ向けると、そこには――純白のドレスを身に纏った少女が、にこやかな笑顔を浮かべて立っていた。
     歳は十代後半か。百七十は在るかと言う長身に、薄い茶色の長い髪、暗い青色の瞳は大きくパッチリと開いている。愛らしい顔立ちをした少女は、少し汚れた感じのする純白のドレスを無造作に引き摺りながら、歩いて来ると言うより闊歩してくると言う印象が強い歩き方でやって来ると、白風の姿を捉えて足を止めた。
     ――“にぃ”、と口唇が不吉に歪む。
     少女のたったそれだけの所作に、白風は背筋を冷たい手で撫でられるような悪寒を覚えた。
    「やぁやぁ、君が白風ちゃんだね? 初めまして。あたしは殯。〈禍神〉だよ」
     流れるような自己紹介。何の澱みも無く告げられる発言に、一瞬白風は聞き逃しそうになる。思考が現実の世界に引き戻されると同時に、訝りをたっぷりと載せた視線を、少女――〈禍神〉と名乗る殯に射込む。
    「……初めまして、白風と申します。失礼ながら申し上げますと、どこをどう見ても、貴女を〈禍神〉と認識するのは無理が有るのですが……何か、証明できる物は無いのでしょうか?」
    「――にゃは。当然の反応を有難う、白風ちゃん♪ 聡明な君の事だ、ちょっとやそっとじゃ、あたしを〈禍神〉と認めてくれそうに無いねぇ。……まぁ、この際信じて貰えなくても良いんだっ。あたしには、君みたいな優秀な人材が必要だと言う事を知って欲しかっただけだから」
     全く以て、彼女を〈禍神〉と認識するに足る証明が不足していた。どこからどう見ても、歳相応の少女にしか見えない。更に言えば、少し頭が足りなそうな、不良少女と言っても差し支えが無いような印象が濃い。
     にも拘らず神無は無言でその様子を眺めているだけで、彼女の振る舞いを止める気配が無い。真剣な双眸には虚偽など微塵も介在しない事を克明に示していたが、それでも白風は確固たる証拠も無い段階で、殯を〈禍神〉と認識する事は出来なかった。
     とは言え、先程から見ている様子で鑑みるに、殯は神無より偉い立場にいる言動をしている。それはつまり……
    「あと五年したら、この世界に災厄が降りる。《神災》より丁度百年目の日――再び現世に〈禍神〉が舞い戻るんだ。……うんにゃ、正確には、姿を隠している〈禍神〉が、再び猛威を振るい始めるのさ」
     楽しげに絵空事のような物語を紡ぐ殯。その表情には恍惚とした色が宿り、話を止める事を躊躇わせる程の喜色がありありと浮かんでいた。
     白風は当面の謎――殯と言う眼前の少女が真に〈禍神〉であるのか確認するために、質問を投げかける。まずは、相手の物語に矛盾が無いかどうか、確認していかねばなるまい。
    「〈救世人党〉の教義である〈禍神〉とは、世界・人類・未来を見限った、と言われています。それが何故、人間の姿で、このような場所――選りも選って〈救世人党〉の中枢にいるのか。お答え頂きたい」
    「いいよ、応えたげる。――まず、〈救世人党〉の言う〈禍神〉の話は、虚妄の塊さ。〈禍神〉は世界も人類も未来も見限っちゃいない。単に、世界を或る程度滅亡させただけ。因みに言えば、〈禍神〉が人間の姿をしているのではなく、四人の人間が〈禍神〉と呼ばれる存在なだけだから、人間の姿をしているのは当然。最後に、〈救世人党〉の中枢に〈禍神〉であるあたしがいるのは、あたしが〈救世人党〉を創った裏の立役者だからさ。――さ、次の質問にいこう」
    (……流石に、早々にボロを出す事は無い、か)
     逐一応えていく返答に隙は無い。筋が通っていると言えば通っているし、話している中で反している点が出てくる事も無い。
     だが、今の話だけでも更に謎が増えた事になる。それを明かしていく事に決める白風。
    「――では、続けます。〈禍神〉は何故、世界を或る程度滅亡させたのか。滅亡させた世界に何故未だに残り、姿を隠しているのか。一番不可解なのは、どうして一度滅亡させた世界を復興する真似をするのか。お答え頂きたい」
    「その答は纏めて一括できるね。――あたしを含めた四人の〈禍神〉は今、とあるゲームを執り行おうとしている。その名は【神戯】。四人の〈禍神〉が命を賭けた殺し合い、それこそが、【神戯】。で、その【神戯】を行うに当たって、世界――つまり盤面を自分好みに造り替える必要が在った。だから世界を《神災》に因って滅ぼした。【神戯】が始まるのは《神災》より丁度百年目。五年後の〈神災慰霊祭〉の日から、四人の首を狙った殺し合いが始まる。それまでは出来る限り自分の身を隠そうと考えるだろう? 隠さなければ真っ先に狙われる。そのために四人が四人、この広い世界に身を隠した。世界を復興させた理由は言わずもがな、自分に有利に事を運ぶために盤上を整えておく必要が在ったから。――どう? 少しは納得した」
    「……話に矛盾点が無いのは認めます。――ですが、それを証明するものが実在しない限り、私は今の話を鵜呑みにする事は出来ません。話を聞いただけでは、単なる与太話と変わりありませんので」
     幾許かの緊張を孕みながらも、冷静に切り返す白風。その様子をジッと見つめる神無の眼差しに、非難の色は無い。てっきり、敬愛する〈禍神〉の話を“与太話”と切り捨てた白風に怒りを向けると思ったが……彼女は怜悧な色を瞳に滲ませ、ただ静かに傍観を続けている。
     殯にしてもそうだ。白風の素気無い反応を受けても微笑に変化は無い。「なるほど、なるほど」と楽しげに首肯し、白風の応対を噛み締めるような仕草をする。
    「神無様、無礼を承知で申し上げますが、このような輩の話を、まさか鵜呑みにされた訳ではないでしょう? この不届き者を退治するのであれば、私も全身全霊を込めてお手伝いさせて頂きます」
    「にゃひゃひゃひゃっ、まぁそう言うのも無理は無い、か。――白風ちゃん、一度あたしとゲームをしてみないかい?」
    「――ゲーム?」
     楽しげに口ずさむ殯の様子を見て、訝しげな色を濃くする白風。彼女のペースに乗るのは良くない。そう、本能が呼びかけている。
    「なぁに、簡単なゲームだよ。――あたしと真剣に戦ってみない? 得物は自由。相手を戦闘不能に追い込んだら、勝ち。どう? 難しくない内容でしょ?」
    「……お断りします。そんな野蛮な手法で勝敗を競うのは、無意味且つ無価値です」
    「負けた者は、勝った者に対してどんな命令でも聞かなくてはならない。――まっ、主従関係を結べ、って事ね。……ふふっ、いつも薙刀の鍛練を怠らない君でも、やっぱり得体の知れない相手は怖いかい?」
    「安い挑発ですね。私は野蛮なゲームに用いるために鍛練を積んでいる訳ではないので。これにて失礼させて頂きます」
     踵を返して来た道を戻ろうとする白風に、更に殯の声が重なる。
    「――母上殿はご健勝かな?」
    「――――ッ」
     足が、射止められる。
     振り返ると、邪悪を通り越した、魔的な笑みを滲ませる殯の顔があった。
     激昂しそうになる頭を何とか冷やし、白風は低い声で応じた。
    「……卑怯者……ッ!!」
    「ん? どうしたのかな? ――さぁ、どうするんだい? “ゲームを、するのか、しないのか”」
     白を切る少女を睨み、熱い息を吐きながら、白風は奥歯を噛み締める。
     彼女は、恐らくこうなる事を見透かして、母の事を調べ上げたに違いない。
    (……周到な事だ。そこまでして私に勝って、私を忠実な僕にして……それだけが本当に望みなのか?)
     本能がそれを“否”と告げている。彼女は恐らく、その上――更に二重三重と、何か考えているのでは、と思わせる何かが有る。
     殯と言う少女を外見だけで判断するのは愚かな事だった。彼女は、彼女が言う通り、得体の知れない面が有る。〈禍神〉と自称する事だけじゃなく、何か内面的な……凡人には理解が及ばない事を策謀しているような、そんな印象が強くなっていた。
    「……私に否定する事が出来るとでも思っているのか、貴様は……? 巫山戯るのも大概にしろよ、下種が」
    「おやおや、可愛い顔をして、そんな穢れた単語を使うとは……口が汚れますわよ?」
     下卑た笑声を走らせながら、少女が白風に歩み寄って来る。瞳には仄暗い炎が宿っている。不気味な色の、炎が。
    「さぁ、始めようか? 楽しい楽しい、お遊戯の時間だ♪」
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