鎖錠の楼閣

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    【神戯】021:深闇に到る〈其ノ弐〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第21話

    021:深闇に到る〈其ノ弐〉


     今より五年前の冬。白風はいつも通り寄宿舎で目を覚ますと、身形を整え、【大聖堂】へと出勤した。
     大陸中央に位置する【中央人民救済枢軸国】とは言え、冬――それも年末ともなれば、豪雪地帯である【竜王国】程ではないにしろ、地面を一面真っ白な絨毯に変え、交通網を一時的に麻痺させる程度には降雪が観測される。
     その日も朝からパラパラと小雪が舞い、【大聖堂】の外を一面の雪化粧に変貌させていた。
    「はぁ……」
     吐く息が白く凍り、中空へと溶けていく。【大聖堂】は冷暖房が完備されているが、室内は未だしも、通廊ともなればあまり期待できない。歩く度に口許から小さな白い空気が吐き出されていく。
     白風は当時、一般職から管理職へと昇級していた。内政にも携わる重要な役職で、彼女はやり甲斐の有る仕事だと感じて、毎日のように精を出す生活を続けていた。
     事務室の扉を開け、暖房の恩恵に肖ろうと中に入ると、思わぬ視線の集中攻撃を喰らった。中にいる全員が、白風を見ていたのである。思わず白風はたじろいだが、「……何か?」と眉根を寄せて問いを返すと、彼らは視線を漫ろに逸らし始める。
    (……何だろう、何か致命的なミスでもやらかしたのか……?)
     内心、首を傾げつつ自席に着く白風。昨日の事を掘り起こしても、失敗に繋がるような記憶は一切無い。彼らの関心を買うような真似をした覚えが無く、白風としては戸惑う一方だった。
     そこに、管理長の役職を担った、この事務室で一番偉い男が、用紙を手に現れる。
    「白風くん。君に異動の報せが来た」
    「異動? ……私にですか? 一体、どこに……?」
     こんな時期に異動なんて終ぞ聞いた事が無い。それ程までに酷い失態をした記憶が無い彼女にとっては晴天の霹靂以外の何物でもなかった。
     管理長のどこか同情を感じさせる眼差しを浴びている現状を打破すべく、白風は管理長が持つ用紙を受け取り、中身を見やる。
    「……党首補佐に任命する……!?」
     用紙の内容を端的に言えばそうだった。
     思わず視線を管理長に向け直すが、彼は戸惑いがちに首肯を返すだけだった。その反応が、この用紙に記された事は事実なのだと無声で伝えてくる。
    (私が……党首補佐……?)
     党首補佐と言えば、〈救世人党〉内で実質ナンバーツーの役職だ。その上には最早、党首以外に存在しない。それだけ、雲の上の存在として通じる役職なのである。
     確か現在、その役職は空席だった筈。白風が入党する以前から、党首補佐が存在しなかった。故にこそ、空席を埋めるための人事なのだろうが……
     白風には現実味の湧かない話だった。五年前に入党して、確かに人並み以上に努力を惜しまず、精力的に雑務を熟してきた。その成果が実ったのだと言えば確かにそうだが、まさか五年足らずで最高職に就けるとは考えてもみなかった。
     思わぬ事実に数瞬惚けていたが、やがて立ち上がると無言のまま事務室を後にした。
     用紙には彼女を党首補佐に任命する以外にも記載されていた事柄が在った。それを為すために、白風は通廊を突き進む。迷う事無く、弾む心臓を何とか鎮めつつ、ただ進む。


    【謁見の間】
     その四文字が刻まれた木版が掲げられた大きな扉の前で、白風は大きく深呼吸した。
     この先に――党首、神無(カンナ)がいる。
     そう思うだけで心臓の高鳴りを抑えられなかった。〈救世人党〉の頂点であり、【中央人民救済枢軸国】の王たる、女性。
    〈救世人党〉のみならず、【中央人民救済枢軸国】の人間なら殆どがその顔を知っている。〈神災慰霊祭〉の度に弔辞を述べるために姿を現すし、国家レヴェルの行事が行われる際にも度々顔を出している。
     彼女は常に十代の少女の姿をしている。歳を取らないのではなく、二十歳と言う若さで引退せねばならない規則があるためだ。
    “神無”は襲名で、その名を継げるのは十代の少女のみ。二十歳――即ち成人になると同時に次の代へと交代する、一般で考えるより遥かに短命な役職なのだ。
     それ故、神無に成るために、生まれて間も無い頃から英才教育漬けにする。剰え自由など一切与えられずに育った者しか選ばれない上に、何人候補がいても、あくまでその中の一人しか選出しないと言う、過酷な生き残り戦が控えている。
     たった十年にも満たない期間だが、全身全霊を懸けて民を従わせ、国家の長として機能しなければならないのは、十代の少女にすれば大儀以外の何物でもないだろう。だが、それ故にその質は高水準だ。その辺の民と同一視など出来る筈が無い程に。
     国家の長たる少女とは恐らく一方的な面識しかない。神無にしてみれば、白風など砂漠に落ちている一粒の砂塵でしかない。それ程までに両者の間に有る差は画然としている。
     白風は息を呑み、緊張で鈍くなりがちな所作で、――控えめに扉をノックした。
    「どうぞ」
     間も無く、中から澄んだ声が響いてきた。年端のいかない、拙さの残る返答に、白風は再び緊張で鈍りかけた体に喝を入れ、重厚な扉を静かに押し開いた。
     事務室とは比べ物にならない程に、広い間取りの部屋だった。天井は通廊と同様に高く、最奥――垂れ幕が下りている場所までは優に二十メートルは何も無い空間が拡がっている。垂れ幕と、出入口である扉までの間に在るのは、等間隔に並んだ乳白色の柱、そして扉と垂れ幕の最前列へと一本の道で繋ぐ、青く縁取られた白色の絨毯。それらの下地には、天井から注がれる灯りを反射する、硬質そうな木製の床が敷き詰められている。
     部屋の広さに圧巻を覚えた白風は、部屋の中が異常な静けさを保っている事にも気づいた。
     まるで音が死んでいた。何の音もしない――日頃、寄宿舎や慌しい事務室で生活しているだけに、無音の世界は居心地の悪さを覚える程だった。暖房が利いている筈なのに、寒気すら覚える程の、静寂。
     奥に見える薄い垂れ幕の先に、薄っすらと人影が見える。あれが――現【中央人民救済枢軸国】の王であり、〈救世人党〉の党首でもある少女、第二十九代神無、――か。
    「――――」
     思わず、唾が喉を滑り落ちる。まだ、神無は一言も喋っていない。それどころか、白風はまだ、部屋に入っただけだ。なのに――言い知れない重圧を、彼女は総身に浴びていた。突き刺さるのではない、纏わりつくような重苦しい空気に、白風は始めの一歩を踏み出す事も出来なかった。
     過度な重圧を受け続けたためか、吐き気すら込み上げて呻きそうになっていると、奥から静かな、だが重みの有る声が届けられる。
    「あなたが……白風さん、ですね?」
     鈴のように、澄んだ音色を連想させる声。その声を聞くだけで、更に重圧が纏わりつくような錯覚を生じさせる。白風は頭を垂れ、応じる。
    「――はい。白風に御座います」
     ダメだ、と白風は自身の思考を呪った。全く言葉が出てこない。緊張に凍った喉は、声を絞り出す事すら許さない。同時に、気が遠くなりそうな程に、意識が覚束無い。
     体が震え出すのを必死に堪えて、頭を下げ続けていると、澄んだ少女の声は小さな笑声を零した。
    「――ふふ、そんなに緊張を為さらなくても結構ですよ、白風さん。あなたは、本日付で党首補佐――わたくしの片腕に成って頂くのですから」
    「……僭越ながら申し上げますが、何故私を、党首補佐に任命されたのか、その理由をお聞かせ願いたく存じ上げます」
     強張る声調でありながらも、何とか問いを発する事に成功する白風。相手が思ったより話し易い相手だと認識しての質疑。当たり障りが無いように心掛けているつもりだが、相手がどう思っているかなど、彼女には想像が付かない。
     一介の党員を突然、党首補佐に任命するのだ、その理由くらい聞かせて貰わねば。白風は人事命令が出された瞬間から考えていた。
    「わたくしの一存です。白風さんが適任だと思い、判断を下しました。何か不満でも懐きましたか?」
     垂れ幕の奥の少女は、瑣末事でも聞かれたかのように抑揚無く応じる。事実、彼女にしてみればこの程度の問答、何の意味も無い事かも知れなかった。
     白風は小さく「いえ」と呟き、視線を垂れ幕の向こう側へと投げる。薄い垂れ幕の先は朧気にしか映らず、少女の素顔を窺う事は敵わない。座している事しか分からない。
     白風の視線に気づいたのか、薄い垂れ幕の奥で神無は小さく笑声を零した。口許に手を運ぶ所作にさえ気品を感じる。その姿勢のまま、彼女は言を続けた。
    「……と言うのは、あくまで建前。――時に白風さん。あなたは、〈禍神〉と言う存在をどのようにお思いですか?」
    「〈禍神〉、ですか」
     白風は眉根を僅かに顰め、思案を浮かべる。
     ……〈禍神〉と〈救世人党〉は切っても切れない関係にある、重要な存在だ。世界を、人類を、それらの未来を見限り、滅亡へと向かわせた存在。〈禍神〉から解き放たれた世界を、今度は我々人類が護っていこうと言うのが、〈救世人党〉の教義なのだから、党員にしてみれば、〈禍神〉は敵以外の答が無いだろう。
     それを改めて聞き直す神無の意図は掴めないが、白風は自身の考えを述べるべく、開口する。
    「……〈禍神〉は世界を見限ったとされる、災厄の神。言わば人類の敵だと、私は考えていますが」
    「――なるほど。あなたは党員としては正しい答を持っているようですね」
     歯に物が挟まったような語調に、白風は更に眉根を顰める。緊張が徐々に解け、今度は疑心が徐々に膨らんでいくのを感じた。
     神無が何を言いたいのか察する事が出来ず、白風は胸の底に沈殿し始めた疑心を、少しだけ漏らす。
    「神無様は一体、何が仰りたいのでしょうか?」
    「――〈禍神〉は実在すると、思いますか?」
     ――ああ、と。白風はようやく質疑の意味を理解した。〈禍神〉の存在の有無を問うていたのか、と。
     白風は併し、すぐに応じる事が出来なかった。今の発言を鑑みるに、そういう事なのか、と思わずにいられなかったからだ。
     垂れ幕へと鋭い眼光を突き込みつつも、姿勢を正して身動ぎを取らずに、白風は言葉を投げる。
    「……〈禍神〉は、実在すると仰るのですか?」
     あまりに現実味の無い話だ、と白風は思わずにいられない。〈禍神〉が実在する、と言うのは、子供が描く絵空事と何ら変わり無い、非現実的な話以外の何物でもない。教義には確かにそういう存在が出てくるが、あくまで比喩だと思うのが一般的だ。神や悪魔、天使などと存在は同義だと思っていたが……神無の口調は、それを否としていた。
    「ですが、教義の中の〈禍神〉は、世界を見限り、姿を消した絶対神だったのでは? 実在する、ではなく、実在した、と言うべきだと思うのですが?」
    「いいえ、白風さん。〈禍神〉は、“実在する”のです」
     断固として主張を変えず、神無は言い切る。
     一瞬、静かな迫力に気圧されたが、白風は怯む仕草を内に押し込み、神無を正視し続けた。
     垂れ幕の奥で動く気配がして、薄れていた緊張が再び度合いを増し、白風の喉を潰さんと重圧が掛かる。垂れ幕を手で避けて出て来たのは紛れも無く――十代半ばの少女。色素の薄い、血が通っているのか疑わしい程に病的な白さを誇る肌を持つ、滑らかな青い髪を地面に届かんばかりに伸ばした、切れ長の紅色の双眸を有する、眉目秀麗な少女――神無。それが、白風に向かって歩を進めて来る。
     以前見た時と同じく、〈救世人党〉のシンボルでもある白と青を基調とした色彩の着物を纏っていた。大きな着物なので、彼女が足を運ぶ度に、裾が地面に擦れる。彼女の髪と同様、長過ぎる印象を持つのは無理も無い。
     静かに足を運んで、白風の前に立つ神無は、小柄な体躯をしていた。思わず見下ろす体勢になりそうになったので、白風は咄嗟に膝を折って、跪く形で神無を眼前で正視する。
     人形のような印象を与える、整った眉目をしている。少女らしい愛らしさが漂い、華奢な体躯も合わせて、年齢よりも随分と幼く映る姿をしている。十代半ばとは思えず、見た目だけで言えば、十代前半でも通る程だ。
     見蕩れるように、間近まで迫った国主を見つめていると、神無は小さな口唇を動かして、白風に声を掛けた。
    「〈禍神〉に逢わせて差し上げます。――付いて来て下さい」
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