鎖錠の楼閣

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    【神戯】020:深闇に到る〈其ノ壱〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第20話

    020:深闇に到る〈其ノ壱〉


    〈救世人党(きゅうせいじんとう)〉――世界と人類と未来を見限った神の代わりに、生き残った人類と世界と未来を護り救うと宣言する宗教団体。
     その教義を掲げて活動を始めてから、今年で早百年目になるらしい。白風(シラカゼ)にしてみれば、今年で入党十年目になるので、別の意味でも節目を迎えた事になる。この十年間を振り返っても、決して長いと感じる事は無かった。時の流れが、十年前より何倍も加速したような錯覚を覚える程だ。
     早朝四時半。白風は寝巻きから制服――白と青を基調とした女性用の祭服に身を包み、身嗜みを整える。姿見には二十九歳と言う妙齢の割には幾分か瑞々しさを湛える風貌の、皺一つ無い潔癖さを兼ね備えた祭服を見事に着馴らした女性が映っている。色素の無い白髪の先端十センチ位の所を束ね、後ろへ流している。朱に染まった瞳はややキツい感じのつり目。最低限の筋肉しか付いていない無駄の無い体は、客観的に見ると少し痩せ気味に映る。身長は百六十八と、女性にしては上背が有る。白磁のような肌には艶が有り、それら老いを窺わせぬ身体を誇る自身を見て、白風は今日も満足気に鼻を鳴らした。
     部屋を出ると、長い通廊が視界に飛び込んでくる。まるで無限に続いているかのような錯覚を生じさせる程の、見晴るかしてもまだ続く通廊。延々と見栄えのしない白壁と青い絨毯が続き、その間に連なる重厚な木製の扉達。初めてここを訪れる者なら確実に迷宮と化す空間を、彼女は一度も立ち止まる事無く、すいすいと歩を進めて行く。
     途中、十字路で彼女と似た祭服を纏った男女と遭遇。二人は礼儀正しく腰を折り、朝の挨拶を述べる。
    「白風様、おはようございます」「おはようございます」
    「ああ、おはよう」
     対する白風は頭を下げず、立ち止まる事も無く、それどころか目を合わせる事さえなく、その場を足早に立ち去って行く。それに対して男女が非を唱える事は無い。これがこの場所では日常のワンシーンなのである。


    〈救世人党〉は、長い歳月を経て遂には国をも建造するに至る。名を、【中央人民救済枢軸国(ちゅうおうじんみんきゅうさいすうじくこく)】と言う。
     宗教国家【中央人民救済枢軸国】は、三大国の一つに挙げられる大国である。残りの二大国に対して中立の姿勢を取り続けた経緯から、【中立国(ちゅうりつこく)】と呼ばれるようになる。長過ぎる正式名称よりも、自国民や他国民を問わずこの通称で呼称する事が多い。
     尤も、国の所在もそう呼ばれる所以となっている。残りの二大国――【竜王国】と【燕帝國】は、新人大陸の対極に座しており、その中心――大陸の丁度中央に腰を据えるのが、【中立国】なのである。
    【中立国】の更に中心には〈救世人党〉の総本山――【大聖堂】と呼ばれる建造物が居を構えている。
     地上三十階、地下五階もの巨大な建造物は、敷地だけを鑑みても、【竜王国】にある【竜王城】、【燕帝國】にある【燕皇城(えんおうじょう)】と遜色無い巨大さを誇る。党員ですら時に自分がどこにいるのか分からなくなる事がある程で、一般人が迷わない道理は無い。
     斯く言う白風は【大聖堂】で迷った事は一度も無い。党員として【大聖堂】を訪れる以前から、入党者全員に配布される【大聖堂】の縮図に何度も目を通して完全に記憶し、どこに何が在るのか殆ど把握してしまった彼女にしてみれば、そこは最早自宅の庭と同様の気軽さで散策できる場所と化していた。
    (……とは言え、地図に描かれていない場所が幾つか点在していたけれど)
    【大聖堂】に通う者のために用意された寄宿舎から出て来た白風に、ふと苦笑を伴った思考が脳裏を過ぎった。
    【大聖堂】の一部として存在する寄宿舎の規模は、【大聖堂】で勤める者全員を内包しても余りある部屋数を保有している。寄宿舎と言っても【大聖堂】の中に納まる形で存在するため、通廊を進んで行けば職場に辿り着ける。
     その途中で出逢う党員は皆、白風を見て頭を垂れる。現在、この職場に於いて彼女よりも上位に就く者が皆無のためだ。
     党首補佐――それこそが白風の築き上げた地位。彼女よりも偉い者がいるとしたら、党首以外に存在し得ない。
    (……そう、表向きは、ね)
     長い白髪を靡かせ、白風は皮肉を込めた苦笑を口許に刷く。
    【大聖堂】の中央区画へと入る。但し向かうのは職場ではなく、五階に用意された【鍛練の間】と記された木版が掲げられた屋内訓練場。だだっ広い空間を利用して武術の鍛練を行うべく、白風は隣接した更衣室で道着に着替え、同じく隣接する武器庫から自身が愛用している武具――薙刀を取り出してくる。
    【鍛練の間】は半分が畳敷き、もう半分は木版が敷き詰められている。天井は他の部屋に比べると高く設定してあり、広く設けられた空間が更に広大に感じさせる造りになっている。一面土壁で構成されており、採光に高窓と、床側にも窓が点在している。窓からは早朝の清涼とした空気と、僅かな陽光が差し込んできている。
     室内には誰もおらず、道着姿の白風しか存在しない。白風は畳敷きの方へと移動し、薙刀を畳の上に鎮座させると、正座して瞑想へと移行する。
     時間にして十五分ほど瞑目したままの沈黙を終えると、すっくと立ち上がり、薙刀を手に取って、鍛練を始めた。
     ――こうして白風の一日は始まりを告げる。


     朝食を摂るのはそれから数時間経ってから。下位の党員が働き出す時間帯である、七時半頃。白風はシャワーを浴び、着替えを済ませてから【鍛練の間】を離れ、食堂にて朝食を摂る。
     毎朝食す物は決まっている。焼き立ての食パン、バナナ、そしてブラックコーヒーだけ。栄養が偏っているとよく言われるが、彼女はこれで充分だった。
     それらを手早く食べ終えると、次に新聞に目を通し始める。先日、【竜王国】の首都【臥辰】に在る【臥辰都立総合学習院】と言う上流階級の子供達が通う学び舎が襲撃された件が未だに取り上げられていた。とは言え、もう小さな記事に成り下がり、内容も御座なりな物に移ろいつつある。
     その記事を見ながらコーヒーを啜っていた白風は、一度そこで目が留まるものの、すぐに別の記事へと視線を走らせる。
     ある程度内容を頭に納めると、白風は新聞を畳み、職場である執務室へ向かう。
     階段を使って二十八階に上り、党首補佐のために用意された執務室へと入って行く。重厚な樹木で造られた扉を、鍵を使って開け、大きなデスクに付随した肘掛椅子に腰掛ける。机上には昨日残していった書類の山が堆く積み上げられている。
     それからは延々と執務に追われる。書類に目を通し、判を押す。その繰り返し。どれだけ判を押して提出しても、その倍の数の書類が再び机上へと運ばれてくるのだから終わりは無い。
     やがて昼の休憩に食事を摂るが、その後も同じだ。延々と書類に向かい続ける。
     こういう生活を始めて、五年近くになる。苦痛を覚えるような事は無い。寧ろ甘んじてこの環境に心身を委ねている。
     全てはとある計画を遂行するため。そのためならこの程度の雑務、彼女にとってどうという事は無い。


     やがて時刻は夜半になり、党員も徐々に【大聖堂】より寄宿舎、及び帰途へと着き始める。
     白風は執務室の掛け時計の時針を見やると立ち上がった。書類は半分ほどしか片づいていないが、以前に比べれば何倍も処理できるようになったと自負している。今日はこれで執務は終わりだ。
     執務室の扉に内側から鍵を掛け、部屋に掛けてある湖と山が描かれた絵画へと歩み寄る。それを外すと、壁に十桁の数字が並ぶ操作盤が現れる。それを規則に乗っ取って順番に押していくと、隣にあった本棚が音も無くスライドし――人が乗れる程度の箱が現れる。
     箱の中に入ると、本棚が元の位置へと戻り、箱は音も無く下降し始める。僅かな浮遊感を覚えつつも、白風は無言のまま感覚に身を委ねる。
     やがて音も無く箱の扉が開くと、薄暗い空間に出た。
     夏も間近だと言うのに、ひんやりとした空気が辺りに敷き詰められている。空調が働いているためか、澄んでいる印象も覚える。
     薄暗い空間は、視認できないだけで相当な広さを有する。天井は見えず、奥も見通せない。光が届かないだけで、永遠に空間が拡がっているのでは、と錯覚を催す程に、だだっ広い空間が拡がっている。音も無いため、まるで世界に一人取り残されたような錯覚を覚える者もいるだろうが、白風にはそのような情調とした想いは湧かない。
     かつん、と革靴の音を立てて、白風は闇の中へと進んで行く。灯りが無いとは言え、彼女にしてみればここは何度も訪れた空間である。迷う事は無いし、躓く事も有り得なかった。
     やがて見えてきたのは、――視界を埋め尽くす程に巨大な本棚。天井――と言っても見える範囲でしかないが、そこに達する程の高さを有する本棚は、ぎっしりと書籍で埋められている。滑車の付いた専用の梯子があり、それを使って地上数十メートルの高さに在る本でも取りに行ける仕組みになっている。
     その本棚の前の床には、これまた大量の書籍が山積になっていた。足の踏み場も無いとはこの事か。これらに触ると持ち主が苛立つのが分かっているので、白風は目に留めるだけで近づこうともしない。
    「――殯(モガリ)様。どこにおられるのですか?」
     やや大声気味の白風の声だったが、地下空洞に反響する事も無く、闇へと溶けるように消えていく。その呼びかけに対する声は、すぐに返ってきた。
    「あー、シロちゃん? 上だよ上ー」
     声は確かに頭上から聞こえてきた。白風は見上げるが、蟠る闇に因って視界は殆ど遮られている。梯子が掛けられているから、恐らくこの上にいる事は間違い無いのだろうが……
    「ちょっと待っててねー、今降りるから~」
     十代後半程の少女の声が降りて来るのと同時に、がたっ、と梯子が大きく揺れる。
     ――次の瞬間、白風の眼前に少女が落ちてきた。お尻から着地を果たした少女は「ぎぃえー」と臀部を摩りながら悶絶し始める。
     現れた少女は、声相応の歳に映る。白いドレスを着飾った姿ではあるが、化粧っ気は無く、ドレスも幾分か汚れているようだ。百七十は在るかと言う長身に加えて、若干痩せ過ぎとも思える痩身だが、スタイルは割といい方に分類されるだろう。薄い茶の髪はサラサラで、腰までの長さを有している。暗い青色の瞳は、大きくパッチリと開き、顔立ちに幼さのアクセントを加えている。
     臀部を押さえて「ちょっ、タンマタンマ」と悶絶している少女を見て、白風は腰に手を添えて嘆息する。
    「殯様……少しは歳相応の落ち着きを持ったら如何ですか? お転婆も過ぎると印象が悪くなりますよ」
    「いったぁ……はい? 歳相応の落ち着き? ――にゃはははっ、そんなの気にしてたらダメだって言ってるじゃん♪ シロちゃん。やれる時にやっとかないと、後で後悔する羽目になるんだよー」
    「……仰ってる事が下品に聞こえますよ、殯様」
     白風は再び重たい嘆息を零すと、すぐに表情を切り替えて報告を始める。
    「〈神災対策局〉の動向をご報告致します。彼らは目下、〈禍神崇信教団〉を調査中です。梵在様が確りと情報操作を行ってくれたようですね」
     白風の事務的な報告を、欠伸を殺しながら受けた少女は、目許に僅かな涙を浮かべながら頷く。その後、実に暢気そうに返答を寄越す。
    「まぁ、彼は忠義に厚い人間だったしねー。それ位は働いてくれないと送り込んだ意味が無いってもんさ。……でもまぁ〈牙〉の事だ、その件が無かったとしても、もう気づいてると思うなぁ。あたしの存在に」
    「……〈救世人党〉が、教義に反する存在を内に抱えてると、既に感知している、――と?」
     白風の鋭い眼光に動じる事無く、少女――殯と称する少女は口許を不気味に歪める。
    「多分、〈牙〉だけじゃないよ、気づいているのは、さ。奴らはあたしが思う以上に、頭が切れるんだ。或る意味じゃ、全員が優等生だもの。……けれど、足りない要素が在り過ぎるために、まだ手が出せない……奴らが気づいていても襲えない理由は、多分それだけだよ」
     ニヤニヤと、下卑た笑みを隠せずに口許に浮かべて楽しむ殯。
     ――そう、彼女は〈禍神〉の一人だ。世界を、人類を、それらの未来を見限ったとされる、四人の絶対神の一角。それが何の冗談か、〈禍神〉を敵対視する宗教の中枢に佇んでいる。
     この状況そのものが歪んでいるとしか思えないのに、白風は動じない。何せ、これこそが正しい状況なのだ。どれだけ客観的に歪んでいるとしても、実質が間違いではないのだから、白風には動じる理由が無かった。
    (……そう、あの異動さえなければ、永遠にこの正しい歪みに気づく事は無かった)

     あれは――五年前の冬。白風が出世街道を突き進んで、党首補佐へと成り上がった時に遡る――――
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