鎖錠の楼閣

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    【神戯】019:忌徒に到る〈其ノ玖〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第19話

    019:忌徒に到る〈其ノ玖〉


    「――――ぁ?」
     悪夢を見たようで、汗だくで眼を覚ました黒宇は、目覚めた場所が自室だと知り、僅かに安堵した。何年も見上げ続けた天井に、馴染みの有る空気。その全てが、安全な場所にいる事を裏づけする。
     酷い悪夢を見ていた気がする。思い出すだけで吐き気を催す程の、悪夢を。
    「お願いだぁ……助けて、くれよぉ……」
    「!!」
     不意打ちに響いた声に、黒宇は思わずベッドの上で首を巡らす。誰もいない。何もいないのに、その気配だけが濃厚に、黒宇の皮膚に纏わりつく。
     ――フラッシュバック。あの光景が、脳裏限定で再生される。
     涙と、洟と、涎と、血と、汁を流しながら訴えてきた、あの男。
     それを、殴って、蹴って、叩いて、突いて、折って、掴んで、噛んで、捻って、砕いて、斬って、壊した、あの悍ましき光景が、一瞬の間に、閃光として蘇る。
    「――――う、ぐ、――ぁ」
     吐き気が込み上げるのを我慢できず、咄嗟に洗面台へ向かうと、胃液と共に臓腑を締め上げる感情をブチ撒ける。どれだけ吐き出しても、気持ちが晴れる事は無かった。
    「お願いだぁ……」
     血の泡を吐きながら、血の涙を流しながら、血の言葉を放つ男の、血に塗れた顔が、今、黒宇の目の前に浮かぶ。
    「ウォおおおオオオオオあああああああアアアアアアアアアアッッッッ!!!」
     眼前に在る鏡を殴り壊し、やっと幻聴が止む。荒々しい呼気だけが、先刻の声が確かに存在したのだと思い出させる。
     臓腑を締め上げ続ける、悪夢の情景。自分はいつまで、あの場面を思い出すのだろう。今ほど自分の記憶力を呪った事は無い。
     悪夢を忘れられない事くらい、恐ろしい悪夢は無い。
     黒宇は歯を食い縛って、泣訴を耐えた。決然と顔を上げ、割れた鏡の端に映る自分の顔を睨み据える。青褪めた、酷く血色の悪い、生気の感じられない、自身の胡乱な顔を。
     ――戦うと決めた。この道は、もう踏み外してしまったものだけれど、だが最後まで踏み締める覚悟を、固めたんだ。
     それがあいつを――亜鳩を守るためには必要だと感じたから。

    ◇◆◇◆◇

     悪夢で目が覚める前――最終過程を終えた黒宇が初めて目を覚ました場所は、施設の医務室だった。白いカーテンと、白い天井、そして薬品特有の臭いが充満する部屋で、黒宇はぼんやりと宙を眺めている自分を自覚する。
     ゆっくり起き上がると、――僅かな疼痛を頭に覚えた。何が原因でそんな痛みが発するのか分からず、黒宇は呻きながら首を傾げずにはいられなかった。そもそも、何で自分はこんな部屋で眠っていたのか。
    「…………」
     人の気配を感じる。それも、懐かしい感じのする気配が。
     視線を巡らすと、ベッドの脇で、一人の少女がスツールに腰掛けていた。
     短い白髪をポニーテールに纏めている。小柄な体躯で、黒宇と二十センチ近い差が有る小さな上背。落ち着いた色合いの服装で纏めている、洒落っ気の無い姿。紺色の垂れ目がちな瞳が、黒宇を捉えて動かない。
     首には、いつか買ってあげた羽を象った首飾りが下げられている。
     ――少女は、
    「…………亜鳩、」
    「…………」
     少女は何も返さない。ただ、見つめているだけ。
     たったそれだけで、黒宇は全てを思い出した。今まで何をしてきたのか、何故ここに運び込まれたのか、どうして頭が絞り上げられるように痛むのか、全てを。
     黒宇は何も返さない少女を見て、僅かな逡巡が在ったが、問いを発した。
    「……お前、〈忌徒〉になったんだってな」
    「…………」少女はコクリと頷いた。
    「…………人を、殺したのか?」
     少女は驚いたように瞠目し、慌てて首を“否”と振った。
     黒宇は眉根を怪訝そうに曲げ、睨みつけるように少女を見やる。
    「……違うのか?」
     コクリ、と頷く少女。
    「……〈忌徒〉になったのに、人を殺してないのか?」
     コクリ、ともう一度頷く少女。
    「……そう、か」
     安堵したような、怒りが湧くような、そんな気分だった。
     黒宇が重く溜め息を漏らす様を見て、少女――亜鳩は、ポケットの中からメモ帳を取り出し、据え置きのペンを使って、紙の上に文字を走らせる。
    「?」
     黒宇はその様子を不思議そうに眺めていた。何をしているのか問う前に、亜鳩はメモ帳ごと黒宇に渡した。
    『クロちゃんは 人をころしたの?』
    「……お前、声を……?」
     メモ用紙から顔を上げ、亜鳩を見つめて問う黒宇。亜鳩は微苦笑に顔を歪めて、再び小さく頷いた。
     ――どうして、
     その言葉が口を出る前に、亜鳩が再びメモ帳にペンを走らせる。
    『じっけんのとちゅうで なくなっちゃった』
     メモ用紙を見せながら、微苦笑を浮かべる亜鳩。
     黒宇はその用紙を見つめながら、亜鳩を見つめ、愕然とした想いで、胸を掴んだ。締め上げる痛みに、堪えきれない。苦しさのあまり、血を吐きそうだった。
     ――どうして、
    「……何で、俺に言わなかったんだ……ッ?」
     吐き出す声が、まるで喉が押し潰されたように、掠れてしか出てこない。
     亜鳩は表情を少し暗くさせ、恐る恐ると言った風に、ペンを走らせたメモ用紙を見せる。
    『クロちゃんに めいわくが かかると思ったの』
    「掛かる訳――ッ!」
     怒号を張り上げようとして、怯える亜鳩の姿が見え、黒宇は自身の感情を捻じ伏せた。
     荒い呼気の満ちる空白を置いて、黒宇は唸るように答を返した。
    「……迷惑なんて、掛かる訳、無いだろ……」
     項垂れるように、力を失った声で小さく呟く黒宇。纏う空気は、重い悲愴感を帯びていた。
    「……亜鳩、お前、……ここに、いたいか?」
     ポツリと漏れる、問いの形を取った本音。亜鳩は首を傾げて、詳細を求める。
    「……この組織に、……〈異人研究室〉で、ずっと働いていたいか?」
     連日の実験は辛いかも知れない。種々な制約に縛られて窮屈かも知れない。時には人道を踏み外す事が在るかも知れない。
     けれど、身の安全は保障してくれている。金銭面でも余裕が出来る。仲の良い友だっている筈だ。
     ――そういう柵を無視して、亜鳩の答は初めから用意されていた。
    『クロちゃんがいるなら ここにいたい』
     微笑を浮かべ、それ以外の言葉で装飾する事なんてする筈も無く、ただ自分に正直に、彼女は決めていた答を出す。
     躊躇なんて、有る訳が無い。だからこそ、黒宇の答も決まっていた。
    「――亜鳩。俺と一緒に……ここを出よう。いつになるか分かんねえ、けど……俺は必ず、お前をここから連れ出してみせる。だからそれまで……」
     亜鳩を正視して宣言する黒宇に、亜鳩は小さな驚きを面に刷き、やがて穏やかな微笑で頷いた。

    『まってる』

    ◇◆◇◆◇

    「――よぉ、クロ。その様子じゃ、最終過程はクリアしたみてえだな」
     施設に幾つか用意されている喫煙コーナーの一角に、彼女はいつもと同じ姿――派手な色合いのシャツに、半ズボン――で、のんびりと煙を楽しんでいた。窶れた双眸で現れた黒宇に対して、ニカッと八重歯を覗かせて笑みを浮かべる。
     対する黒宇に余裕など絶無だった。隣に腰掛け、俯き気味に沈黙を返す。女――梶羽は、それ以上は声を掛けなかった。
     梶羽が煙草のケースを取り出し、一本だけ引き抜いて黒宇に手渡すと、彼は無言で受け取った。梶羽が更にライターを取り出し、黒宇が咥えた煙草に火を点す。喫煙コーナーに、二本分の紫煙が漂う。
    「……ま、手前の反応は人間として正しいと思うぜ、黒宇。だが、〈忌徒〉にそんな感情は必要ねえ。〈忌徒〉ってのァ、人間じゃねえと思や良い」
    「……カジさん。あんたに、相談してえ事が有る」
     黒宇の深刻な声調。梶羽は細く長く紫煙を吐き出すと、鼻を鳴らして呟く。「聞こうか」
    「俺、組織を敵に回すかも知れねえ」
     簡潔な発言。それ以上に装飾を付けるでもなく、それだけで話は完結した。
     梶羽は瞳を眇め、隣に座る黒宇を意識しつつも、視線を前に向け、言葉だけを返す。
    「……穏やかじゃねえな。やっぱ、最終過程で皹が入っちまったか?」
    「――亜鳩を護りたい、……それだけだ」
     決然と告げる黒宇。その言葉には、憎悪や勇気と言った、様々な意志が付加されているように感じられた。
     その意志を敏感に感じ取った梶羽は、追究するではなく、思案の言を述べる。
    「……失った代価を償わせたい、か。……ふふ、お前にしちゃ、よくやったと思うよ。俺に相談して正鵠だったぜ、――黒宇」
    「手伝って、くれるのか……?」
     顔を上げて、隻腕の女を見やる黒宇。彼女は口許に笑みを滲ませ、小さく鼻を鳴らして応じる。
    「弟分の願いとあっちゃ、姐御としちゃ見過ごす訳にゃあいかねえだろうよ。……一つ聞きてぇんだが、黒宇。手前、亜鳩の存在が如何に組織で重宝されてるか知ってるのか?」
     梶羽の視線を正面から受け止め、黒宇は苦々しく頷く。
    「〈禍神〉を見つけ出すために使われるんだろ? ……重宝なんてもんじゃねえ、〈禍神〉にとっちゃ、喉から手が飛び出しても手に入れたい“モノ”――だろ?」
    「ほう、分かっててやるのか、手前は」僅かに瞠目すると、梶羽は狂気に満ちた笑みを口許に刷いた。半月に、口唇が割れる。「〈異人研究室〉だけじゃねえ、〈禍神〉全員を敵に回す覚悟が、手前は出来てると吐かす訳だな?」
    「――ああ」自然と笑みが浮かんでくるのを、黒宇は感じた。「俺の命を全て使いきっても良い。俺が招いた災厄だ、俺がそれから奴を護るのは、当然だろ」
     両者共に、睨むような眼光で見据え合い、沈黙が流れた。
    「――――は、は、は」短い笑声を鳴らしたのは、梶羽だった。「良いだろう。その話、乗らせて貰う。……言っとくが、これは他言無用だぜ、黒宇。この話は非常にデリケートだ、少しでも皹が入れば元の木阿弥より酷くなる」
    「ああ、分かった」頷いて応じる黒宇の表情に、驚きや怯えの色は無い。
    「あと一つ。――途中で誰が落伍しようと、手前は構わず自分のすべき事を遵守しろ。それが絶対条件だ」
     真剣な瞳を向ける梶羽。眼光には有無を言わさぬ力が宿っているようだった。
     黒宇は、意を決して頷く。その反応に、梶羽は満足そうに頬を緩めた。
    「それで良い。……後は手前次第だぜ、黒宇」
    「……ああ」
     黒宇が応じ、梶羽も真剣な眼差しでそれに応える。
     喫煙コーナーの煙は、徐々に濃さを増していく。
     まるでそれは、未来の在るべき姿のような気もして――――

    ◇◆◇◆◇

    「……律。虚馳(ウツハセ)からの報告なんだが……」
    「黒宇と梶羽が謀反を企ててんすよね。もう耳に入っていやすよ」
    「どうするんだ? 杭は早めに打つべきだと思うが」
    「出過ぎる前なら幾らでも打ちようが有る、か……そうっすね、飼い殺しは無理だろうから、戦死でもさせやしょうか。働きには期待できやせんが、その結果が〈忌徒〉の良い薬になりやしょう」
    「あくまで盤上に狂いは無い、とでも言いたげだな。人間の心ほど、読めぬモノは無いと思うが?」
    「盤上に狂いは無い? ――冗談。盤上は常に狂気と邪気と殺気、悪意と害意と敵意に満ちていやす、読める者なんて万が一にもいやせんよ。……それが、神でも」
    「……本当に初手は黒宇で打つつもりか? 遊びが過ぎると思うが」
    「遊びじゃありやせんよ。俺はいつだって本気でマジメで真剣っす。……黒宇だってその気になればビショップやルークになる要素は有るんすよ。ただ、叛旗を翻す要素を抱えた駒を抱える程、俺も魯鈍じゃありやせん。初手は次に活きる手になるんすから、意味が無い訳でもない。遊び半分で〈禍神〉を追い込める程、今回のゲームは単純じゃあありやせんて」
    「……なら、良いが」
    「っすが、意見を持つ事は大事っすよ、覇一。奴と一対一なら俺でも負けやしやせん。――っすが、奴は盤上を巧く使いやがるんすよ。その時は、流石に俺も絶対に勝てるとは言いきれやせん。だからこそ、覇一や由鷹(ユタカ)、虚馳のような人間が必要なんすよ。……働きに期待していやすよ? 覇一」
    「ふん……精々寝首を掻かれないように気を付けるさ」

    【忌徒に到る】――了
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