鎖錠の楼閣

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    【神戯】018:忌徒に到る〈其ノ捌〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第18話

    018:忌徒に到る〈其ノ捌〉


     総合演習室の中にある幾つもの部屋を通り、やがて奥まった場所にある部屋まで連れて来られた。黒宇に待機を命じると覇一は去って行った。
     扉は、黒宇が入ってきて覇一が出て行った扉を除くと、他に四つ用意されている。五角形を模した部屋で、各一辺の中央に扉が用意されている。灰色の壁と床、くすんだ色の電灯で、部屋は全体的に灰褐色に塗り潰されている。空調が働いていても空気が澱んでいるような想いをさせる内装だった。
    「四人のターゲットを殺害しろ。方法は問わない。タイムリミットは無い。お前が『ギヴアップ』と唱えるか、或いはお前が標的に対して殺害不能状態に陥った時点で、最終過程は強制終了する。その場合、お前がどうなるかは想像で補え。以上だ」
     先程、覇一は部屋を後にする前に、そんな事を告げた。恐らく、四つ在る扉から一人ずつ、標的が現れるのだろう。最早そんな事さえどうでもよく思えてきた、その思考にこそ恐怖を覚える自分を、黒宇は自覚していた。
     武器は無い。徒手で殺せと言う事なのだろうか。相手は武装しているのだろうか。どれ程の武力を保有しているのだろうか。不安が表層意識に浮かび上がっては消えていく。
     ――がちゃ、と扉が軋む音が響き、黒宇の意識が急速に鋭さを増す。
     視界の先――開いた扉より現れたのは、茶髪に黒瞳の、いかにも軽薄そうな顔立ちの青年だった。歳は間も無く三十路、と言ったところだろうか。茶髪の青年は黒瞳を見開いて、黒宇の存在に驚いているようだった。手には、どこかで見た覚えの有る大刀が握られている。
     ――続くように別の扉も開き、奥から小麦色の肌をした、禿頭の、四十代前半の男が現れる。禿頭の男は黒宇を見ても動じる事は無かったが、その視線の先にいる茶髪の青年を見て、瞠目していた。
     更に二つの扉が同時に開き、奥から一人ずつ、青年と男が現れる。
     一人は青く長い髪に碧眼の二十代後半の青年。もう一人は三十代前半と思しき、白髪に隻眼の男。
     合計四人。全員が大刀を握り締め、各々が相手の事を知っているような様子で両眼を見開いている。
    「どうして、あんたらがここに……?」茶髪の青年が思わず、と言った様子で呟く。
    「……そういう趣向なんだろ。……よく見れば、手前はあの時の餓鬼か」
     青髪碧眼の青年が黒宇を冷ややかに見据えて、矛先を突きつける。
     彼らは黒宇に見覚えが有るようだったが、黒宇はイマイチ記憶が繋がらなかった。
    「誰だよ、手前ら」
    「忘れやがったのか!? 五年前だ!! 五年前、手前のせいで俺は捕まっちまったんだぞ!!」
    「五年前……?」
     回想してみても、こんな奴を見た記憶は無い……いや、もしかして……
    「……あの時の強盗、か?」
     だが、あの時は三人組だった筈。
     疑問符を浮かべつつ尋ねた黒宇に、茶髪の青年――恐らく五年前、銀行にて黒宇が倒した男――は瞳に重度の憎悪を滾らせて応ずる。
    「ああそうだよ!! あの青髪がリーダー、白髪が見張り、禿げは逃がし屋だった!! だがな、手前のせいで俺は銀行で捕まり、あいつらは俺を見捨てて逃げやがった!!」
    「おい、何も手前だけが捕まった訳じゃねえだろ。ここにいる全員があの後〈神災対策局〉にお縄にされちまった。お前が知らないだけでな」補足したのは白髪隻眼の男だった。
    「知るかよ!! ……へへっ、遂に俺にも運が回ってきたってこった。手前ら全員をこの手でぶち殺してやるからなぁ!!」
    「……殺すのは、あの餓鬼だけじゃないのか?」
     呟いたのは青髪碧眼の青年。茶髪黒瞳の青年は吐き捨てるように言葉を返す。
    「もう手前にゃ指図される覚えはねえんだよ、青髪!! ……あの餓鬼は殺す、けどな、手前はそれ以上に殺さなきゃならねえんだよ!!」
    「そうか」
     黒宇そっちのけで繰り広げられる言葉の応酬に、黒宇自身、どうすればいいのか分からなかった。
    (仲違いか……勝手に殺し合ってくれるなら、俺が手を下すまでも無く終わってくれるか……?)
     淡い期待を込めて成り行きを見守る黒宇。どうしても人を殺さなければならないのなら、少しでも数を減らしたい。……全く意味は無いが、それだけでも精神が保たれるのでは、と思ったのだ。
     そして、その淡い期待は無惨にも眼前で解体された。
     茶髪黒瞳の青年が大刀を振り被って、青髪碧眼の青年へと斬りかかった。最早、問答は無用と察したのだろう、澱み無い動きで茶髪黒瞳の青年の大刀が青髪碧眼の青年を膾斬りに――する前に、青髪碧眼の青年の大刀が閃く。
     鮮やかな一閃だ、と黒宇は思った。隙も無く、躊躇も無く、無駄も無い動きで、ただ相手の生命を刈り取るためだけに特化した一撃――。茶髪黒瞳の青年は、首から上を撥ね飛ばされ、大量の血を撒き散らしながら、刹那に絶命した。
     蹴鞠のような軽やかさで生首が床を飛び跳ねて転がり、やがて大量の血液を撒き散らしながら動きを止める。その表情は、怒りに猛ったまま静止していた。意識する事も無く、下界から旅立ったのだろう。
     青髪碧眼の青年は眼前で倒れ伏した青年の屍には近づこうともせず、黒宇へと視線を定める。“次はお前だ”――そう、眼差しが語っている。思わず鳥肌が立ち、黒宇は意識を再び現実へと戻した。
    「……お前を殺せば、俺達は晴れて娑婆に戻れるんだ。悪く思うなよ」
     青髪碧眼の青年の、静かな呟き。その内容を頭が理解して間も無く、彼らも後には退けない理由が介在するのだと、改めて認識した。
    (……だがな、俺にも退けねえ理由が有るんだよ……!!)
     静かに状況を確認する黒宇。自分には得物が無い。相手は三人で、全員が得物――大刀を手にしている。最悪に等しい状況下だが、絶対に打開できない状態、という訳でもない。
     黒宇は決意する。初手で決める、――と。
     ――否。初手で終わらせなければ、恐らく自分の崩壊に耐えられない。
     一番危険なのは、間違い無く青髪碧眼の青年だ。場慣れした雰囲気を隠せない彼は、眼前で仲間を容易く斬り伏している。逆に言えば、彼以上の脅威はここにはない、という事。
     残りの二人の男を観察しても、それは確認できる。二人とも、仲間が一人殺された事に動揺するばかりで、戦意など欠片も窺えない。
    「――おい、白髪頭、禿げ。分かってるんだろうな?」
     青髪碧眼の男の低い恫喝染みた声。二人の男はそれにビクついて、頭目へと視線を向ける。禿頭の男が言い難そうに口を開く。
    「リ、リーダー。相手は子供なんだぞ? 確かに奴を殺せばここを出られるかも知れん。だが、そんな事をすれば――」
    「――お前も、こいつみたいになりたいのか?」
     青髪碧眼の青年の視線の先――そこには、首から上が消失した、青年の亡骸が無造作に転がっている。
    「――――ッッ」
     二人の息を呑む気配。
    (……そうだ、やるしかないんだ、あんたらも)
     心の中で呟き、下唇を噛み締める黒宇。対話を求めようにも、そんな状況ではないのは自明の理だ。殺さなければ、殺される。殺される前に、殺さなければ。
     禿頭の男は大刀を構えようとしなかった。代わりに、白髪隻眼の男が大刀を構え、青髪碧眼の青年へと歩み寄る。
     ――先の先を取る。
     黒宇は意識の底に眠る、“スイッチ”を刹那に切り替える。
     視界が膨張し、流れる時間が一気に鈍重になる。一足で青髪碧眼の青年へと距離を殺し、流れる動きで反り返ると、爪先を青年の顎に叩きつける。ごがッ――と鈍い破砕音が響き、青年の顎を打ち砕く感触が爪先越しに伝わる。
     サマーソルトを放った後、床に両手を突いて体を支え、両手の力だけで跳び上がって、着地。視界に、海老のように反り返って宙を舞う青年の姿が映る。――まだ時間は生きている。
     徐々に落下を始める青年の後頭部へと体を走らせ、相手の頭を両手で固定、そのまま地面――自身の立て膝に後頭部を激突させる。ぼぎんッ、と頭蓋骨が破砕する感触を確かめる。
     三秒にも満たない閃光の一幕。刹那に刈り取られた男の命。鼻から鮮烈な紅を流す男を横たえ、黒宇は一度“スイッチ”を元に戻した。どっと汗が噴き出す。だが、以前に感じた程の疲労感は無い。まだいける。
    「――――え? ぁ……?」
     突風のような出来事に、白髪隻眼の男は何が起こったのか理解できない様子だった。瞬く間に頭目の青年が倒された事が、視界に映っても、脳にまでは伝達されていない。
     黒宇は一瞬だけ“スイッチ”を切り替え、跳び蹴り――男の首を蹴り砕き、刹那に沈黙させた。酷く軽い音が響くと、首が異常な方向に折れ曲がった状態で、男は倒れ伏した。
    「――――はぁ、」
    “スイッチ”を小まめに切り替え、再び元の状態に戻る黒宇。残り一人をやるには、体力は充分過ぎる程に残っている。そう思って禿頭の男へと視線を向けた。
     ――禿頭の頭頂が見える。彼は落涙しながら土下座をしていた。
    「頼むッ!! 頼むから殺さないでくれッ!!」
    「……何、言ってやがんだ、手前は」
     ――考えるな。そう、本能が警鐘を鳴らしている。気づく前に、殺れ、――と。
     併し、一度停まってしまった体を動かすには、先刻の何十倍もの労力を要した。
     縺れるような舌で呟きを発した黒宇の眼前で、禿頭の男は額を床に擦りつけながら、涙声で、時々詰まりながらも、泣訴を続けた。
    「わ、私には娘がいるんだ!! 今年で二十三になるんだ……ここを出たら、逢う約束をしているんだ……っ、頼む!! 私を助けてくれ!!」
    「……何を、言って……」
     黒宇は視界が霞むような錯覚を覚えた。酷く息苦しい。動悸が脳を焼く。
     ――考えるな。相手は敵だ。殺すべき敵。殺す以外に価値の無い存在。……なのに、
    (やめろ……やめてくれ……ッ、それ以上喋るな……ッ!!)
     頭が軋みを上げる。壊れゆく精神が、徐々に形を失い始める。
    「なん、だよ、それ……巫山戯んな、そんな話、聞いてねえぞ……ッ!!」
     眩暈を抑えられず、思わず踏鞴を踏んで頭を押さえる黒宇。歪む視界の先に浮かぶ禿げ上がった頭は、未だに面を上げようとせず、体を打ち震わせて泣訴を続ける。
    「お願いだ……ッ、娘に一目逢わせてくれるだけでいいんだ!! 頼む、お願いだッ!!」
     ――その瞬間、黒宇の中の溶岩より熱い何かが爆発した。意識せずに、舌が走る。
    「――ざッけんなァ!! だったら何で強盗なんて罪を犯した!? 娘がいるのに、何でンな事しやがるんだよッ!!」
     心からの叫び。胸が、焼けるように痛く、絞り上げられるように苦しくなる。
     どうして敵に娘がいるんだ。
     どうして強盗が娘を心配するんだ。
     どうして犯罪者が泣いて命乞いなんかしているんだ。
     どうして――――
    「……食べていけなかったんだ……ッ、わたっ、私は仕事にあぶれて……ッ、娘を養うには、それしかもう……ッ、」
     ――どうして、だと? ――――“犯罪者も人間だからだろうがッ!!”
     頭が沸騰する。その根源は確かに怒りだ。だがそれは、相手に対してのモノではない。この怒りの矛先は――――
    「――ざけんな……ざけんな、ざけんな、ざッけんなァ!! ――――アアアアアアァァァアアァアァアアアアアアァアァアアアアアアアァアア――――――――――――ッッ!!」
     ――心を砕く絶叫が、黒宇の魂から迸る。或いはそれは、断末魔とでも形容すべき、精神が末期を迎えた瞬間の声だったのかも知れない。


     ――気づくと、部屋には動く影が一つも無くなっていた。
    「……あれ、俺……」
     灰色の天井が見える。灰色に照らし上げる電灯が見える。動きの無い静止画のような世界を、黒宇はぼんやりと眺めていた。
     自分が寝ているとようやく自覚し、黒宇はゆっくりと上体を起こした。
     人が倒れていた。数えると、一、二、三、四人いる。全員、動く気配が無い。
     ――――ずきん、
     一人は首を斬られ、一人は頭が凹み、一人は首が折れ、一人は――頭が砕けて。
     酷く醜い姿を晒す四つの屍骸。その中心で寝ていた自分を見下ろすと、何故だろう、全身が血塗れだった。
     ――――ずきん、
    (……あぁ、何だこれ……)
     一人は首が無く、一人は頭が凹み、一人は首が折れ、一人は頭が砕け。
     ――それは死因だ。もっと重要なのは、彼らの現状。
     屍骸は普く破壊され、死体と呼べる体すら残っていない。単なる“モノ”と化した塵芥が、床一面に散らばっていた。
     惨状――それ以外に形容しようの無い、解体された臓腑と肉片、そして灰色の空間を紅の極彩色で彩る、閉じられた世界。その中心に、黒宇は一人、動き有る者として佇んでいた。
     ――――“ずぎ”、
    (……なるほどな。確かにここは、〈忌徒〉になるためには必要な場所だ)
     何せここは、
     生有る者を完膚なきまでに破壊するための、儀式を行う所なのだろうから。
    (……違うな)

     ここは、――“自身の世界を完膚なきまでに崩壊させるため”の、式場なのだろう。

     ――そうして、黒宇は最終過程を終えた。
     その代償として失ったモノ、それは――――
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