鎖錠の楼閣

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    【神戯】016:忌徒に到る〈其ノ陸〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第16話

    016:忌徒に到る〈其ノ陸〉


     強盗が去った後、銀行は一時的に騒然とした空気に包まれた。
     それは、危機が去った事を察した客達が安堵を覚えたために起こった旋風でも有った。取り残された賊の男の手を業務用の紐で縛り上げ、ひとまずの安全を確保した所で即座に〈神災対策局〉へと連絡を回した。
     黒宇はそれらを客観的に眺めながら、亜鳩の背中を摩っていた。癇癪を起こしたように泣きじゃくる彼女は、すぐに泣き止むような気配は見せなかった。
    「亜鳩、もうあいつらはどっか行っちまったって。だからもう大丈夫だ、安心しろ」
     と宥めてもみるが、まるで効果が無く、亜鳩は黒宇の胸元に顔を擦りつけて、声を嗄らして泣き続けている。
     最早打つ手無し、と言った感じで黒宇がお手上げのポーズをしていると、着物姿の少年が屈み込んで亜鳩の頭を優しく撫でた。
    「律……」
    「――今のが、黒宇の異能、――っすか?」
    「あ? ……あぁ、そうだよ」
    「それじゃあ、亜鳩の異能ってのは……どんな奴なんすか?」
     いつもの剽げた語調ではない、深刻な色を帯びた声音。一瞬、本当に律が喋っているのか疑問に思う程、その声には無機質な色が込められていた。
     黒宇は併し、それを疑念として発露せず、亜鳩の背中を摩りながら応じた。
    「こいつさ、物探しだけは天下一品なんだよ。地図さえ有りゃ、何がどこに在るのか、一発で探し当てちまうんだ。物だけじゃねえ、人も、だぜ?」
    「――くくっ、そうなんすか。そいつァ重畳。早速で悪いんすが、試しに使って貰っちゃくれやせんかね?」
     ふと、今まで見た事の無い陰惨さを、惜し気も無く表層に発露させた笑みを、律が浮かべている事に、黒宇は気づいた。悪魔とか、邪悪とか、そんな概念すら陳腐に思える程、“魔”を強く連想させる笑顔が、そこに在った。
     思わず背筋に冷却した鉄の棒を突っ込まれたような気分になり、全身が寒気に震え上がる。何故だろう。彼が今まで見せてきた一面は、実は彼の仮面だったのでは、と思わせる違和が、黒宇の全身を駆け巡る。
    「試しに使う、って……どうするつもりなんだ?」
    「強盗を追いやす。捕まえるまではしなくても良いっすが、取り敢えず因果応報くらいは味わわせたいっすからねぇ」
    「はぁ!? おまっ、何考えてんだ!? 相手は強盗だぞ!? 殺されちまうぞ!!」
     素っ頓狂な声を上げる黒宇。明らかに間違っているのは律の方だと言うのに、隣に立つ覇一はまるで動じない。寧ろ疲労を感じさせる嘆息を零すだけで、意に介した様子は無かった。
     そんな覇一に向かって、思わず黒宇は声を張り上げる。
    「あんたも止めろよ! 強盗追うなんて馬鹿げてるにも程が過ぎるだろ!!」
    「……車を回して来よう。確か中町の方に、予備の車が待機している筈だったな? 律」
    「ああ、そいやぁそんなの有りやしたね。すっかり失念していやした」
    「……どうやって追うつもりだったんだ、お前は?」
    「モチ、近隣住人の自家用車を無断拝借っすよ♪」
    「…………」
     頭痛を起こしたように、顔を顰めてサングラスを押し上げる覇一。酷く憂鬱になったように映る。
    「お前に車を借りられた宿主がブチギレるのは目に見えてるからな。――五分くれ、回してくる」
    「任せたー」
    「――って、おい! 何考えてんだよお前も!!」
     銀行から出て行く覇一に声を張り上げたが、彼は聞く耳を持たず走り去ってしまう。残された黒宇は茫然自失の態で律へと視線を向ける。
     律は不敵な笑みを浮かべて黒宇を見据えていた。
    「大丈夫っすよ、黒宇。ちょっとした遠ドライヴだと思や良いんすよ。運転は覇一がしてくれやすし」
    「……お前さ、頭おかしいんじゃねえの? 逃げた強盗を追うのは〈神災対策局〉の仕事だろ!? 何だって俺達が追うんだよ!?」
     恫喝染みた怒号で律を射竦めようとする黒宇だったが、彼にはまるで効果が無かった。涼しげな顔で律は応じる。
    「まぁ、ちょっとした試験っすよ。亜鳩の異能が本物かどうか試すにゃあ、丁度良いっすからね」
    「別の方法でも分かるだろ!? ……もう良い、あんたに何言っても無駄な気がしてきた……それに、俺達は本当に安全なんだろうな? もし危害が加わるようなら――」
    「ああ、大丈夫っすよ、その辺は。いざって時は、賊は皆殺しにしやすから」
    「…………」
     本当に、何を考えているのか分からない奴だ、と黒宇は熟々思った。ここまで頭のネジが吹っ飛んだ奴を見るのは生まれて初めてである。
     黒宇は亜鳩の肩を押さえて、無理矢理顔を上げさせ、告げる。
    「亜鳩。人探しの時間だ。……出来るか?」


     きっかり五分後、銀行の前に赤色のオープンカーが横付けされた。
     まだ〈神災対策局〉の面々は来ない。近くに駐在所が在っても、中に誰もいなければ機能しない。毎日のように何かしらの事件が起きる昨今だ、すぐに駆けつけられる局員が確保できていないのだろう。ここまでくると滑稽以外の何物でもない。
    「……派手な車だなぁ、おい。こんな車、初めて見たぞ」
    「そっすか? ま、確かに派手っちゃ派手っすが、屋根が無い方が色々と好都合な時も有りやしてね」
    「グダグダ言ってないで乗るならさっさと乗れ。直に〈神災対策局〉の連中が来るんだ、奴らが仕事を始める前にさっさと遁ずらしよう」
     黒宇は亜鳩の手を引き、後部座席へと乗り込む。手には、銀行のパンフレットなどと一緒に置いてあった、【臥辰】中央地区の地図帳が握られている。こっそりと無断拝借してきたのだった。
     助手席に律が飛び乗ると、早速オープンカーは発進した。重圧を感じる程の急発進に、後部座席の二人は一瞬、息が詰まる想いをする羽目になる。
    「も、もっと静かな走り出しは出来ないのか……!」
    「おっと、済まん。いつもこんな感じなんだ。許してくれ」
    「で、どこに向かったんすか、奴らは? これじゃただのドライヴになりかねやせんぜ」
    「煩えな、少し待てよ! ――亜鳩、奴らがどこに行ったか、分かるか?」
    「う、うん……」
     亜鳩は地図帳に赤く腫らした目を落とす。その指がす――と地図の線をなぞり始め、やがて点を穿つ。
    「……ここ。今も移動してる。凄い速さだと思う」
    「律! ……えーと、ここだ! 一番町って交差点!」
    「――覇一、道を憶えていやすよね?」
    「はいはい、ナヴィが無くても行きますよ俺は」
     片側二車線の道を、すいすいと進んで行くオープンカー。半ば強引な追越が度々行われ、その度に体が右へ左へと揺さ振られ、行った事は無いが、まるで遊園地の遊具を連想させる動きで、車は目的地へと直(ひた)走って行く。
    「……こっちに行ったよ」
     その最中にも、亜鳩の“人探し”は継続中だ。地図帳の上を指が走り、強盗の車を追跡していく。
     それを黒宇が逐一前部座席の二人へ伝え、運転席に座るサングラスの少年が小気味よくハンドルを切っていく。
     ――やがて、地図帳の点と、四人が乗る車の点が、合流する地点にまで辿り着いた。
    「――見えやしたよ。恐らくはあのバンっすね。ちゃんと信号を守ってる辺り、巧く撒けたとでも思って安心してる事でしょうや」
     表情こそ覗えなかったが、再び例の魔王染みた笑顔を浮かべているのでは、と思える笑声を滲ませる律。
     黒宇が彼にどうするのか問い質そうとする前に律は助手席から立ち上がり、風をマトモに受ける場所で、前方を鋭く見据えて動きを停める。高速度で走っているために強風が彼の着物の袖や裾を煽り立て、青色が靡いて見える。
    「強盗は、家に帰るまでが強盗っすよ、――ど三一(さんピン)が」
     それは流れるような動作だった。両手を着物の胸元に突っ込み、徐に鉄の塊を抜き放つ。
     それが〈水弾銃(すいだんじゅう)〉――正式名称〈空気膜水弾式銃(くうきまくすいだんしきじゅう)〉と呼ばれる代物だと、黒宇は後から知る事になる。
     掌から僅かに飛び出す程の大きさを有する鉄の塊を、まるで自身の手の一部のように軽々と操り、先端――銃身を横に倒して、前方を行くバンへと狙いを付ける。
     銃声なんて在ってないような物だった。ぱしゅっ、と空気の膜に包まれた水の弾丸が射出される音は、殆ど車の走行音に掻き消される。故に黒宇の鼓膜が捉えたのは、前方を走っていたバンのタイヤが突如として破裂する音、それに重なるようにして響いてきたブレーキの音だけだった。続いてバンが横転する音。そしてその映像が黒宇の視界に飛び込んでくる。
     オープンカーの速度が落ち、緩やかにバンの横へ走り寄ると、律が助手席から飛び降りた。バンの中を睥睨するように見下ろすと、晴れやかな笑顔をこちらに向けてきた。
    「ビンゴ、っすね。――さ、じゃ帰りやしょうか。俺らの仕事はこいつらを逮捕する事じゃ有りやせんし」
    「…………あ、あぁ……」
     黒宇は茫然自失の態で、辛うじて掠れる声で応じる事が出来た。
     まるで夢を見ているような気分だった。全身に纏わりついている現実が希釈され過ぎて、虚構の世界と何ら大差無いように思えた。これほど現実離れした現実を見せられると、悪夢との境界線を見誤りそうで怖かった。
     夢でも見ているような気分で、律が助手席へ飛び乗るのを眺めていると、彼は笑顔で振り返ってきた。邪気が無い故に、心の底を掬われるような気分にさせる、不純物の無い純水のような笑みで。
    「二人とも、この街には初めて来たんすよね? 俺らのトコで、働いてみる気は有りやせんか?」
     昼過ぎの、晴れ渡る空の下。オープンカーは多くの風を纏って道を突き進んで行く。
     その問いは、最後の審判だったに違いない。この分水界を見誤れば、何もかもが手遅れになる。――そう、その時は気づかなかった。
     だからこそ、黒宇は――――
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