鎖錠の楼閣

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    【神戯】014:忌徒に到る〈其ノ肆〉【オリジナル小説】

    ■タイトル
    神戯

    ■あらすじ
    「最後の遊戯を始めよう」――世界を滅却した絶対神、〈禍神〉である四人の少年少女が始めたのは、最後の一人になるまで殺し合う遊戯――【神戯】。《神災》に因って世界人口が百分の一にまで衰退した百年後の世界を舞台に紡がれる悪夢の遊戯録。その全容が今、紐解かれる――

    ▼この作品は【鎖錠の楼閣】、【小説家になろう】(http://ncode.syosetu.com/n0899k/)、【ハーメルン】(https://novel.syosetu.org/94282/)、【風雅の戯賊領】(http://huuganogizoku.web.fc2.com/)、【カクヨム】(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881697929)の五ヶ所で多重投稿されております。

    ■キーワード
    R15 残酷な描写あり オリジナル戦記 異能力バトル 冒険 群像劇 狂気 殺し合い/デスゲーム 架空戦記 戦争 外道 超能力 異世界 ダーク 遊戯 バトル エンターテイメント

    ■第14話

    014:忌徒に到る〈其ノ肆〉


     長い道程だった。
    【幅馬】と【臥辰】の間の数十キロの距離を数日掛けて踏破した黒宇は、筋肉痛にこそならなかったものの、確実に疲労が蓄積していた。
     宿には泊まらず、夜は野宿か徹夜で歩き続けるかで過ごし、日中も殆ど休まずに歩き続けた。食事は日に一度、道中で度々見かける店で安価な蕎麦やうどんを頼んで凌いだ。
     亜鳩は一日の殆どを黒宇の背中で過ごし、尽きる事の無い話をし続けた。彼女の紡ぐ話は幻想的な物語が多かった。骸骨の体に人の頭を乗せた外道の勇者が大根を武器に世界を救う物語や、“ゲーム”と言う架空の世界に存在する無数の異能者達がコメディタッチな行動をしながら息詰まる戦闘を繰り広げる物語などなど。共通している事と言えば、どれもハッピーエンドで終わり、どれも明らかに人格がおかしい筈なのに、どこかズレた格好良さを感じさせる事だろうか。
    「ここが……首都、【臥辰】か」
     辿り着いたのは朝と昼の丁度真ん中辺りを差した頃だった。首都の入口も兼ねている市場は姦しい喧騒で溢れ、雑然とした活気に満ちていた。
     明確な門が在る訳ではなく、首都を取り囲むようにして雑然とした集落が点在している。そこから発展した市場が内側に向かって混沌と広がっているのだ。中央に向かうに連れて家々は古い物に移ろっていくが、大きさは外に向かうに従って小さくなる傾向のようだ。
     遥か遠方を見晴らすと巨大な建造物が視界に映り込む。――王の住まう居城、【竜王城】である。その規模は、数キロは離れているであろう市場からでも一望できる程で、恐らく近くまで行けば首が痛くなるような代物だろう。
     白を基調とした荘厳な建物を見て、黒宇は感慨深いため息を零さずにいられなかった。
    「やっと……来たんだな」
     思わず座り込みそうになる足腰を奮い立たせると、隣に立つ亜鳩に聞こえる音声で呟く。
    「まずは銀行、って店に行かなきゃな。端た金と言えど、俺達の全財産なんだ、さっさと納めておこうぜ」
    「…………」
     亜鳩からの返答は無かった。鳴り止む事の無い喧騒が黒宇を包み込み、次第に不安が心中を掻き立てる。
     思わず隣を振り向くと、亜鳩の姿はそこに無かった。――逸(はぐ)れた、と一瞬血の気が引く想いが黒宇の全身を電流のように駆け抜けたが、それもすぐに杞憂に終わる事になる。
     市場の殆どは露店とでも言うべき粗末な小屋で占められ、それらが複雑怪奇に入り組んで店を構えているため、一度逸れたら再会するのは困難を極めるだろう。併も十三歳の小柄な少女を探し出すとなれば殊更に厄介だ。
     ところが黒宇が周囲へ視線を巡らせると、すぐに亜鳩の姿が映り込んだのだ。彼女は露店の一つ――屋根すらない、茣蓙の上に煌びやかな装飾品を拡げている店の前で、ジッと座り込んでいた。
     黒宇は安堵と徒労の混ざった嘆息を零して、亜鳩の隣にまで歩を進める。隣にしゃがみ込んで亜鳩の視線の先に在る品を見定める。
     乳白色の羽を象った首飾りだった。黒宇はその品を手に取り、値札を見てみる。決して高くは無かったが、現状を鑑みれば買うべきではない。
    「気に入ったかい? それはウチの品でも一等上等なモンだぜ、坊ちゃん」
     茣蓙の上で胡坐を掻いて、煙管を咥えていた店主と思しき男が野太い声で話しかけてくる。正直なところ黒宇にはこの手の装飾品に何の価値も見出せなかった。が、即決した。
     ズボンのポケットから、硬貨を数枚取り出し、店主が差し出してきた手の上に叩きつける。
    「毎度~♪」
     ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて硬貨をもぎ取るように掴み、眼前へと持っていて数を数えながら、楽しげに口笛を吹き始める店主の男。
     黒宇は立ち上がって亜鳩に羽の首飾りを手渡す。亜鳩は思わず受け取ってから、戸惑いを隠せない表情で黒宇を見据える。
    「え、これ……」
    「これじゃなかったのか?」
     黒宇は一瞬、見間違えたか、と内心嘆息を零しかけたが、亜鳩がフルフルと首を振ったので安堵する。
    「じゃ、やる」
    「でも……」
    「ここまで文句を言わずに付いてきた報酬だ。それと、話をしてくれた礼も兼ねて、な」
     言って、黒宇は亜鳩に背を向けて歩き始める。市場は混雑こそしていなかったが、複雑に入り組んで迷路のようになっている。亜鳩は慌てて黒宇を見失うまいと駆け出し、背中に追いつく。
    「……ありがと、クロちゃん」
    「気にすんな。頑張った奴は褒められる。それだけだ」
     振り返って、人当たりのいい笑みを浮かべる黒宇。亜鳩も釣られて笑みの形に顔が崩れた。


    【臥辰】は二人の想像以上の大きさを誇っていた。
    【幅馬】と比べるから尚更だが、どこに向かっているのかも定かではなくなる程に道が複雑で、人いきれがする程の人込みで道が埋め尽くされ、度々二人は逸れそうになった。
     が、中央に向かって進んでいる内に徐々に人の数は減っていった。時間的な理由も有るだろうが、貧富の差で生じるのではないかと黒宇は勘繰った。
    【臥辰】外周部付近の人間は、悪く言えば皆、見窄らしい身形の者ばかりだった。それが中央へ向かうに連れて身形の整った人間をよく見るようになる。市場もそうだが、中央から外周部に向かって富裕層から貧困層に移ろっているようだ。
     黒宇も亜鳩も着ている服が薄汚れているため、こんな場所をうろついているとどうしても浮いてしまう。それだけ周囲の人間の格好が綺麗で、見られる視線が妙に痛く突き刺さる。
     やがて昼過ぎになり、亜鳩は勿論、黒宇も空腹を感じつつあった。歩きながら飲食店を探し、出来る事なら安い飯にありつこうと考えていた黒宇は、ここ数日でお馴染みになりつつある麺屋の暖簾を潜る事にした。
    「いらっしゃ……」
     三十代半ば程の給仕の女性が、戸の開く音に条件反射で声を掛けたが、入って来た客の姿を見るや、途端に眉間に皺を寄せ、嫌悪感を剥き出しの顔で、吐き出した言葉を凍結させる。
     客にも同様の反応を示す者が多勢いた。深、と静まり返る店内。鶏がらスープの香ばしい匂いが漂ってきて、二人の空腹を更に増長させる。
     黒宇は店内の人間の露骨な反応に微かな苛立ちを覚えたが、無視して店内へ進んで行こうとすると、給仕の女性が立ちはだかり、汚物でも見るかのような眼差しで黒宇を見下ろした。
    「金は持ってるんだろうね?」
     吐き捨てるかのような台詞に、戸惑いと共に怒りを覚える黒宇。ポケットから硬貨を取り出して見せるが、給仕の女性はそれを見ても動じる事無く、店の奥へと視線を一瞬投げ、すぐに首を振った。
    「あのね、そんな端た金じゃ何も食べられないよ。帰った、帰った」
    「餓鬼だからって嘗めんじゃねえぞ、おばさん。学のねえ俺でも分かる。これだけ金がありゃ、醤油ラーメンが二杯食えるってな」
     売り言葉に買い言葉で応じる黒宇。その台詞を聞いた瞬間、女性は怒りで頭を沸騰させ、「何だって!?」と黒宇に掴みかかる。――が、その前に女性の手を止める者が、両者の間に割って入った。
    「おばさん、給仕が客に手ぇ出しやしたら、終わりっすよ」
    「……誰だい、あんた」
    「俺は一介の客っすよ♪」
     女性の手から守るように黒宇の前へ出てきたのは、黒宇より何歳か年上の少年だった。【臥辰】ではそれなりに見られる青色の着物姿で、少し胸元が肌蹴ており、健康そうな肌が覗える。身長は黒宇よりかなり高いが、百七十は無いだろう。
     少年は女性の手を離さずに、言葉だけを連ねていく。
    「少年も判りやしょう? このおばさんが何を言いたいのか」
    「……俺に飯を食わせたくない、って事だろ」
    「ちょいと違いやすね。――薄汚いネズミが店にいたら、客の心象が悪くなりやしょう?」
     刹那、黒宇は少年へと拳を伸ばしていた。相手は背を向けているから、反応する事すら出来ないだろう一撃は、易々と少年の背中に突き刺さ――――らなかった。
     ぱしっ、と拳を掌で受け止める音が響いた瞬間、黒宇は気づく。女性の手を右手で掴んだまま、左手を背中に回して、見もせずに黒宇の放った拳を受け止めたのだと。
     黒宇があまりの事態に瞠目していると、少年は女性の手を離し、黒宇の拳を握り締めたまま、歩き始めた。引き摺られるようにして黒宇は連行されて行く。
    「ちょッ、てめっ、どこに行くんだよ!? つか離せ!」
    「こんなトコで飯を食っても美味しくありやせんよ、少年。もっと美味いトコを知ってんすよ、そっちに行きやしょうぜ」
    「誰も頼んでねえよ! いいから離せっつってんだろッ!!」
     黒宇がどれだけ力を込めても、まるで万力に締められたかのように、掴まれた手はびくともしなかった。
     そのまま店の外へと連れ出されてしまう黒宇。そこに、着物の少年と似たような上背の、革製の服に身を包んだ少年が立ち塞がっていた。
     革製の服――ノースリーブとパンツ姿で、両手にも同じく革製の手袋が嵌められている。黒宇の手を掴む着物の少年に比べると痩身だが、引き締まった筋肉――或いは冴え渡る刀身のような印象を与える肉付きをしている。鋭角的なサングラスを掛けていて瞳は覗けなかったが、十二分に威圧感を与える風貌をしていた。十代後半の歳に映るが、それ以上と思える雰囲気を醸し出している。
     少年は人差し指と親指でサングラスの両端を掴むようにして持ち上げると、眉間に皺を寄せて、着物の少年に声を掛ける。
    「……律(リツ)。また拾い者か?」
     荘厳さを感じさせる、重たい声。怪訝と疲労の混在した声調は、これが一度や二度の事ではないと物語っていた。
    “律”と呼ばれた着物の少年は、ニコニコと人当たりのいい笑顔をサングラスの少年へと向け、大仰に頷いてみせる。
    「うんにゃ、ちょっとした気紛れっすよ。――覇一(ハイチ)、この辺で四人揃って美味しい飯が食える店を知りやせんか?」
    「――冬坂(ふゆさか)通りにある焼肉専門店はどうだ? 値は少し張るが、あそこのカルビは絶品だ」
    “覇一”と呼ばれたサングラスの少年が、考える素振りも見せずに即答してのける。律はそれに頷き、黒宇を振り返って笑いかける。
    「口直しに一緒に行きやしょうぜ、少年。勿論、覇一持ちでいいっすよ」
    「……てか、何なんだよ手前。何でそんな事をするんだ? 俺とあんたは、今そこで逢ったばかりの――」
    「偶には埋もれた親切心を外に出さなきゃ腐りやす。ま、犬にでも噛まれたと思って付き合って下せぇや。――さ、行きやしょうぜ、少年。あと、そこの少女も」
     笑いかける糸目の少年から微塵も邪気を見出せず、黒宇としてもどうしたものかと悩んだが、――すぐにこれは詐欺師の常套手段なのではと思い込み、更に警戒を露にして亜鳩を庇うように立ち、二人の少年を睨み据える。
    「あんたらの世話になる気は無い。――行くぞ、亜鳩」
    「え? いいの? クロちゃん……」
    「いいんだよ、あんな奴らに構ってる程――」
     ――黒宇のお腹から盛大な音が鳴り響いた。
     通りを歩いている人達が遠目に失笑を浮かべている事に気づき、黒宇は刹那に赤面して歯を食い縛る。どうしてこのタイミングで鳴るんだ、と羞恥と怒りで歯軋りする。もし音源が自分の腹でなかったら、確実に一撃殴っていた。
     臓腑の奏でる演奏を聞き咎めた二人の少年は顔を見合わせ、糸目の少年――律が気さくに話しかけてくる。
    「体は本能に忠実っすからね、気にする事はありやせんよ。俺達が怖いのなら、金だけ渡してやってもいいっすよ?」
    「……お前、それ本気で言ってるのか? どうして今逢ったばかりの見ず知らずの人間に、そんな事が出来る?」
     怪訝と言うより、最早疑念以外の何物も感じる事が出来ない台詞に、流石に黒宇も戸惑いを隠せない。それが心に躊躇が生じる原因となる。
     律は「そうっすねぇ」と明後日の方向に視線を向けると、再び黒宇へと視線を戻す。
    「深い意味はありやせんよ。立てられるフラグは多ければ多い程、物語は面白くなる……それを実践してみただけ、っすかね」
    「……律。多分その言葉は相手に伝わらないと思うぞ」
     呆れたように言葉を掛ける覇一。確かに、黒宇も亜鳩も、律の吐いた台詞がどういう意味なのか理解できていなかった。
     律は唇を歪めて笑みの形を作ると、「くっくっ」と殺した笑声を漏らし、「まぁ、出逢いを大切にしたいだけっすよ」と判り易く説明し直す。
    「……別にあんたを怖いとは思ってねえ。……本当に奢ってくれるのか?」
     疑心暗鬼は徐々に鳴りを潜めていくが、ここで警戒を緩めるべきか悩む黒宇。単なる言葉の応酬だけで相手を信じるに足る存在かを確認するのは難しい。――が、黒宇の中では、律と言う少年は普通に友人として付き合えそうだ、と言う位に親近感が湧きつつあった。
     黒宇の戸惑いがちな態度に対し、律は暗黒な面がちらつく笑みを浮かべて、頷いた。

     この出逢いこそが彼の人生を大きく狂わせる分岐点だとは、現時点で察する事は叶わなかった。
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